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声にならない想いを乗せて  作者: 暦海


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善処します?

「――あら、朝陽あさひくん。久しぶりだねえ。それから、ありがとうね。いつも海紗凪みさなと仲良くしてくれて」

【いえ、おばあちゃん。僕の方こそ、いつも海紗凪さんに仲良くして頂いてありがたく嬉しく思っています】



 翌日、放課後にて。

 そう、柔らかな微笑で謝意を告げてくれるご年配の女性。もはや説明不要かとも思うけど、織部おりべさんのおばあちゃんで。


 さて、今いるのは昨日訪れた総合病院の一室。ご病気で入院なさっている彼女を、織部さんと共にこうして訪れているわけで。





『……その、宜しければ一緒におばあちゃんに会っていただきたくて』



 昨日、帰り道にて織部さんが告げた言葉。話によると、二ヶ月以上前――七月上旬、おばあちゃんがご病気にて入院なさったとのこと。そして、それは彼女が空き教室に来なくなった時期とピッタリ重なっていて。


 そして、僕の連絡に応じなかったのは――その時の心の状態で応じたら、いっそう僕を心配させてしまうと考えたとのことで。それはまあ、何とも彼女らしい――暖かな思い遣りに溢れた、優しい彼女らしい考えで。……だけど――





「――本日はありがとうございます、朝陽先輩。おばあちゃんも、すごく喜んでいましたし」

【いえ、織部さん。少しでもお役に立てたのなら幸いです】



 それから、一時間半ほど経て。

 茜に染まる帰り道を、穏やかな雰囲気で話しつつ歩いて行く僕ら。すごく、は流石に気を遣って言ってくれていると思うけど……それでも、少しでも喜んでくれていたら良いな。


 それから、ご病気という状態だけに素直に喜べはしないけど……それでも、久方ぶりにお会い出来て良かったと思う。……まあ、特別な理由がなければ会っちゃいけないこともないのだろうけど。



「ところで、朝陽先輩はどのように過ごされていたのですか? 夏休み」

【……えっと、そうですね。基本的にはずっとアルバイトか勉強ですね】

「ふふっ、何とも先輩らしい過ごし方ですね。……それで、斎宮さいみや先輩とは……」

【……ああ、斎宮さんは夏休み中ほとんどお父さまのご実家に帰っ――】

「よしナイスです仏様」

「ナイスです!?」



 すると、僕の説明に被さる形でぐっと拳を握りそんなことを言う織部さん。いやナイスってなに!? あと、一緒に夏祭りに行ったことも言おうとしたんだけど……でも、まあいっか。途切れちゃったし、改めて言うことでもないと思うし……それに、今は――



【……あの、織部さん。どうか、あのような寂しいことはもう言わないでいただけたらと……】

「…………へっ?」


 すると、きょとんと目を見開き呟く織部さん。……まあ、そうなるよね。何の脈絡もなかったし。だけど――



【……僕を心配させてしまうから連絡に応じなかった、というお話のことです。そのお気持ちが、理解できないわけではありません。ですが……僕は、貴女が悲しいなら、辛いなら、苦しいなら力になりたい。もちろん、僕に出来ることなど高が知れているでしょうけれど……】

「……朝陽先輩」



 そう、じっとを見つめ告げる。単なる思い上がりかもしれない。気を遣ってそう言ってくれただけで、本当はただ僕の連絡に応じる気分になれなかっただけかもしれない。……それでも、本当に僕に心配させまいと一人で苦痛を抱え込んでいたのなら、もうそんなことは――



(……ほんと、残酷ですよ……その優しさは)



「……へっ?」

「いえ、何でもないです。そして、そこまで心配していただかなくとも大丈夫ですよ。だって、結局はこうしてお話ししたわけですし。あの日……病院で出会でくわした日、私は適当にごまかすことも出来たはずなのに。


 ……だから、きっと口実がほしかっただけなんです。きっと甚く心配なさるであろう朝陽先輩に、それでも話さざるを得ない口実が。本当は、ずっと先輩にお話ししたい……聞いてほしいと思っていたんです。そして、あの日――これ幸いと、さっそく先輩に事情をご説明した次第です。だから……改めてありがとうございます、朝陽先輩」

「…………織部さん」



 そう、柔らかに微笑み話す織部さん。きっと、まだ不安はあると思う。彼女がおばあちゃんをどれほど大切に想っているか、僕も少しくらいは知っているつもり……だから――



【……ありがとうございます、織部さん】

「……へっ?」

【……織部さんにとって、おばあちゃんはとても大切な人。おばあちゃんのご病気に、貴女がどれほど心を痛めていたか……僕なんかでも、少しくらいは理解できるつもりです。


 そして、それでも僕を心配し……そして、僕に話してくれた。貴女にとってこの上もなく大切なことを、こうして僕に話してくれた。不謹慎かとは思いますが、そのことが僕はとても嬉しくて。だから……】


「……こちらこそ、ありがとうございます。織部さん」



 そう、を見つめ告げる。すると、きょとんとした後ほどなく少し可笑しそうに微笑む織部さん。そして――


「――ところで、朝陽先輩。ずっと、ずっと思っていたのですが――どうして、私に対しては呼んでくださらないのでしょう?」

「……へっ? ……あ、えっと……」



 卒然、思いも掛けない言葉が届く。ついさっきまでとは打って変わって不満を露にする彼女に戸惑うも、ややあって理解できて……でも、うん、流石に直接そうお呼びするのは恥ずかしいというか……まあ、その……善処します。




 


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