朝陽の想い
「……そっか、そういうことだったんだ」
【……はい、きっとすごく不安で、心配だったのだと思います】
「……うん、そうだよね。でも、聞いた感じだと今は結構元気なんだよね? 織部さんのおばあちゃん」
【はい、それは織部さんのご様子からも間違いないかと。僕の目など当てにならないかもしれませんが……それでも、もし元気でなければ彼女はもっと辛そうだったはずですから】
「……そっか。うん、それなら良かった。新里が言うなら間違いないだろうし」
「……あ、いえ、そんな……」
翌日、放課後にて。
空き教室にて、心配そうな――それでも、ホッと安堵の表情を浮かべる斎宮さん。もちろん、めっきりここに来なくなっていた織部さんの件で。
「……それで、これからどうするの? 新里」
【そうですね、お元気とはいえ退院まではまだ日にちがあるようなので、その間は定期的にお見舞いに伺うつもりです。もし良ければ、斎宮さんもご一緒にいかがですか?】
「……うーん、ごめんだけどあたしは止めとく。織部さんはともかく、おばあちゃんのことは全然知らないしね。きっと相手も困っちゃうよ」
【……そう、ですか。いえ、謝る必要などありません】
その後、続けてそんなやり取りを交わす。……うーん、斎宮さんなら大丈夫だと思うんだけど……まあ、強制は出来ないしね。でも、もし来たくなったらいつでも――
(……まあ、仕方ないか。事情が事情だし)
「……ん?」
「ううん、何でもない。織部さんに宜しく言っておいて」
「……へっ、あ、はい……」
すると、ふと届いた微かな声。仕方ない、とはいったい……うん、まあいいか。言いたくなったら言ってくれるだろうし。
「おや、今日も来てくれたんだね朝陽くん。忙しいだろうに、ありがとね」
【あっ、いえ大丈夫です。24時間365日暇ですので!】
「いやそんなわけないでしょう」
それから、二週間ほど経て。
暑さも少し和らいできた、10月上旬のある放課後のこと。
病室にて、お馴染みの優しい微笑で感謝を告げてくれるおばあちゃんに少し慌てて答える僕。ちなみに、その後のツッコミは隣にいる織部さんで……うん、言うまでもないか。
ともあれ、斎宮さんに伝えたように定期的に――週二回ほどのペースで、こうして織部さんと共におばあちゃんの下を訪れているわけで。
「――あ、すみません。少し席を外しますね。友人から連絡が来ていたようなので」
「…………へっ?」
「いやなんですかその失礼極まる反応は。以前にも言いましたが友人くらいいますよ、朝陽先輩と違って」
その後、暫くして。
そう、不服そうに言い病室を後にする織部さん。……うん、申し訳ない。でも、決していないと思っているわけではなくてですね……あと、僕にもいますよ? きっとご存知かと思いますが。
「……ねえ、朝陽くん。海紗凪から聞いているとは思うけど、もう数日で退院出来そうだよ。予定よりも随分と早く良くなったので、お医者さんも驚いていてね。これも、朝陽くんが何度も来てくれたお陰……だから、改めてありがとうね、朝陽くん」
【……へっ? あ、いえそんな僕なんてなにも! ……ですが、本当に良かったです】
すると、ややあって少し改まった様子で謝意を告げてくれるおばあちゃん。だけど、当然のこと僕のお陰なんかじゃない。お医者さん達が頑張ってくれて、織部さんが懸命に支えて……そして、何よりおばあちゃん自身が強く気持ちを持って治そうと努めた結果で……うん、本当に良かった。
その後も、暫しおばあちゃんと二人で会話を交わす。ところで……今更ながら、知り合いのご家族と二人でも気まずくならないなんて、僕としてはきっと彼女くらいで――
「……ねえ、朝陽くん。海紗凪のこと、好きかい?」
「…………へっ?」
そんな感慨の最中、不意に届いた思わぬ問い。織部さんのことを、好き……もちろん、答は肯定――悩む要素なんて、何一つない。だけど、ここで聞かれているのはきっと――
「……ごめんねえ、朝陽くん。私が口を出すことでないのは分かってるんだけど……それでも、思ってしまうんだよ。海紗凪と朝陽くんが、手を取り合い生きてくれたら、こんなに幸せなことはない、とね」
「……おばあちゃん」
そう、柔らかな微笑で告げるおばあちゃん。今求められているのは、紛れもなく本音。ならば、僕が答えるべきは――
【…………あの、おばあちゃん……僕は――】




