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声にならない想いを乗せて  作者: 暦海


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久方ぶりの会話

「…………ふぅ」



 それから、およそ一週間経た放課後のこと。

 今一度、深く呼吸を整える。今、僕がいるのは地元の総合病院――その三階に在する、清潔感漂う木製扉の前で。そして、ネームプレートには真島まじま武臣たけおみ――中学三年生の頃、お世話になった担任の先生のお名前が記されていて。



『――ねえ朝陽あさひ。最近、友達に聞いたんだけど……真島先生、最近ご病気で入院なさってるんだって。優しい先生だったし、心配よね』



 数日前、食卓にて母に告げられた言葉。そして、母の言うように僕も心配で。聞いた話だと、大きな病気ではないらしいけど、それでも――



 ともあれ……うん、やっぱり緊張する。いきなり訪れてご迷惑じゃないかな、そもそも僕のこと覚えてくれてるかな――そんな様々な不安が脳裏を過る。でも、ここまで来て引き返すわけにもいかないし……それに、やっぱり心配だし。そういうわけで、少し震える手でそっと扉を叩き――





【――失礼しました。改めてですがお大事になさってください、真島先生】

「うん、ありがとう朝陽くん」



 それから、およそ二時間後。

 扉の前で一礼し、ゆっくりと病室を後にする。つい話し込んでしまったけど……大丈夫かな? 気にしないでと言ってはくれたけど、お身体に障ってないかな?


 でも……言い訳になっちゃうけど、それくらい楽しい時間で。当時と変わらず白髪、そしてスクエア型の眼鏡が似合う知的な紳士という印象で、これまた当時と変わらず穏やかな微笑で接してくれて。そして、こんな地味な――それも、一年半ほども顔を合わせていない僕のことをすぐに朝陽ぼくだと認識してくださって。それで、彼がご病気であることをすっかり忘れ話し込んでしまったわけで。


 そんな充実感と共に、静謐な廊下をゆっくりと歩いて行く。……もちろん、一日でも早く退院するに越したことはない。だけど……やっぱり、あと一度だけでもお伺い出来れば――



「…………え?」



 心地好く巡っていた思考が、ピタリと止まる。と言うのも……卒然、思いも寄らない光景を目にしたから。それは、ちょうど目の前の病室から一人の少女が出てくる光景で。すると、彼女も僕に気付いたようで、茫然とした表情かおでゆっくりと口を開き――



「……朝陽、先輩……」





「……本当に申し訳ありません、朝陽先輩。心配、してくださってましたよね?」

【あっ、いえお気になさらず! その、もちろん心配はしていましたが……ですが、それは僕の勝手にしていたことで、織部おりべさんが気にすることではないので】

「……謝罪をした手前、こう申すのもどうかとは思いますが……どうか、そんな寂しいことを言わないでください。朝陽先輩が心配してくれて、私はとても嬉しいのですから」

【……はい、織部さんがそう仰るなら】



 それから、ほどなくして。

 黄昏に染まる帰り道、穏やかな微笑でそう口にする織部さん。久方ぶりの彼女との会話らしい会話に安堵――そして、暖かな熱が波のように胸いっぱいに広がっていくのを感じて。



 ……ただ、それはそれとして――



【……あの、織部さん。その、どうして……】


 そう、問いにもなっていない問いを掛ける。それでも、流れからも伝わってはいると思う。どうして、一度もあの教室に来てくれなかったのか……どうして、夏休みの間一度も連絡に応じてくれなかったのか――もちろん、彼女に事情があることは分かる。自身が病気でないというのは先ほど聞いたので、そこは本当に安堵なんだけど……きっと、その事情に今日のことが何かしらの関係が――



「……あの、朝陽先輩。卒然ですが……明日、お時間ありますか?」

「…………へっ?」


 



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