体育祭を終えて
「――改めてだけど、お疲れさま。新里」
【ありがとうございます、斎宮さん。斎宮さんこそ、大変お疲れさまです。そして――】
それから、数時間経て。
茜空の帰り道にて、お互いを労い合う僕ら。このような時間になったのは、斎宮さんも僕もそれぞれのチームで行われていたお疲れ会(?)のようなものに参加していたから。尤も、平時のことながら僕はほとんど話せなかったけど……それでも、一ヶ月ほど一緒に頑張って来た皆と喜びを分かち合う時間はとても楽しかった。きっとあの後――あるいはまた後日、二次会のようなものを開く生徒達もいるのだろう。
ともあれ、丁度同じくらいの時間に終わった僕らはいつもの通り帰路を共にしていて。そして、先ほどの続きをお伝えすべく再び筆を執り――
【――そして、改めて優勝おめでとうございます、斎宮さん】
そう、改めて伝える。すると――
「うん、ありがとう新里。でも、お世辞とかじゃなくて新里もほんとに凄かった。実はあの後、B組でも話題になってたんだよ?」
「……あ、ありがとうございます……」
そう、感謝と共に告げる斎宮さん。僕なんかが、話題になっていた――あの障害物競走の時みたいなパターンは別として、本来なら到底信じられない話だ。
だけど、まず斎宮さんが嘘をつくはずないし……それに、斎宮さんからの言葉であることを除いても、今回に関しては一定の信憑性もあって。と言うのも――
『――おい凄えじゃん、新里!』
『ほんと、あんなに速いなんてびっくりしたよ!』
『…………へっ?』
競技終了後、少し俯きつつE組の皆のもとに戻った僕に掛けられた言葉。思わぬ展開に呆然としていると、その後も次々に称賛や労いの言葉を掛けてくれるチームメイト達。……えっと、どゆこと? だって、結局僕は負けたのに、どうして――
『……いや、お前に任せた当人の俺が言っちゃいけないとは思うんだけど……正直、もう駄目かと思ったんだ。これは、お前がどうとかの話じゃなく……なにせ、相手はあの日坂だからな。最低でも、3分の1くらいはリードしていないと……いや、正直それでもかなり厳しいと思ったくらいだ。だけど、蓋を開けてみれば……本当、良くやってくれたよ新里は。ありがとう』
それが、閉会式を終えた後、渡部先輩がくれた言葉。そして、他の皆もほとんど同じような気持ちだったらしくて。
つまりは、日坂くんがバトンを受け取った時点で僕との差がグラウンド一周の3分の1以下――具体的には4分の1ほどの差だったらしいのだけど――3分の1以下だったので、日坂くんの速さを考えれば間違いなく逆転されてしまうと思ったとのこと。……まあ、それはそうだよね。実際、あの100メートル走の際も圧倒的な速さで優勝してたし。
それが、蓋を開けてみれば最後の最後までどちらが勝つか分からないデッドヒート――それが、皆のあの称賛や労いの理由で……うん、ほんとに優しいなぁ、皆。
「……ところでさ、新里。その……なんかあの時、途中から速くなった気がするんだけど、あれって……」
【あっ、いえ決して手を抜いていたわけではな――】
「……ふふっ、それは分かってるよ。皆の思いを背負ったあの場面で、新里が手を抜いたり出来る人じゃないことくらい分かってるから。……ただ、なんでかなぁって思っただけで」
歩みを進めていた最中、少し躊躇う様子でそう口にする斎宮さん。彼女が言っているのは、あの時――卒然、何か見えない力に後押しされたような感覚を覚えたあの瞬間のことで間違いないだろう。
……なんで、か。なんで、だろうね。正直、僕自身よく分からない。だけど、あの時――不意に映った斎宮さんと瞳が重なったあの瞬間、思ってしまった。どんなに烏滸がましくても、そんな資格なんてなくても……それでも、思ってしまったんだ。
――――負けたくないな、って。




