二話
キャシー、マリア、ドロシーの登場です。
次話でやっと時間が進みます。
0708 文章の誤字訂正、表現を少々変えました。
北部辺境開拓村―フラグレス―王国北部に位置する開拓村の一つであるが。
村を治めている領主は爵位を持ち、50人規模の小さい村ながらも王国最北端の交易村の一つして重要な役割を持った村である。
そして、領主と村の特異性ゆえにこの村にはある一部の職業の者たちが多く住んでいる。元来冒険者と呼ばれる彼らは、未知なる物と一攫千金を求め数多くの未開の地を踏破し切り開いてきた。
ここ、フレグラスも彼ら冒険者が切り開いたモノなのだ。
故にこの村、その規模に反して彼ら冒険者のための施設がかなり充実していた。
本来開拓村であり、滅多に人が訪れることがない辺境地なのにも関わらず宿屋や冒険者ギルドが存在しているし。治療士の資格を持った人間が在住している治療院なども小さいながらに存在している。
住人たちは経歴を見れば誰も彼もがどこかに冒険者の文字が入った経歴を持っていた。
しかし、本来であれば辺境の地などでまともな知識を持った人間のほうが少ないことから、小さいながらも良い環境で生活できるということで、現在も引退した冒険者等が年に2,3人ほど定住を決めゆっくりと人口が増えていく不思議な村であった。
そのフレグラス村、冒険者達が住まうその特異な村は現在祝福ムードに包まれていた。
彼らの領主であるクォーツ・サフィラスと彼の妻であるメアリィの間に子供が生まれたからだ。
ここ数年、住人たちの間にも何人か子供が生まれており、その出産ブームの最後を飾ったのがクォーツとメアリィの二人であった。
現在二人は村の住人たちに囲まれながら、村の中央に位置する一つの建物に入っていた。
大地を創造し、大地を守護する者たちを奉る場所『神殿』。大本となる『神殿』は一つの都市規模の大きさを持つものだが、その簡易版として二階建ての小ぢんまりとした建物がこの村にある『神殿』であった。
なぜ辺境のこの村に『神殿』が存在するか、実はこの『神殿』も冒険者にとって必要なものなのだ。
観音開きの扉を開け神殿の内部に入っていく二人、その手には一人ずつ子供を抱かれている。
内部は石造りの円柱が等間隔に配置された回廊になっている。
特に司祭などが居る訳ではなく、普段は村の人間たちが当番制で清掃するこの建物。
その回廊を抜けた先には、円柱が四角く正方形に囲んだ小さな小部屋のような空間が存在した。
建物が小さいため、『神殿』に入ったのはクォーツとメアリィ、彼らの手に抱かれたクレハとサクラだけなのだが、何分建物が小さいため入口からも内部の様子が伺うことができる。
『神殿』の入口に集まった村人たちに見守られながら、ゆっくりとした足取りで小部屋に入った彼らの前に円柱の台座の上に置かれた不思議な光を纏った水晶玉が置かれていた。
大の大人が両手で触れても、もうひとりぐらい触れることができそうな大きさを持つ水晶玉。
この水晶玉こそが、彼ら冒険者が必要とする恵みを与えるものであり、辺境の地である冒険者の村フレグラスに『神殿』が存在する理由である。
普段は埃をかぶらぬように台座ごと大きな白い布で覆われているのだが、今は『神殿』内部の小窓から射し込む光によって、キラキラと虹のような鮮やかな色を纏っている。
光を受けてキラキラと乱反射する水晶玉に、二人は腕に抱いた赤子の手をそっと握り水晶玉に触れさせるのだった。
そして、それぞれ彼らの腕の中で安らかな寝息を立てている子供たちが微かに虹の色を纏い輝いた。
「「新しき命に、慈愛と豊穣の加護を…」」
虹の色が消えるとともに、赤子の手を握る二人が目を瞑りそっと言霊を紡ぐ。
『神殿』の外で内部の様子を見ていた住人たちも、目を瞑り右手を拳の形に握り、心臓の上に位置する左胸を軽く叩く独特の拝礼の形を取った。
故に彼らは気がつかなかった、水晶玉が赤と青の光を交互に灯しながら狂おしげに瞬いているのを…。
その光景を見ていたのは…、まだ、彼ら村人たちが行なった敬礼の意味すら知らぬ無垢なる者達と、呆然としたように立ち尽くす蒼髪の少女だけだった―――。
昼の鐘が鳴り響く頃、加護を祈願する儀式は無事に終わり村人たちがそれぞれの仕事に戻っていく。
その人ごみの中を、今日の主役である二人を胸に抱いたメアリィとクォーツ、そしてクォーツと同じ蒼髪を持つ少女が連れ添うようにして歩いていた。
その歩く方向は、彼らが住む貴族にしては小ぢんまりとした屋敷ではなく、村の出口。街道へとつながる道に向かっていた。
よく見れば、蒼髪の少女は黒く長いローブの上からフード付きのマントを着ており、背中に獣の革で作られた丈夫な袋、そして彼女の手には不釣合いな無骨な大きな杖を握っていた。
「キャシー、本当にもう行ってしまうのか?まだ二人も生まれたばかりだし、メリアィもまだ精神的に不安定な時期だ…。
お前が居てくれるのは正直助かるんだが…」
村の出口にたどり着き、別れの言葉を言おうとした少女に先制するように、クォーツが妹であり妻のよき理解者でもある蒼髪の少女、キャシーに向けて口を開く。
旅の準備をするために『神殿』に来るのが遅くなったキャシーは、儀式が終わったあとも何やら深く考え込むように黙りこくっているので、クォーツの言葉にはそんな妹を心配してもう少し滞在するように、といった兄の心境も混じっていたのだが…。
「いえ、確かに義姉さんと子供たちも心配なんですが…。先ほど見たこと解明するのが、今の私のやるべき事だと思いますから」
偶然遅れたことによって、狂気のような光景を見てしまったキャシーは、彼らの近くでそれを見守るよりも解明するための手段を探すことを決意していた。
もちろん、それを兄たちには話していないため、可愛い妹を見送る姿勢を取りながらももう少し引きとめようとしていた兄夫婦は頭にクエッションマークを浮かべている。
冒険者よりは研究者的な資質をもち、一旦視野が狭くなるとほかのことを完全に置いてきぼりにする。妹のそんな性格を理解している兄は複雑な表情を浮かべ軽くため息をついてから、一度頭を振って表情を改めると優しく妹の背中を叩いた。
「わかった、わかった…。
今のお前が何に興味を持ったのかはわからんが、思う存分やって来い」
兄の言葉に真剣な表情で頷いて、妹は歩きだそうとする。
「あー…、ちょっと待てキャシー」
怪訝そうに振り向く妹の足を止めると、クォーツは懐から手のひらほどの宝石のような物を取り出した。
中央に六角型にカッティングされた平たい宝石、その周りで二つの五角錐の底辺部を組み合わせて作り上げたような、菱形の花弁がキラキラと太陽の光を反射している。
青の魔石で作られた花の宝玉。
その花を呆けたようにしばらく見つめたキャシーが、不思議そうに顔をかしげる。
「……これは?」
ようやく絞り出した疑問符に満足げに頷いてから、クォーツはキャシーの手の平にそっと花の宝玉を載せる。
「これはサフィラスの華だ、俺たちがフレグラスを作った時に使ったクランの紋章を型どったものでな…。
俺が爵位をもらった時に記念にと王から頂いたものだ。
これがあれば公共機関などにも少しは融通が利くし、俺の魔力を込めておいたから昔の仲間も手を貸してくれると思う。
子供が生まれた今、俺は十年はまともに冒険することもできないだろうしな、今の俺には必要ないものだからお前がもっていてくれ」
領地持ちなのにまだ冒険するつもりなのか?と少し外れたことを考えながら、妹は兄のから華の紋章を受け取った。
本来であれば国から賞与されたもの、軽々しく預けて良いものでは無いのだが。元来そのような理を気にしない冒険者であるクォーツ、そしてその妹であるキャシーは、もちろんそんなことは全く気にせずに快く受け取ったのだった。
「いってらっしゃいキャシー、体を大事にね」
二人の話が終わるのを待っていたメアリィが子供たちを夫に預け、可愛い義妹を抱きしめて別れの言葉をかける。
「うん、義姉さんも体に気をつけて…」
キャシーも義姉の温もりを抱きしめながら、少し目尻に涙を浮かべ彼女を抱きしめ返したのだった。
しばらくして、抱擁を説いた二人は離れ一人は歩き出す。
そして、その姿をクォーツに寄り添ったメアリィと眠り続ける幼い二人が静かに見送ったのだった。
クオーツ達が、この時キャシーが持った興味とやらについて詳しく聞かなかったことを後悔すのは数年が過ぎた後のことである―――。
―――村を見守れる小高い丘の上に建てられた、貴族が住むにしては小さなお屋敷。
生まれたばかりの子供たちの儀式と、旅に出る義妹を見送りに行った屋敷の主たちのために一人の女性が家事に掃除にと走り回っていた。
銀色の髪が踊るように屋敷の中を駆け回り、絹のような白い色を持つ手が繊細な動きであらゆる雑務を片付けていく。
しばらくして、その動きがぴたりと止まった。
テキパキと仕事を片付ける凛とした空気を纏った彼女、その動きを止めたのは彼女がいつも来ている従士の女性用制服。王宮などでは侍女と呼ばれる役職の女性たちが着込む制服の膝あたりを掴む小さな手によってだった。
「どうした?ドロシー」
凛とした雰囲気を緩め、母親の顔になった女性がまだ幼い自分と同じ銀の髪を持つ薄い褐色の少女を抱き上げるようにして目線を合わせる。
ドロシーと呼ばれた少女は、照れてはにかんだような笑顔を浮かべて抱き上げてくれた彼女に抱きついた。
「マリアおかーさん、あのね!今日ね、今日ね…
すごーく綺麗な物を見たの~」
マリアと呼ばれた女性は、手の中で嬉し笑い。
少女が見に行ったであろう『神殿』での光景を一生懸命言葉にしようとする娘の姿に微笑んで優しく少女の銀の髪を梳いてやるのだった。
「そうかそうか~、綺麗だったか~
でもなドロシー、私はまだ仕事が残ってるんだ…。その話を聞くのあとでもいいか?」
興奮して一生懸命先を話そうとする娘をなだめながら、先に仕事を終わらせてしまおうとするマリア。
彼女の言葉にドロシーは少しすねたような顔をする。
「…そうなの?
そっか…、ならマリアおかあさん、私もおかあさんの手伝いする~」
しかし、すぐに破顔して今度はお手伝いをしたいとせがむ娘にマリアは少し苦笑を浮かべてから、彼女に庭でテーブルの飾りつけをする花を摘んできてくれと頼むのだった。
娘が元気に飛び出していくのを優しく見守ったあと。自分の仕事を片付けながら、彼女はポツリと呟いた。
「小さい小さいと思っているうちに…、手伝いをしたいときたか。
子供の成長は早いねぇ。
それとも、下が生まれたから姉のような感情が少し芽生えてきたのかな?」
凛とした雰囲気を取り戻し屋敷中を駆け回る彼女。その表情には、何時もにはない感慨と親離れを始めたのかもしれない娘に対する、少しばかりの寂しさのようなものを垣間見ることが出来た。
なぜか話が遅々として進まない…。というか主人公達が話すどころか寝ているだけの話でした。
この話、主人公たちは欲求に負けてマジ寝です。
そのため、水晶玉を見ているのは子供と、遅れてきたキャシーだけといった話です。
誤字脱字ありましたら報告お願いいたします。




