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アダミノ  作者: 多加也 草子
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8.戦利品

 アダミノがウィル王の第2妃となって2年が経った。ある日、やはりマーロ国が領地を攻めてきたがために、ウィル王は兵を率いて国境に向かうことになった。もちろん、アダミノも一緒だ。クラレッタはアダミノが遠征に行く度に自分の護身用の短剣をアダミノに預けた。

「これを私に返すために無事に帰ってくるのです」

 クラレッタはいつもそうに言ってアダミノを抱きしめる。

「私はあなたに戦場へ向かわせるために、妃に望んだのではないのですよ。でも、あなたがウィルの近くにいてくださるだけで安心します。どうか、どうか今回も無事に帰ってきてください」

「クラレッタ様、大丈夫です。私は大丈夫です」

 アダミノはそうに言って、クラレッタを安心させた。そして、アダミノは、少し離れたところでじっとアダミノを見つめているドゥルフ王子と目が合った。9歳になったドゥルフ王子はアダミノが妃になってからは、あまり話さなくなってしまっていた。剣の稽古も、今はガースにすべて任されている。アダミノはクラレッタとの挨拶が終わると、ドゥルフ王子の前でお辞儀をした。ドゥルフ王子は下を向いてしまった。

「またしばらく、お城を空けます。クラレッタ様をお願いいたします」

「……わかりました」

 ドゥルフ王子があまりにも恥ずかしそうに下を向いているのがあまりにも可愛らしくて、アダミノはドゥルフ王子を抱き寄せた。

「王子様、帰ってきたらまた、前のように剣のお相手をいたします」

 ドゥルフ王子は少し顔を赤らめて頷いた。


 一行は侵略されたアクイローネ地方に向かった。この2年と言うもの、マーロ国は常に領地を侵略しようとしていたが、今回はいつもと違っていた。大幅に兵士の数が多く、侵略された領地になかなか進めなかった。いろいろな戦略を立てたが、どれも失敗に終わっていた。

 長い夜営にウィル王は疲れていた。ある夜、めずらしくウィル王は弱気になっていた。酒を飲みながら、遠くを見つめていた。

「こんな時、ハッシュとブノフがいたらいい案を考えてくれたのだろうに」

 アダミノは耳を疑い、酌をしようとした手を止めた。

「ウィル様、今、なんとおっしゃりました?」

「ああ、すまん。お前がまだ城にはいなかった遠い時代の家臣たちのことだ。私が無理な侵略をしようとしていた若い頃、戦いに長けた将軍がいたのだ。彼らは侵略してきた敵を見事に追い払う事ができたのだが、逆に私が必要以上に敵国を侵略しようとすると反対してね。ハッシュと言うものは、城を出て行ってしまった。ブノフは私の命令で随分動いてくれたが、フールがグランデ王国を配下に治めようと言う考えを出した時に、ついに反旗を翻した。フールと私は、ブノフを襲った。ブノフは逃げた。私はガースに命じて、逃げたブノフを殺してしまった。その後、ブノフ側に付いた者はすべて処刑した。……あの頃の私は愚かだった。すばらしい将軍がいたのに」

「ウィル様は今はブノフ様をお許しになられるのですか?」

「ああ、許すも何も私が悪かったのだ」

 その時、にわかに野外が騒がしくなった。「奇襲だ!」と言う叫び声と共に兵士が入ってきた。

「申し上げます。ただいまマーロ国の兵士が攻めて来ました。直ちに退却を」

 外に出ると火の付いた矢が雨のように降ってきた。側近のモリスが駆け寄って来た。

「一刻も早くこの場を逃れましょう」

 アダミノとウィル王は馬に跨り、逃げた。兵士はバラバラになってしまった。


 丸1日かけて、北のあの山城まで逃れてきた。体制と整える為、ひとまず山城へ入った。

「ここは……」

 アダミノが入るのに戸惑った。

「どうした? ああ、以前ドゥルフに古くて危険だから入れないと言ったから戸惑っているのか? 大丈夫だ、基礎はしっかりしている。ここは、私がフールと共に年少期を過ごした場所なんだ。あの時はまだここに入れる自信がなかったんだが、今はなんの抵抗もないな。そなたのおかげかもな」

 ウィル王はやわらかい笑顔を見せて、アダミノに手を差し出した。アダミノはその手を取り、城の中へ入った。なんの装飾もない、ひんやりとした城だった。小さな子が過ごすには寂しい場所だ。ウィル王はすぐにモリスに指示を出した。

「モリス、まずはバラバラになった兵士を集めよ。ここで体制を整える。ガースの行方も捜してくれ」

 ウィル王は、休む間もなく次々に指示を出していった。バラバラになった兵士たちが次第に集まり、ガースも到着した。

「良かった、ガース。無事だったか」

「私がいながら、こんなことに。申し訳ございません」

「そなたのせいではない。マーロ国が今回、かなりの策を練ってきているとみた。こちらも、よほど念入りに策を練らないとアクイローネを取り戻すのは難しいかもしれん」

「はい、私もそのように思っています」

 モリスがなんとかバラバラになった兵たちを集めてきてくれて、まずは兵たちに休息を与え、ウィル王達は策を練った。


 山城に入って2日目の早朝であった。ウィル王とアダミノは同じ部屋で寝ていた。アダミノは、何かの気配を感じて目を覚ました。すでに剣先がのど元にあった。視線をウィル王へ移すと、ウィル王にも剣が向けられていた。アダミノは剣先を向けている相手を思い切り蹴り上げた。剣がそれたタイミングで、護身用の短剣を抜いてウィル王の元へ飛んだ。だが、そこまでだった。アダミノは数名の兵士に床へ押さえつけられた。ウィル王に剣を向けていたのはフールだった。

「しばらく振りですな、ウィル様。私が昔使っていた裏通路をあなたに言わなくて良かった。おかげでここまで来れました」

「ああ、しばらくだったな、フール。まだ、マーロ国と組んでいるんだな」

 フールの顔がにやけた。そして、部屋の隅にいた男がウィル王に近づいて来た。

「ええ、この男、この国を良く知っているから、おかげでとても役に立っていますよ」

「ニカか? お前がここまで来るとはな」

 ニカとはマーロ国の王である。ニカは剣を抜き、ウィル王の顔に向けた。そして、床に押し付けられたアダミノの顔にその剣先を移した。

「これは今うわさのお妃様ではないですか。これはお美しい」

 その時だった。部屋の扉が破られ、ガースと数名の兵士が入ってきた。ガースはウィル王に剣を向けている兵士を一瞬で斬った。その瞬間、アダミノはニカの前に立たされた。フールもその後ろに立った。

「道を開けよ。妃を斬るぞ」

 ニカはアダミノの喉元に剣を向けていた。

「フール、アクイローネと一緒にこの妃も我がものにしようぞ」

「アダミノ!」

 ウィル王は叫んで、駆け寄ろうとしたが、ガースが留めた。

「ウィルよ、我らだけでここに来たと思うなよ。丘を越えた所に数万の兵士を待機させている。ウィルよ、アクイローネは諦めよ、それを言いに来たのじゃ。我が領土とする」

 アダミノはここで抵抗しても仕方がないと観念した。

「ニカ様、私は共に行きましょう。もう、今は抵抗しても仕方がありません。ただ、1つだけお願いがあります。王妃様からの預かり物が有ります。それだけ直接、ウィル様にお返ししておきたいのです」

「仕方があるまい。潔さに免じて、直接渡すが良い」

 ニカはその申し出を受けてくれた。アダミノの背中に兵士が剣を向けた状態でウィル王の前に向かった。そして、しっかりと握っていたクラレッタより預かった短剣をウィル王の前に差し出した。ウィル王はそれを見て思わず、アダミノを抱きしめた。背後の兵士が慌てたが、お構いなしであった。

「そなたを取り返すぞ、必ず」

「ご心配ご無用。私、あの2人の首を持って帰ってきますわ」

 一瞬だったが2人は囁き合った。すぐに兵士はアダミノとウィル王を離した。アダミノは、王妃の短剣をウィル王に託した。

「クラレッタ様には、心配ご無用と伝えてください。私はどこでも生きていけますからと」

 そして、ニカとフール、数名のマーロ国の兵士たちと共に、アダミノは山城を出た。味方の兵士たちは、何も出来ないまま、アダミノ達を眺めた。ニカは大きな声で兵士たちに叫んだ。

「戦利品として、アクイローネとこの妃をもらって行くぞ。我が軍の勝利で戦は終わりじゃ」

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