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兄勇妹魔  作者: アリス法式
序章 転生記
5/11

五話

遅くなりました、今回の話はいろいろ試行錯誤していたため遅くなってしましました。


しかしほとんど書きなおしたから半分に区切ってもこれか...。

一話にしていたら10000を越えていたのでは無いだろうか...。


「さて、コントはこれくらいにしておいて。

そろそろまともに話そうとは思わないのですか?女神様」


「...ごめんなさいサクラたん。

って、あれ?...え?え?私が悪いんですか?」


私が女神様に入れなおして貰った紅茶を飲みながら、咎めるように睨み付けた。

女神様と目があった瞬間、シュンとなった女神様が申し訳なさそうに頭を下げてから、首をかしげる。


「そうですよ、貴女がそんなだから話がまったく進まないのではありませんか。

反省してください」


「え...う、はい、ごめんなさい」


しかし、疑問の余地をはさめないように畳掛けたことによって、結局はうなだれて紅茶をちびちびと飲みながら涙目で俯いているのであった。


「何をしょんぼりとしているのですか?私の兄さまに懸想しているのにまともに顔も見れないようなヘタレな貴女にも、私達を導く大切なお仕事と、何故いきなりこんな滅茶苦茶な時間転生をしなければいけないか、それを懇切丁寧に説明しなければいけない意義があるのですよ!

さあ、空になってしまった私のティーカップに紅茶を継ぎ足してから、その当たりをキリキリと喋るのです!」


「は、はい!わかりました!だから怒らないでください、ぶたないでください!」


私そんな酷いことしましたっけ?まるでDVに怯える幼女のように大の大人が縮こまってプルプル震えているのですが...。

可愛く無いですよ?女神様...。むしろキショ...。


「女神様...。カワイコぶってもダメですよ。

兄さまは女神様の適当な説明で納得してしまっても不思議はありませんけど、私はその辺りしっかり聞かないと理解できない性分なので...」


言外に「逃げようとしても無駄だ」と意思を込めて壮絶な笑顔を浮かべると、流石に泣いているフリをしている子も泣き止みました。

今度は逆に本当に泣きそうになっていますけど、その辺は御愛嬌ということで勘弁してもらいましょう。


「えーと...、あれは今から1億年ほど前の...。

はい、まともに喋ります!喋りますから、そのティーカップ私のお気に入りなので割らないでください!」


一億年~うんぬん当たりで私の手に握っているティーカップが寿命を向かえそうになった事を悟ったのか、女神様はあわててたたずまいを治してまともな表情になる。

そして、彼女は意を決したように口を開いた。


「実は...三千年後の世界に隕石が振るんです!」


「私達に死ねと...?」


「邪悪な神様に支配されて!」


「神様って貴方達のことでしょ...?」


「うねうねの宇宙人が!」


「他から見たら私達も宇宙人よね...」


「悪の大魔王が!」


「私達のことかしら.........?それで、もうネタ切れでしょうか?」


其処まで来て始めて私が冷たい視線を送っていることに気がついたのか、女神様は軽く身震いしてから私の顔から斜め上当たりを凝視して固まった。


「こらこら、サクラ。あんまりシエルをいじめるてやるな...。

泣かれても後が面倒だ」


「そうじゃぞ~。シエルは泣き虫だからな~」


彼女の視線を追って後ろを振り向くと、楽しげに笑う二人の女性が立っていた。

黄金色の獣耳と小柄な身体の後ろについている大きな同色の尻尾で、ワサワサヒクヒクと楽しげに感情表現している白いワンピース姿の幼い少女、カリム・フローレンス。

漆黒の艶やかな髪を後ろに流し、妖しく黄金色に輝く魔色の瞳を持つ妙齢の女性。ローラ・グラリス。

彼女の立ち姿は凛とした雰囲気と圧倒的な威圧感を周囲に放ちながらも、その瞳は楽しげに喜色の色をたたえていた。


「カリムたんに、ローラ姉さま...」


女神様、シエルが嬉しそうに笑顔を浮かべて二人に笑いかける。

彼女の雰囲気も先ほどまでのふざけていた感じが消え、少しだけ真剣実を帯びた表情をしている。


「二人とも、どうしてここに居るのですか?」


「可愛い末の妹と弟が随分と長い旅に出るのに、見送りにも来ない薄情な人間に、おねーさんなったつもりは無いよ」


私が三人の顔を交互に見比べながら二人に尋ねると、悪戯好きそうな微笑を浮かべて返事をしてくるローラ、その横では小さなカリムが精一杯胸を張ってウムウムと頷いている。

そのままローラは立っているのが面倒になったのか、自前の椅子を適当に作り出すと私達の間に陣取って座り込むのであった。

ちなみにカリムはてこてこと私に近づいてきて、私の膝の上にちょこんと座っている。

(何この生き物、カワエエェェェェェ!)

邪魔にならないように、私の膝の上で大きな金色色の尻尾を抱えて座るカリムを、膝から落ちない様に軽く抱え込んでから前を向くと、ニヤニヤ笑っている二組の視線と目があった。


「なんだね~、可愛い乙女達の触れ合い。

癒されるわ~」


「そうですね!百合というのも捨てがたいですね!」


達観したような大人の笑みを浮かべるローラと、腐った微笑を浮かべるシエル。

ローラはともかくシエルは死ねばいいと思う。

と視線に込めて念を送って見たところ、何か感じ取ったのかシエルが一瞬ビクッとした後、キョロキョロ周りを見回してから首をかしげていた。


「それでサクラ、聞きたいことがあるのだろう?私の解る範囲でなら話してやろう」


シエルがビクビクしているのを楽しそうに眺めてから、ローラがこちらに視線を向けて尋ねてきた。

シエルは彼女の言葉を聞きながらも相変わらずキョロキョロと、カリムは私の膝の上で彼女にとっては少し大きめのティーカップを両手で抱えるようにしてくぴくぴと呑んでいる。

私はカリムの頭を軽く撫でてながら、視線の先をローラに向けると彼女の先ほどの言葉に甘えて口を開いた。

彼女達に聞きたかった一つの疑問、何よりも大きく心に残る一文の意味するところを聞き出すために。


「...それでは御三方に訊ねたいのですが、なぜ私達は『三千年後』にいかなければならないのでしょうか?」


シエルは私と視線が合わないように目を逸らし、カリムのつむじは言葉を語らない。

その中で唯一つ、ローラの黄金の瞳が妖しく美しい輝きをもって私を見つめていた。


「ローラ...、私に魔眼は通用しませんよ。

それとも、私に対して魔眼を行使してでも触れたくない話題なのでしょうか?」


彼女の黄金の両目は魔色の瞳、所謂魔眼であった。

意思の弱き者、たとえ彼女と同じ魔の属性を持つ者であろうとも、彼女の魔眼【絶対者の糸繰り器グランドギニョル】を受けてまともに意識を保てる者は少ないであろう。

しかし、格の違いはありはしても私も魔王の系譜を継ぐ者だ、流石にまともに彼女の思考洗脳を受けることは無い。


ローラはと私は視線を会わせたまましばらくにらみ合いを続けた。

先に折れたのはローラだった、魔色の瞳を伏せ代りに憂いの色を浮かべると彼女は重くその口を開いた。


「わからん......」


「......えっ!?」


「解らんのじゃ」


私の疑問の言葉を遮ったのは膝の上に座っているカリムだった。

私に背を向けたまま、カリムは申し訳なさそうに語り始めた。


「見えないのじゃ...。私の目にもシエルの目にもな。

まるで、其処から先が存在しないようにぷっつりと切れておる...こんなこと今まで一度も合ったことは無いのじゃ...。

だからシエルをそんなに攻めないでくれ、何があったのかわからないその時空、あそこに御主等が行くのを決めたのはシエル一人の判断では無いのだからの」


彼女が語るのは到底信じられるものではなかった。

幾層にも積み重なった時空を管理するカリムと、万物の道筋たる運命を管理するシエル。

彼女達が本気になれば見えない未来、理解できない事象は無いはずなのだ。

それが見えないと言う、その事だけでも既にその世界は異常であった。


「サクラたんとクレハ君には本当に申し訳ないと思っています。

でも、私達の力を持ってしても貴女達二人の魂を転生させる以外に、その時空に干渉する方法が存在しないのですよ」


ようやく意を決したのか、シエルも会話に加わってきた。

彼女の受けべている困惑の表情を見れば、彼女達が嘘をついていないことも理解できる。

まあ、彼女達の現状報告事態は嘘であって欲しい信じがたい内容ではあったが。


「わかりました、つまり『三千年後』の世界に存在するであろう異分子を見つけ出し排除して欲しい。

それが今回私達が行く意味ということですね」


私もとりあえずは理解の色を示す。

それが彼女達が開いてくれた心への精一杯の返事になると期待して。


「そうじゃな、それで理解してくれると助かるのじゃ」


「頭のいい子は、おねーさん好きよ」


「わ、私もサクラたんの事...、好きです!!」


それぞれが、優しい笑みを浮かべて私に返事を返してくれた。

若干一名、なぜか頬を朱に染めてオドオドと上目遣いに、シュチュエーション次第では勘違いしそうな言葉を口走っている奴もいたが。

(...いや、冗談ですよね?シエルさん)


「そうと決まればこうしてだらだらと時間を潰してしまうのは、良く無いですね。

準備をいたしましょうか」


私も彼女達に笑いかけてから膝の上からカリムを降ろし、魂の開放の準備に入るのだった―――。




「サクラたん、これは向こうについた後クレハ君にも話しておいて欲しいのですが...」


リラックスした状態で椅子に座り、カリムの記憶の収集を受けていた私に神妙な顔をしたシエルが話しかけてきた。

彼女の声に何か哀しげな色があるのを感じながら、軽く頷き彼女の話の先を促す。


「およそ千回、これが何を意味する数かわかりますか?」


心当たりがなった私は彼女の質問に首を振る。まどろみの中に浸るようにカリムの温かい魔力に包まれている私の思考能力は否応無く低下していたため、考えても何も思い浮かばないのだ。


「この数字は貴女、サクラたんとクレハ君が今まで行ってきた転生の数です。

もう本能的に理解しているかもしれませんが...、きっと今回の転生、しかもかなりの負荷がかかる多層時限の転生によって貴女達の魂が限界を向かえると思います


『転生者』の中でも異常な回数転生をこなしてきた二人ですから、本来であれば神格上がっても不思議では無いくらいなのですが...。」


彼女の話は、私達の仕事の終わりを示すものだった。

確かに彼女のいう通り、私そして彼も理解しているだろう、私達は限界だ。既に限界など超えているかもしれない。

沢山の記憶、原初の記憶今まで会って来た人達。

何千年もの時を生まれ変わり生きながらも、既に覚えているのは薄くおぼろげなかすかな記憶だけ。

私達が本来持って生きていた時代ときの記憶すら既に無く、今帰ってきたばかりの時代ですら、既にカリムの記憶の収集を受けなければいけない有様なのだ。


ならばこそ、私はこの最後の仕事を失敗する気は無い。


神代の歴史の最後に自らの名前を刻み込んで消えるのも悪くない。そんな事を考えていたから。


「貴女達であれば、神となって私達と共に暮らす道も有るのです、確かに『三千年後』も心配ではありますが、貴女達が人として魂を擦り切れさせて消えていく必要は無いのですよ...。


貴女達が犠牲になる必要は無いのですよ!


それでも、お二人は旅だってしまうのですか?」


彼女の言葉は私にとってはとても奇なる物に聞こえた。

いつも自分を省みずに他の人間の幸せばかり願っている優しい女神様の言葉が、とても温かく聞こえたのだった。


「いくよ女神様...、それが私達だから。

使命は果たす、兄さまもきっと同じ想いだから、だから泣かないで...貴女は笑顔で私達を見送ってくれればいいの」


カリムが記憶の収集を終えたと合図をしてくる。

ついでに兄さまの魂にも何か魔法を掛けていたみたいだけど、多分悪い物では無いだろうから気にしないでおく。


「さてと、長居してしまったからもう行くね?」


もう一度三人の顔を見回してから、私は静かにまぶたを閉じた。

(さよならは言わない...、それを言ってしまうと永遠に会えない気がするから)

目を閉じた私の頭にポンと温かい手の平が載せられる。見えないけれどその手の持ち主は魔色の瞳を優しく笑みの形に変えているだろう。


「行っておいで、今度は兄妹仲良くするんだよ...」


私の手の平を誰かが優しく握り締め、温かい体温が伝わってくる。見えないけれどその手の持ち主は寂しげに耳を垂れ尻尾を揺らしていることだろう。


「三千年か...長いのう、まあ、楽しみに待っておるぞ」


最後に私の頭が誰かに抱き締められる。見えないけれど私の顔に温かい雫を落とすその人は哀しげに泣いていることだろう。


「幸せになって...、後悔しないで。

楽し生きて...」


優しい温もりに包まれながら私は意識を手放した。

ああ、私上手く笑えたかな...、それだけが気がかりだ...―――。




「最後まで笑ってたな...」


白いテラス、その中央に置かれたテーブルに付く三人の女性達。

先ほどの言葉を漏らした、魔色の瞳が印象に残る妖艶な女性と、寂しげに耳を垂れた黄金色の少女。

そして、純白の魂を二つ胸に抱き締め涙を流す、どこか儚げな雰囲気を纏った女性。


それぞれが胸に秘める複雑な感情を持て余し、その表情からは余裕の二文字が欠けていた。


「それでは、私も眠りに入ります。カリム、ローラ、後は頼みます」


純白の魂を胸に抱いた女性が涙を拭うこともせず立ち上がる。先ほどまでのおどけたような雰囲気は彼女の中から消えうせ、振り向き歩き出した彼女の足取りは、どこか覚束無いものだった。


「わかった...、転生の準備をしてから我も後を追うからの。お主は眠っておれ...お主も既に限界であろう」


少女の言葉に答えるように軽く片手を上げてから、彼女は静かにテラスから退出して行った。


そしてしばらく後、気を利かせて残された少女達が無為に時間を潰す中、テラスから続く廊下には静かに嗚咽の声が響き続けていた―――。




―――彼女は泣き続ける。


彼らの旅が、忘れられた過去を、始まりのすべてを思い出すことになる辛い旅になると理解していたから。


優しく頑張りやな二人が、誰よりも辛い運命を背負っている事を知っていたから......。


無力な自分を憎み、愛しい少年と少女の姿を思い浮かべながら、彼女はいつまでも涙を流し続けるのであった―――。


ローラとカリムをこの時点で出すかは迷いました。

元々キャラとして確立されていた二人ですが、カリムはプロット版では最終話でちょっとでてきただけ、ローラにいたっては存在すら出てきていませんでした。片鱗らしき物は書いてはいたのですが。

しかし、改編版として話を上手く繋げて行く都合上二人には現状で登場していただきました。

カリムの立ち位置はプロット版と余り返るつもりはありませんが、ローラがこれからどのようにかかわってくるか上手く書けたらなと思っています。


誤字脱字ありましたら報告お願いいたします。

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