三話
無事になんとか二話で纏めることが出来ました。
「コホン...。
それではクレハ君、早速ですけどこの次の転生はどうしましょうか?」
相変わらずBL小説から目を外さない女神様が、なぜか先ほどより真剣な表情で少しばかり頬を朱に染めながら俺に尋ねてきた。
うん、先ほどまでの流れを断ち切りたかったのはよくわかるんだけど、何ですか、濡れ場なんですか?
というか、本当にこの人はまともに会話をする気があるのだろうか。
「...はあ。
次の転生ですか、どこでも構いません女神様にお任せします」
「......え?...本当にどこでもいいのですか?」
どこに送る気だこの女!
なんだその目は、何故期待したようなキラキラとした瞳で手もとのBL小説を凝視しているんだ!
其処に送る気か、目くるめく愛憎の渦の中に俺を投げ込む気なのかぁ!
「女神様...、俺はノーマルです!」
思わず語彙が強くなってしまったが、言葉どおり俺にその気は無い。
流石にそれはやめてくださいと目でも訴えてみると、少し拗ねたような顔をしながら女神様はなお食い下がってきた。
「き、綺麗な人なら駄目ですか!」
何がだよ!
綺麗だろうとショタだろうと濃い系だろと、同性は嫌だ!
というか、そいつと俺を会わせるために貴方は世界に対して何をする気ですか。
「私はこれでも『運命』を司る女神です!クレハ君が望むなら...」
「嫌に決まってるだろうがぁぁぁぁ!」
何故だ、このまま行くと運命の出会いとやらを男相手にしそうな気がするんだが!マジで勘弁してくれ。
「同性が駄目ならクレア君の性別を転換することも出来ますよ!
中身が男なのに、男相手になぜかドキドキしてしまう乙女なクレア君とか、いけますね!」
「いけねえよ!むしろ逝ってしまうわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」―――
―――「はあ、はあ
疲れた、マジで勘弁してください」
あの後、体感時間で一時間ほど同性の愛についてつらつらと語られて死ぬかと思った。
女神様を見ると、どこかやりきったかのようなすっきりとした顔をいらっしゃる。
ただ、俺も疲れはしたが先ほどまでの重い嫌な雰囲気を払拭することは出来ていた。これなら彼女のいう本当の本題にすんなり入ることが出来るだろう。
「さて、おふざけはこのくらいにいたしましょうか」
いや、多分貴方は半分は本気だった。
「何を言っているのですか、全部ですよ...」
相変わらず視線は手元から外さないが、とても綺麗な笑顔を見せる女神様。
って、おい、全部かよ!しかも心を読まれただと!
俺の声にならないツッコミをなぜかドヤ顔で受け流してから、女神様は表情を真剣なものに戻して話し始めた。
「さてクレア君、先ほど貴方に転生について尋ねはしましたが、実は、次行って貰う場所は既に決まっているのですよ。」
「...なら最初から普通に話してください...」
俺はもうツッコミを入れる気力もなく、疲れた表情で紅茶を啜っていることしか出来なかったのだが。
その俺の反応を楽しむかのように一拍おいてから、女神様は爆弾を投下してきたのだった。
「クレア君に行って貰うのは、貴方達が死んだときから『三千年後』!...ぐらい後の時代です」
「は...?、三千年後?あとぐらいって何そのアバウトな設定?」
流石に俺も今の言葉によって思考が止まる。いや、その意味を理解しようするのを脳が拒否している。
彼女の言っていることが理解できない、いや意味は理解できるのだがその意義、その理由がまったく想像出来ないのだ。
「ふふふー、驚いているようですね。
私も驚いています!」
ああ、もう意味がわからない、そしてこの馬鹿がなぜ曲がりなりにも神様をしていのかもわからない。
椅子に腰掛けた状態で頭を抱え思考を放棄した俺を、楽しそうに笑い飛ばしてから女神様は俺の疑問に答えるためか軽く身を乗り出すようにして話し始めた。
俺を笑い飛ばす必要があったのかは、はなはだ疑問だが。
「それではクレア君の疑問に答えちゃいますよ~、まずは何からにしましょうか?
クレア君は何から聞きたいですか?」
まずは先ほどまでとても真剣な気配を出していた上に、わかり易いとまでいかずとも今の会話にあった雰囲気を出していた貴方はどこにいったのかを尋ねたいのだが。
しかし、俺の思考はまったく無視して、女神様は彼女の独断と偏見で編み出された俺の疑問とやらに答え始めたのだった。
「まずは何故三千年後なのか~ですが。
...ぶっちゃけ、私にもわかりません」
この人は本当に神様なのだろうか...。
その考えが俺の表情にありありとでていたためか、女神様はあわてて弁明をしようとしている。
おや?先ほどから手元から視線は動いていないはずなのだが、本当は見えているのだろうか。
「いやいやいや、勿論わかっていますよ。
今のは言葉のあやという奴ですよ」
「なら、さっさと話してください」
それを疲れきった俺がばっさりと切り捨てると、彼女は観念したように口を開く。
「何故『三千年後』なのかですが。
そうですね、昔クレア君には話したことがあると思うのですが、覚えていますか?
転生する時代を決めるのは厳密にいえば私では無く、貴方達を欲する時代が決めているのだと。
...それが答えにはなりませんか。」
もしかしたらこの人は本当にわかっていないのかもしれない。
そして、その会話の記憶も確かに存在した、俺の持つ原初の記憶に近い物の中、もしかした始めて女神様に出会ったときの記憶なのかもしれない。
今と同じように向かい合って言葉をかわす俺と女神様、そして俺の隣に座るあの少女との記憶が。
「わかりました、それが時代の望みなのであれば俺が逆らうわけにもいきません。
...使命はしっかりと果たしますよ」
その懐かしい記憶をしっかりと受け止めて、俺は答えを出した。...経った一つの願いとともに。
「ただ、一つお願いがあるのですが、よろしいでしょうか?」
彼女の肯定の頷きを確認してから、俺は言葉を続ける。
「できれば、今度の転生先は彼女の...。
いや、魔王のいないところに転生してもらえたら嬉しいのですが」
正直な所、俺にとって飛ばされる時代はどうでもいい話しだった。
どこにいこうといつも俺の使命は変わりはしない、その時代の中で己に当たられた役割を果たし、その時代の流れをいい方向へともって行く事。
たとえ、其処がどんな場所であろうとも、やることは変わり無いのだから。
ただ、その中に彼女はいなくてもいいはずだった。
魔王という名の負の権化はこれ以上必要ない、それが俺の正直な気持ちだった。
「願いが適うならば、彼女は幸せでいられる場所に送ってあげてほしいのです。
もしかしたら彼女の幸せは俺の思うものとは違うかもしれない、俺の独りよがりな願いなのかもしれないけど、それでも彼女には幸せになってほしい、そう俺の心が叫ぶんです」
今俺はどんな表情をしているのだろうか、彼女の顔を見る限るとてもでは無いが清清しいと思える表情では無いだろう。
頬を伝うこの熱を考えれば、もしかしたら俺は泣いているのかもしれない。
でもそんなことはどうでもよかった、いま心から願っているこの想いが叶えられるなら。
たとえ『三千年後』の時の中でのたれ死のうとも俺は後悔しないだろう。
なぜかそう、確信できたのだから。
「魔王...サクラちゃんのことですね」
サクラ...、わからない。
何故俺はその名をこんなにも愛しく感じるのだろう、何故全てを捨ててでも守りたいと願うのだろうか。
俺にはそれはわからないだろう。
「わかりました、後は彼女しだいではありますけど。
善処は...してみますよ」
ただ、もう彼女は大丈夫だと思っている。
俺の言葉を聞いて女神様はが笑っていたから、相変わらずBL小説から目を放してはいないが。
それでも綺麗な笑顔を浮かべていた、母親が自らの子供を慈しむようなそんな温かい笑顔を、大丈夫だといい聞かせるているような、そんな温かい笑顔を浮かべていたから。
「ありがとう、信じていますよ女神様(腐)」
「え?ちょっと?クレア君、腐って何ですかぁぁ?」
だから俺も笑顔で行こう、この先には沢山の困難が待ち受けている気がするが。
その全てを笑顔でかいくぐってやろう。
俺にはもう何の憂いも無いのだから。
「それでは行ってきます、女神様(腐)」
「ちょ!先に訂正を腐の訂正を」
何を言ってるんだこの人は、俺は腐通に名前を呼んでいるだけなのに。
そんな事を考えながら、白い椅子に寄りかかるように体をリラックスさせるてゆっくりと目を閉じていく。
思い浮かべるのは身体に何重にも巻きついた糸を解いていく感覚。
一本一本丁寧に魂を解いていく。
その工程を行いながらふと女神様を眺めると、彼女と目があった気がした。
その目を見ると先ほどの記憶を思い出す。
既に過去になっている記憶の中で、まだまともに彼女が視線を合わせてくれていた頃の記憶を、三人で今みたいにお茶を汲みかわした短い時間のことを。
短い時間ではあったが皆が笑っていた儚い記憶の断片を。
そうだな、次ぎに転生した時は、あの時のようにまた三人で紅茶でも飲みたいな。
たわいの無い話をして、ただ、楽しく笑って......そんな何でも無い一時をすごせたら...。
多分次ぎも悔いなくいけるだろうから...―――。
―――それは夢、彼が魂に還る瞬間に見た刹那の夢だった。
「おやすみなさい、クレア君。
貴方の最後の旅に『運命』の加護があらんことを願っています」
それはもう決して適うことの無い夢であったが、彼はそれに気がつくことなく―――魂に還った。
女神と呼ばれる少女は、手に持った本を閉じてゆっくりと椅子から立ち上がると、そのまま対面に置かれていた椅子の上を浮遊する純白の魂を優しく抱き締めた。
「本当に...貴方は最後まで......」
その行為によってその魂から何か思いのようなものを感じたのか、彼女はその瞳を閉じ溢れ出す涙を堪えながら静かに嗚咽を漏らしはじめた。
もう一人の来客、魔王である少女其処に現れるまで、その涙は止まることなく流れ続けていたのだった。
次話はサクラと女神様(腐)
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