表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/9

→DKBL004 書いておいた短編を出してみた

挿絵(By みてみん)


【攻め】モブ男子 小田(おだ) エイト

【受け】一軍男子 高倉(たかくら) カナタ

☆実は二人はおなしょー(同じ小学校)だったのです!



 


 カナタは楽しいことしかしたくない。

 部活はどれも興味をひかれないから入らない。

 それよりも、放課後は友達と遊び回っている方が楽しい。


 私立の男子校、金犀(きんせい)学園は寮も併設された学校である。

 だが、寮生活を送っているのは全校生徒の半分ほど。

 残り半分は、カナタのような通い組だ。

 

 基本カナタは寮に入っている生徒とは親しくない。

 放課後の予定が合わないから。


 だから、アイツとも同じクラスだけど、ほとんど話したことはなかった。


「おおい、どういう事だ!?」


 普段からヘラヘラしているカナタが、机を叩いて怒るしぐさに、周りの友達が驚いていた。


「なんでグループ研究の班が、小田とオレの二人だけなんだよ!」


 ちょっと朝までゲームしていて寝坊したから、もういっそ学校をサボった昨日。

 現代国語のグループ研究班が勝手に振り分けられてしまっていた。


 それぞれ三人ほどで固まって班を作った結果、休んだカナタとあぶれたアイツが組まされたのは自然の摂理。


 カナタの相手は、小田エイト。名前しか知らない。

 頭は良いらしくてテストではいつも上位のようだ。

 寮生だから交流もない。席だって離れている。


 派手な見た目と行動で、クラスの中心にいるカナタ。

 休み時間すらも勉強して、常に一人きりの小田エイト。

 二人は完全に陽と陰のようだった。


「なんで誰もオレを入れといてくんなかったんだよお!」


 カナタが憤慨に憤慨を重ね、悪友たちがちょっと引き始めた時、後ろで低い声がした。


「高倉」


「ああ!?」


 怒りに任せて振り返ると、そこには小田エイトが立っていた。

 背、でか! 眼鏡が威圧してくる!

 目の前でぬぼっと立っているエイトに抱いたカナタの感想は、そんな感じだった。


「早速だが、今日の放課後時間はあるか」


「何の用だよ?」


 苛立ちながら聞き返すカナタに向けて、エイトはさらに威圧するようにカナタを見下ろして言った。


「現国の件に決まっているだろう。お前が休んだせいで俺は話し合いが昨日全く出来なかった」


「そうかよ」


「俺達はクラスで一番進行が遅れている。放課後、それを取り戻すぞ」


「イヤだね、オレは放課後は忙し……あれ?」


 ふと周りを見ると、カナタがいつも遊んでいるメンバーが誰一人として残っていなかった。

 おそらくカナタの怒りと、エイトの威圧に逃げ出したのだろう。


「いつもの奴らは、今日はいないようだな」


「ぬぬぬ……」


「遊びに行くのはいつでも出来る。さっさとグループ課題を終わらせるぞ」


 エイトの淡々とした物言いは、何故かカナタを押さえつけるような雰囲気だった。


「くそぉ……」


 こうして、カナタは放課後エイトと共に図書室に向かう羽目になった。



 ◇ ◇ ◇



 放課後、問答無用で図書室に連れて来られたカナタは、エイトによって課題図書を読まされている。

 戦前の文豪が書いた作品だったが、高校生でも読みやすいように編集されていた。

 文章量も長くはなかったので、カナタはエイトに監督されながらも三十分程で読み終わった。


「読み終わったか?」


 数学の問題集を解きながらエイトがそう確認したので、カナタは本を机に置いてふんぞり返った。


「……読んだよ」


「どうだった」


 問題を解く手を止めずにエイトが尋ねる。試すような口調に腹が立ったが、カナタは思ったことを言った。


「訳アリ未亡人が学生に恋するなんて、いつの時代の昼ドラだよ。学生も、未亡人にまんまと欲情しててウケる」


 わざとバカにしたように言ってやったが、思いの外エイトは怒っていなかった。


「うん、ちゃんと要旨を理解出来ているようだ。良かった」


「はあ!? お前は、何様だ?」


 逆にバカにされたような気がして、カナタが声を上げると、図書室にいる全ての人間がカナタを振り向いて睨んだ。


「……」


 その雰囲気に居た堪れないカナタは、罰が悪くなって黙る。

 エイトは溜息を一つ吐いて、問題集をパタンと閉じてから言った。


「図書室はここまでだ、移動するぞ」


「どこに行くんだよ?」


「寮の、俺の部屋だ」


 言われた瞬間、カナタはギクリと肩を震わせる。

 何故か急に緊張してきていた。


「い、一般生って入ってもいいのかよ……?」


 カナタの問いに、エイトは表情を崩さずに、相変わらず淡々と答える。


「入室許可は取ってある。問題ない」


「そうかよ……」


 なんて首尾のいいヤツだ。昨日の今日で、こうなることまで想定してたって言うのか。

 なんとなく有無を言わせないエイトの雰囲気に、カナタは大人しくついて行った。



 ◇ ◇ ◇



 初めて入った学生寮は、知らない匂いが立ち込めていて、カナタの緊張を更に煽る。

 エイトの部屋は二階の角だった。二人部屋のはずだが、ネームプレートには「小田エイト」という文字しかなかった。


「お前、同室のヤツは?」


 カナタが聞くと、エイトはドアノブを握りながら短く答える。


「今は空きだ」


「マジで!? え、寮で一人部屋なんて天国じゃね?」


「そうか?」


 よくわからないと言ったような顔でエイトは首を傾げている。

 オレが絶対寮に入りたくないのは二人部屋だから! それなのにルームメイトがいなかったら、オ〇〇ー出来るじゃん!

 そんなカナタの思考に気づくはずもないエイトは、扉を開けてカナタを促した。


「入れ」


 カナタは部屋に入ってまず一周り見回した。

 二人部屋なだけあって、結構広い。両端にベッド。その横にそれぞれの机とタンスが線対象に置かれている。

 片方はフレームだけなので、エイトのベッドはすぐに分かった。

 まるで店に並んでいるかのように、綺麗に整えられていて、人が寝る姿が想像出来なかった。


「適当に座れ」


 部屋の中央には小さな丸テーブルが置いてあった。クッションなどはない。

 カナタはそのままカーペットの上に胡座をかいた。エイトもその対面に腰を下ろす。


「早速だが、俺はお政はお糸なのではないかと思うんだ」


「は?」


 カナタに読ませた本をいつの間にか借りていたエイトは、それをパラパラとめくりながらそんな事を言った。

 言われたカナタは面食らう。「お政」は作品に出てくるからわかる。「お糸」とは誰だ。


「お糸って誰だよ」


「この作者が、これより前に書いた作品に出てくるヒロインの名前だ。やはり未亡人で幸薄い女性だった」


「ええ? 別の作品のキャラは関係ないだろ?」


 何を言ってるんだ、こいつは。頭が良すぎるのも困る。

 カナタが眉をひそめていると、エイトはそれを意にも介さず続けた。


「お糸もある書生に恋をするのだが、課題の作品と違って全く相手にされず、こっぴどく振られた上に自殺してしまう」


「げ。お前、よくそんなの読んだな」


 ハッピーな結末のアニメやドラマが好きなカナタは、それを聞いただけで気分が悪くなった。

 しかしカナタの様子を気遣うそぶりもなく、エイトは淡々と己の意見を述べた。


「お政も結局は学生とは結ばれない。だが、一応気持ちは互いに通じているし、ラストも自立した女性として描かれている」


「だから?」


「つまり、俺は作者がお糸を幸せに書いてやれなかった後悔を、お政で晴らしたのではないかと考える。それくらい、二つの作品は根幹が似ているんだ」


「へえ……」


 ものすごいことを考えるなあと、カナタは思わず感心してしまった。

 作者に対する深い洞察と、別の作品を持ち出せる知識の豊富さに、素直に凄いと思ってしまったのだ。


「そういう方向でいきたいのだが、いいだろうか」


「いいんじゃねえの、なんかすげえな」


 カナタがそう言うと、エイトは少し照れて俯いた。

 大きな背中が丸くなって、少し可愛いと思ってしまった。


「よし。じゃあ、原稿は俺が作るから、授業での発表はお前がやれ」


「マジで? いいの? オッケーオッケー!」


 楽が出来そうで、カナタは二つ返事で喜んだ。なかなかわかってるな、こいつ、とも思った。

 しかし、そんな楽観視したカナタを軽く睨んでエイトは付け足した。


「発表する前に、原稿をしっかり読んで理解した上でやれよ。リハーサルするからな」


「ええー? めんどくせえな」


「お前なら出来る」


 ……ん?


 今のセリフ、カナタは聞き覚えがあった。

 何か、遠い記憶が呼び覚まされるような気がする。




 少年の声。

 他の友達よりも少しだけ大人びた。

 遠い場所に行ってしまった……



 

「……」


 少しだけ意識が飛んでいた。

 カナタが気づくと、エイトは丸テーブルの上にノートを広げて、一心にペンを走らせていた。


 取り残されて暇になってしまったカナタは、ふとエイトの机を覗き込んだ。

 奥の方に写真立てがある。何故か、それがとても気になった。


 夢中で書いているエイトに気づかれないように、カナタはそっと立ち上がって机の前に向かった。

 写真立てを手にとる。小学生くらいの少年が二人、仲良さそうに笑って写っていた。


 一人は当然エイトだろう。

 そしてもう一人は……


 オレ?


 カナタはもう一度写真の少年を見た。

 急に、記憶が波のように押し寄せる。


「はっちゃん!?」


 思わずその名を呼ぶと、エイトが目を丸くしてこちらを向いた。

 覚えている。その瞳。


「お前、転校してったはっちゃんだったのか!?」


 カナタにとって、一番仲が良かったのは後にも先にもはっちゃんだけだ。

 中学、高校に進んでも、軽く遊んで浅い付き合いの友達ばかり。だから、肝心な場面ではカナタはいつも一人ぼっち。


「思い出した! エイトでハチだから、はっちゃんだ! だよな?」


 カナタはすっかり興奮していて、エイトが立ち上がって接近していたことに気付かなかった。



 

「遅い……」


 大きな影が、カナタの顔にかかる。

 エイトは少し苛立ったような表情でカナタを見つめていた。


「お前は、気付くのが遅すぎる……」


 エイトの大きな手がカナタの頬に触れた。

 その熱が伝わって、カナタの心臓は跳ね上がる。


「はっちゃん……?」


「俺は、いつもお前を見ていたのに」


 そういえば、エイトはカナタがいつもつるんでいるメンバーを知っているようだった。

 二年から同じクラスになったし、話したこともなかったのに。


「本当に、馬鹿なヤツだ……」


 エイトが頬を撫でながら、カナタの唇を覆った。


「んう……ッ!」


 呼吸をなぞるエイトの唇は、手よりも熱かった。

 やば……

 全部、溶けそう……


「思い出したなら、もう容赦はしない」


「う、うえ……?」


 眼鏡の奥の、懐かしい瞳に、カナタは一瞬で囚われた。


「覚悟しろよ、かな……」


「あ──」


 カナタの視界は全てエイトで埋め尽くされて。

 蕩けてひとつになりそうだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
エイトがあまりにもかっこよくなってるから気づかなかったんだな。 でも思い出してくれないのはさみしいですよねぇ。 カナタは責任を取るしかないな(笑)
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ