二人の思い
「――今日は楽しかったな、新里」
【……はい、本当に楽しくて、時間があっという間でした】
それから、ほどなくして。
茜に染まる帰り道にて、隣を歩く日坂くんとそんなやり取りを交わす。……うん、ほんとに楽しかった。社交辞令なんかじゃなく、また機会があれば是非ともまたこの三人で――
そんな感慨の最中、閑散とした住宅街の交差点に到着する僕ら。日坂くんと僕は基本的に反対方向なので、名残惜しくもここでお別れすることに――
「……やっぱ、知り合いだったんだな……お前ら」
すると、ふと立ち止まり仄かな微笑で告げる日坂くん。やっぱ、という言葉からも……うん、やっぱり分かってたんだね。まあ、旧知でもなければ斎宮さんと僕が一緒にいることに説明がつかないもんね。……ただ、それはともあれ――
【……その、ごめんなさい日坂くん】
「……いや、なんで謝んだよ」
そう伝えるも、呆れたように微笑む日坂くん。……うん、謝られても困るよね。ただ、黙っていたことに勝手に申し訳なさを覚えて――
「……なあ、新里。今、少し時間あるか?」
「…………へっ?」
「――悪いな、付き合わせちまって」
【ああ、いえそんな! 悪いなんて、滅相もないです】
それから、数分経て。
そう、僅かに微笑み告げる日坂くんに慌てて否定の意を示す僕。そんな僕らがいるのは、先ほどの交差点から少し歩いたところにある小さな公園――その隅の方にある木組みのベンチに、二人並んで腰掛けているわけで。
……えっと、何か話した方が良いかな? まあ、話すといっても例によって筆記なのだけど……ただ、それはともあれ、いつもながら僕の方から提供できるネタなんて無――
「――なあ、新里。良かったら、話してくれないか? お前と、夏乃のこと」
「…………日坂くん」
すると、ふとそう口にする日坂くん。斎宮さんと、僕のこと――それは、間違いなく僕らの過去についてのことだろう。……まあ、それは気になるよね。でも、きっと彼にとって面白い話では――
「……心配すんな。別に、問い詰めようってわけじゃねえから。嫌なら、無理に話すこともねえし。ただ、お前の話も聞いておきたいと思ったんだ。もう随分と前な気もするが、お前は俺の話を聞いてくれた。……実はな、あの時けっこう楽になれたんだよ。情けなくて、誰にも言えないようなことを……お前は、馬鹿にもせず笑いもせず、ただただ真剣に聞いてくれた。だから……今更だがありがとな、新里」
「……いえ、そんな……」
そう、柔らかに微笑み告げる日坂くん。でも、感謝をしてもらえるようなことなんて何もしていない。僕が、聞きたいと思っただけ。だから、感謝をしてもらえるようなことなんて、何も……だけど――
【……分かりました、日坂くん。僕が、斎宮さんと最初に――】
「…………そっか」
僕の話を聞き終えた後、穏やかに微笑みそう口にする日坂くん。きっと、彼にとって気分の良い話ではなかったと思うのだけど……それでも、こういう表情を見せてくれる日坂くんはやっぱり優しい。
「……話してくれてありがとな、新里。お前のこと、少しは知れた気がするわ」
「あ、いえそんな……」
すると、徐に立ち上がり感謝を――なんと、感謝まで告げてくれる日坂くん。……いや、むしろ感謝するのは僕の方で――
「……なあ、新里」
そんな思考の最中、ふとそう口にする日坂くん。そして、少し歩みを進め――
「……お前にとっては、そうじゃないのかもしれない。だけど――俺は、お前をライバルだと思ってるよ」




