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声にならない想いを乗せて  作者: 暦海


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よもやお忘れ?

「――ところで、朝陽あさひ先輩。一つ、お伺いしたいことがあるのですが」

【……えっと、どうかなさいましたか織部おりべさん】



 それから、一週間ほど経た放課後のこと。

 そう、何処か不満の窺える表情で前置きをする織部さん。今、僕らがいるのは体育館の裏。何やら話があるとのことで、放課後ここに来てほしいとの旨が記載されたメモ用紙が今朝、僕の靴箱に入っていたりして。


 さて、こういう状況であれば真っ先に思い浮かびそうなのはやはり《《あの展開》》なのだろうけど……だけど、それはないと断言して差し支えない。それは、僕なんかを相手にそれはないということもあるけど、それ以上に……まあ、普通に思い当たる節があって。そして、それは今彼女が浮かべている表情からもきっと――



「――よもや、お忘れではないですよね? あのお二人を復縁させるという、例の約束を」




【………………ええ、もちろんですとも織部さん】

「……なんか、今ものすごく気になる間があったんですけど?」


 そう、訝しげな視線で問う織部さん。……いや、忘れていたわけじゃないんですよ? ただ、約束それを実行できていたかというと懐疑て……いや、普通にできてなかったとは思うけども。……そして、その理由はきっと――



「――まあ、本日はそのことを糾弾するためにお呼びしたわけではないのですが」

「……へっ?」


 すると、ふっと微笑みそう口にする織部さん。……あれ、そうなの? まあ、僕としては助かるけども。だけど……本日は、ということはやはりいつかは糾弾されるのかな――なんて思うのは、やはり考え過ぎだろうか。


 ともあれ、答えの出ない思考を巡らす僕に再び微笑みかける織部さん。そして――



「――卒然ですが、付き合って頂けませんか? 朝陽先輩」





「――それにしても残念です。朝陽先輩が引っ掛かってくれなくて」

【まあ、僕ですからね。よもや、そういう意味でのお付き合いを求められる可能性など万に一つ――いえ、億に一つもありませんし】

「……うん、やっぱり先輩ですね。まあ、ある意味安心ではあるのですが」



 それから、ほどなくして。

 数多の人が行き交う道すがら、そんなやり取りを交わしつつ歩みを進める僕ら。ちなみに、引っ掛かってくれないとは、先ほどの織部さんの発言のことで。



【……えっと……どこに、ですか?】



 付き合って頂けませんか――そんな彼女の問いに対する、僕の返答がこれで。もちろん、この言葉が状況や間柄によってはある特殊な意味合いを持つこともあるだろう。だけど……まあ、相手は僕なのでその可能性は皆無と考えて差し支えないだろう。なので、普通にどこか行くのに一緒に来てほしいのだと解釈し、この返答を伝えたわけで。そして、やはりこの解釈で正しかっ――



(……全く、難儀な人ですね)


「……ん?」

「……いえ、何でもないです。それより――」


 ふと、微かに届いた言葉。すると、ポツリと声を洩らす僕に仄かな微笑でそう口にする織部さん。そして――



「――さて、到着ですよ朝陽先輩」





「……ここ、ですか……?」

「ええ、ご不満ですか?」

「ああ、いえ!」【……その、僕は大好きな場所ですので】

「ふふっ、それなら良かったです」



 少し驚きつつ尋ねてみると、何処か悪戯いたずらっぽく尋ね返す織部さん。僕の返答などおおかた予想できていたような、そんな印象さえ窺える微笑で。


 ……まあ、尋ねてみたものの、ここに来た時点――と言うか、ここまでの経路で何となく察してはいた。そんな(どんな?)僕らの目の前には、柔らかな陽を受けキラキラと輝く穏やかな水面――京都市の南北を流れる淀川水系の一級河川、鴨川の水面で。



「ところで、朝陽先輩はこういう場所によく来られますか?」

【そうですね、よく来ると言って良いのか定かでないのですが、週に一度くらいは鴨川ここを訪れているかと思います。この美しく穏やかな川を眺めるだけで落ち着きますし、微風そよかぜが涼しく夏でも心地好いですし】

「ふふっ、そうですね先輩」



 ともあれ、比較的スペースのあった土手に腰を下ろしそんなやり取りを交わす僕ら。……うん、今日も微風かぜが気持ち良い。いっそ、このまま寝転がって眠ってしまいたく――


「――ところで、朝陽先輩。さっと見渡す限り、カップルのような方々がちらほら見受けられますが……ひょっとして、私達もそのように映ってるんですかね?」

【……っ!! すみません、僕としたことが……こんなことなら、常日頃からあさいーセットを携えておくべきでし――】

「うん、私は何を謝られているのでしょう?」


 バッと起き上がり答える僕に、呆れたような口調でそう口にする織部さん。……いや、だってほら僕なんかとそういう関係だと思われるのは甚だ申し訳ないし、あさいーちゃんになれば何とかごまかせ……いや、手遅れかな?



「そう言えば、朝陽先輩。今更ではありますが、格好良かったですよ、最後のリレー」

「……へっ? あ、ありがとうございます……」



 それから暫し閑談に花を咲かせた後、ふと称賛の言葉をくれる織部さん。うん、それはもちろん嬉しいのだけど……でも、そう口にする彼女の表情は何処か――



「……すみません、本当は当日――リレーが終わってすぐお伝えしたかったのですが……どうしても、些か以上に抵抗が生じてしまいまして」

「あ、いえお気になさらず!」【……その、いつお伝え頂けても、とても嬉しいですし……】


 すると、少し俯きつつ仄かな微笑でそう口にする織部さん。だけど、当然ながら彼女が謝る必要はどこにもない。……ただ、僕が気になったのは――



「――それにしても、あの日は注目の的でしたね朝陽先輩。あの障害物競走といい……ふふっ」

【あれ、結局イジられてます?】


 そんな思考に沈む最中さなか、ふと可笑しそうに微笑みそう口にする織部さん。あれ、結局イジられてます? ……まあ、良いんだけどね。ついさっきよりは楽しそうにしてくれてるし。






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