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声にならない想いを乗せて  作者: 暦海


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いざ、決戦の時!

「それにしても、遠目からだったし詳しいことは分からねえけど……何か大変だったみたいだな、新里にいざと。ああ、無理に答えようとしなくて良いからな? 流石に、今は持ってないだろうし」

「……あ、えっと……はい」


 簡単な挨拶の後、ほどなく同情するような瞳でそう口にする日坂ひさかくん。大変だった、というのはさっきの一件――渡部わたなべ先輩の怪我により、代役として僕が出場することとなった件と考えて間違いないだろう。ところで、それにしても……やっぱり優しいなぁ、日坂くん。



 ところで、今更ながら補足の説明を。最後の競技――全学年男女混合リレーでは、文字通りそれぞれの学年から男女生徒一人ずつで構成される。B組であれば一年B組の男女一人ずつ、二年B組の男女一人ずつ、三年B組の男女一人ずつの計六人、といった具合に。


 そして、肝心の走る順番なのだけど――実は、定められていなかったりする。と言うのも、それぞれのチームが任意に定めて良いことになっていて。


 それでも、最後の体育祭ということもあり、だいたいは三年生がアンカーを務めることが多いんだけど――もちろん、ただ純粋に一番走る距離の長いアンカーを一番速い人に任せるチームもあって。そして、それが今回はB組チーム――きっと三年生を含めても一番速いであろう日坂くんが、この度アンカーに指名されたというわけで。……うん、やっぱり凄いなぁ日坂くん。




 ――それでは、再びリレーの状況を。とは言っても順位に変動はなくE組1位、B組2位という緊迫した状況で。


 ところで……大変申し訳なくも、第5走者――僕にバトンを繋いでくれる仲間の走る姿をきちんと見ていなくて。と言うのも……まあ、言い訳でしかないけども、B組の第5走者――斎宮さいみやさんの走る姿につい目が惹き付けられて……うん、ごめんなさい。


 だけど、流石に見惚れてばかりでもいられない。と言うのも――



「――新里にいざとくん!」


 そう、息を切らした声で僕の名を呼ぶ女子生徒。応援団の練習でも大変お世話になった、E組の第5走者の先輩だ。そんな彼女からバトンを受け取り、そして――



 ――あとは、精一杯グラウンドを駆け抜けるのみ!




 ――だけど、当然ながら現実はそう甘くはなく。



「――キャー、巧霧たくむくーん!」

「よし、追い付けるぞ巧霧! 頑張れ!」


 そう、四方八方から届く歓声。……うん、確認せずとも分かる。もの凄いスピードで、日坂くんがこちらに近づいていることが。いや、僕にと言うよりゴールに、と言った方が正確か。……それでも――



「――頑張れ、新里!」

「まだ勝ってるよ、新里くん!」


 そう、僕を後押しする声。E組チームの皆の声だ。その中には、無念さをこらえ僕にバトンを託してくれた渡部わたなべ先輩な姿も。……そう、僕にだって頑張る理由がある。走り続ける理由があるんだ!




 ――それでも、気持ちだけでどうにかなるなら苦労はなくて。



「――キャー、巧霧くーん!」

「よし、そのまま追い越せ巧霧!」


 ほどなく、いっそう大きく響く日坂くんへの声援。そして、確認せずとも分かる――彼は、もうそこにいる。僕の、すぐ後ろにいる。


 ……うん、分かっている。きっと、E組の皆は今も僕に声援こえを送ってくれている。それでも、それが聞こえないくらい日坂くんへの歓声が……いや、あるいは僕の聴覚が麻痺して――


 ……ただ、いずれにせよ……うん、やっぱり敵わないよね。僕なんかが、日坂くんに敵うわけなんて――



「…………あ」



 そんなみっともない思考の最中さなか、ふとポツリと声が洩れる。一瞬、視界に映ったその姿に……ふと重なったその瞳に、僕は――



 ――――まだ、勝負は終わっちゃいない!


 




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