準備開始です。
「……うっわ、すっごい美味しい。料理もこんなに出来るんだね、新里くん」
「ああ、ほんとびっくりだわ。すげえな新里」
【……あ、ありがとうございます。恐縮です】
翌日、放課後のこと。
中庭の隅にて、次々に称賛をくれるクラスメイト達。疑うわけじゃないけれど、その笑顔を見ると本当にそう思ってくれているようで……ふぅ、良かった。
さて、何のお話かと言うと、僕の作った料理――文化祭の屋台で提供することになっているタコ焼きについてで。
「……ところで、新里くん。ほんとにすごく美味しいんだけど……これって、生地は何を使ってるの? 小麦粉じゃないよね?」
すると、きょとんと首を傾げ尋ねる女子生徒、西条さん。まあ、その疑問はご尤も。実際、小麦粉じゃないわけだし。ともあれ、彼女の問いに答えるべくペンを執り――
【はい、豆腐を使用しております。昨今は年齢性別問わず、健康志向の方が頗る増えているように思いますし。あっ、もちろん小麦粉がご希望の方も多数いると思いますので両方ご用意しますが】
「……へえ。でも、確かに言われてみれば豆腐の味だよね、これ。でも、これって難しいんじゃない? 丸める時とか、すぐ崩れそうだし」
【ああ、確かに最初は少し難しかったですね。ですが、コツさえ掴めばそうでもないですよ】
「そうなんだ。コツってどんな?」
【はい、無我の境地へと入るコツは――】
「コツってそういうこと!?」
すると、僕の問いに目を丸くする西条さん。改めてだけど、コミュ障の僕相手でも表情豊かに接してくれるので本当に助かります。
「……ほぉ、豆腐を使ったタコ焼きか。なんか、新里らしいね」
【……そう、でしょうか?】
「うん。意外なとこ突いてくるのもそうだけど、特に健康面に配慮してる辺りとか」
【あっ、いえそんなたいそうなものでは……ですが、ありがとうございます斎宮さん」
それから、数時間経て。
黄昏に染まる帰り道にて、和やかにやり取りを交わす僕ら。幸い、それぞれの準備の終了時間がほぼ同じだったこともあり、こうして帰路を共にしているわけで。
「……それで、とりあえず今日は仮の衣装を着てみたんだけど……これがまあ、重いのなんの。実際に接客するとなると、果たしてちゃんと動けるかどうか」
【ああ、確かに着るには大変そうですよね、あのような衣装は】
「うん、ほんとに。あーあ、是非とも新里にも着てもらいたいなぁ」
その後も、ほのぼのと会話を交わしつつ歩みを進めていく。うーん、確かに大変そう。まあ、流石に僕が着る機会はないだろうけど。
「……まあ、それはさて措き……もし、もし自由時間が被ったら……その、一緒に回ろ?」
すると、少し躊躇いがちに尋ねる斎宮さん。そんな彼女の言葉が示すように、自由時間が重なる保証は何処にもない。だけど――
【……はい、是非とも。なので、もし良ければ斎宮さんの自由時間が判明したら教えていただけませんか? それで、その時間を少しでも空けてもらえるようクラスメイトにお願いしてみますので】
「……えっ? でも、そんなの悪いよ。新里だけが、あたしの都合に合わせてもらうなんて」
【いえ、お気になさらないでください。僕が、そうしたいだけなので。ただ、僕が斎宮さんと一緒に回りたいだけなので】
「……そっか。うん、ありがと新里。決まったらすぐに教えるね!」
「はい、お願いします!」
そう、笑顔で約束を交わす僕ら。……斎宮さんと、文化祭……うん、今からすっごく楽しみ。




