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アダミノ  作者: 多加也 草子
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7.遠征の王妃

 アダミノはとっさに剣を握った。直接、両親を殺害した人間が目の前にいるのだ。ガースは、アダミノの様子に気が付いていなかった。遠くを見て、その時の事を思い出していた。

「俺は、あの時ほど後悔した事はない。戦場で何人もの人を殺した。それに対して悔いてはいない。でも、あの時は……」

 ガースの目に涙が浮かんでいた。アダミノはいつの間にか剣から手を離していた。すべてはウィル王を操っていたフールと言う男のせいなのだ。ガースはその時、両親とティムを殺さなければ、殺されていたのだ。

「なんて言う……」

 アダミノはつぶやいた。

「なんて言う時代だったのでしょう」

「そうだな。ひどい時代だった。今のこの国からは想像がつかないだろう? 俺はこの国を守るため、国境を守ってくる」

「お願いします。ドゥルフ王子は私に任せてください」

 アダミノは、ガースに無理に笑って見せた。この人を殺してはいけないのだ。この国を守るためにも。


 ガースが兵を率いて城を出て行ってから、10日後、マーロ国の軍は撤退したと言う知らせが来た。クラレッタはその間、ずっと祈りを捧げていた。知らせが届いて安心したのか、再び高熱で寝込んでしまった。クラレッタが悪い病気で長くないのではと言う噂がひろまった。それに対して、優しいニナが珍しく怒っていた。

「皆、ひどいね。縁起でもないわ。アダミノ、あんたはそんな話、一緒に賛同するんじゃないよ」

「わかってます。クラレッタ様は少しお疲れが出ただけです」

 二ナとアダミノは寝ずにクラレッタの世話を続け、クラレッタは程なく快復した。 


 その直後、今回の戦争で侵略された国境の強化をする為、ウィル王が視察に向かう事になり、ドゥルフ王子もついて行く事になった。ガースはまだ、国境にいる為、護衛と世話係を兼ねて、アダミノが同行する。ドゥルフ王子ははしゃいでいた。アダミノは何かあってはいけないと緊張をしていた。


「アダミノ、あそこを見て。山の上に城がある」

 視察に向かう一隊は北の国境を進んでいた。アダミノとドゥルフ王子は一緒の馬に跨り、ウィル王の少し後ろを走っていた。そこには、以前、ウィル王が住んでいた山城があった。

「ドゥルフ様、あそこは今は使われていないのですよ」

 ウィル王の側近のモリスが答えた。

「なぜ?」

「もう古いですからね。崩れる可能性があります」

「そうなの」

 ドゥルフ王子は城に行きたそうな顔をしたが、崩れると聞いて諦めたようだった。その日の夜だった。夜営をしている王のテントでドゥルフ王子はウィル王と食事をしていた。アダミノもその席に待機していた。明日にはガースの率いる兵と合流する予定だった。

「ねえ、父上、今日見えた山の上にあった城は、何に使っていたの?」

 ウィル王の表情が少し曇った。

「昔は避暑として使っていたんだ。今は私が立ち入る事を禁じているんだよ」

「どうして? 古くて危ないから?」

「そうだね。古い。それにあそこは国境に近くなってしまって危ないんだ」

「誰もあそこにいないの?」

「そうだ、誰もいない」

 アダミノはウィル王の表情を見て、安心した。初めこそ曇った表情だったが、ドゥルフ王子への受け答えはとても優しい口調だった。


 その日の夜だった。にわかに野外が騒がしくなった。物乞いが、ウィル様に会いたいと騒いでいるようだった。アダミノはドゥルフ王子のすぐ近くに待機した。

「お願いいたします。以前お世話になったものです。ウィル様の今のお姿を少しだけでも拝見したいのです」

「こんな夜中になんだ。会えるわけ無いだろ」

 そんなやりとりが聞こえた。その時だった、幾人もの叫び声が聞こえた。そして、「敵襲だ」と言う声が聞こえた。アダミノはドゥルフ王子を瞬時に抱きかかえ、外に出た。数十人の武装した兵士たちがやってくるところだった。馬に王子を乗せるとアダミノも飛び乗った。そして、王のテントに向かった。側近のモリスがウィル王を馬に乗せるところであった。

「アダミノ様、ウィル様とご一緒に逃げてください。私も少し兵を食い止めて、すぐに参ります」

 モリスは、アダミノに告げると兵の方へ向かった。アダミノはウィル王の馬の後ろに続き、馬を走らせた。突然、物乞いらしき男がウィル王の前に立ちはだかった。

「ウィル様、お久しぶりでございます。国外追放された預言者フールが、今、王国を乗っ取りにやってきましたぞ」

 アダミノは大臣の言っていた預言者だと悟った。アダミノは剣を抜き、フールの喉元に突きつけた。

「あの兵はお前の手引きか?」

 フールは答えない。

「あの兵を引かせろ。さもなくば、喉を掻っ切る」

 フールは笑顔を見せた。

「ウィル様と子供と女だけだと油断しちまった。ウィル様、この女の前に跨るお子様はウィル様のお子様ですか? 思い出しますね。あの山城での2人きりの生活を。この女、ウィル様の育ての親のフールを殺すと言っていますが、どうなさいます?」

「フール、マーロの兵を連れてきたのか? このまま引いてくれぬか? 引かぬならばこの者にお前の喉を切ってもらうぞ」

「哀しいことをおっしゃりますな。でも、まさか私が1人でここまで追いかけてきたとは思っていないでしょうな」

 アダミノのすぐ近くにある木の枝がわずかに動いた。アダミノは、フールに剣を向けたまま短剣を抜いて投げた。それと同時に矢がアダミノに飛んできた。フールに向けていた剣で矢を振り払った。短剣を投げた木の影から兵士が出てきて倒れた。アダミノの短剣が胸に刺さっていた。そして、フールがいつの間にかいなくなっていた。

 その後、モリスとガースが兵たちを引き連れてやって来た。ガースは北東の国境でマーロ国の兵が早々に撤退した為、何かあると思った。ウィル王が国境視察に来る事を聞いて、もしやと思い、急いでここまで来たのだそうだ。翌日、視察を中止して一行は城へ戻ってきた。ガースの兵たちは、国境を守る為にしばらくは国境に留まる事になった。


 数日後、今度はモリスから大臣の養女にと言う話が来た。モリスはアダミノを信用していなかったが、今度の事件で一気にアダミノを信用したようだった。アダミノがウィル王を助けた事は民衆にも広がり、アダミノは英雄になっていた。もう、断る事が出来なくなった。アダミノは、馬で逃げている時にウィル王を殺すことも出来たが、それを思いつきもしなかった自分をどうする事もできなかった。アダミノは大臣の養女となり、その後、ウィル王の第2妃として迎えられた。二ナはとても喜んでくれた。


 その後まもなく王の寝室に呼ばれた。

 ウィル王はベッドに腰を掛けていた。アダミノがお辞儀をして、そろそろと近づいた。

「こちらへお掛けなさい」

 ウィル王は立ち上がり、アダミノをベッドに腰掛けさせた。ウィル王は少し離れた椅子へ腰を掛けた。

「クラレッタの意向を大事にしたいと思って、あなたを招いた。ただ、私はあなたが剣を振るうことしか知らないのだ。あなたも私の事をあまり知らないだろう。少し話をしよう」

 アダミノはどうしたものかと下を向きもじもじとしてしまった。

「あなたがそのように下を向いているのを見るのは初めてかもしれないね。いつもまっすぐ前を見ているからね。義父の大臣は優しくしてくれるか?」

「はい、とても親切な方です」

「それは良かった。あなたは両親を亡くされているから、本当の父と思って接すれば良い。私も彼を父と思っている」

「はい、ありがとうございます。……ウィル様、お聞きしたいことがございます」

「なんだ?」

「この前の視察の際に現れたフールとか言う方の事です。どんな方なのでしょうか?」

 ウィル王は少し目を細め、窓の外を見た。

「あなたは城に来て何年になった?」

「3年でございます」

「そうか、では知らないな。フールは預言者で私の育ての父であった。フールの言葉が私の絶対だった。しかし、クラレッタがここに来て、私にいろんな事を教えてくれた。そして、フールの言葉は私を破滅へ追い込む言葉である事に気がついたのだ。私は8年前にフールを国外追放したのだよ。だからフールは私を恨んでいるのさ」

「ウィル様は、フール様を恨んでいるのですか?」

 アダミノはウィル王の胸の内を聞きたかった。ウィル王は言いたくなさそうな苦笑いをした。

「恨んでいると言えば恨んでいる。ただ、恨みだけで片付くほど単純な感情ではないな。愛してもいるし、哀れんでもいる。そして憎いとも思っている」 

 ウィル王は立ち上がり、テーブルの水差しからコップに水を注ぎ、飲み干した。そして、アダミノに真剣な顔を向けた。

「ただ、これだけは決心している。哀れみで彼を国外追放したが、これ以上、この国に少しでも危害を与えるようならば、彼を捕え殺そうと思っている。私は、この国の王で、この国を守る義務があるのだ。そして……、この国を守れるのは、今は私しかいない」

 ウィル王の言葉にアダミノは、復讐すると言う考えを封印する事に決めた。クラレッタが言ったようにウィル王を見守る役目を果たす事にしたのだ。


 しばらくして、再びマーロ国が領地を侵略しようとしていると言う知らせが来た。今度は、大々的な侵略で、ガースの率いる兵だけではとても太刀打ちできないようであった。ウィル王が直接、指揮を執る為に兵を率いて向かうことが決まった。ウィル王はアダミノに鎧を作らせ、一緒に連れて行った。ウィル王が向かって程なくマーロ国は兵を引き上げた。それからは、アダミノはウィル王の遠征にいつも付き添う女剣士として、民衆はアダミノを敬っていった。

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