最後の種目
その後、綱引きなど数種目の競技を経て――
【……いよいよ、最後の競技ですね。ふぅ、ここに来て更に緊張が高ま――】
「いやなんでですか。別に先輩が出場するわけでもないでしょう」
メモ用紙にそんな言葉を記す僕に、隣から呆れたようにツッコむ織部さん。……うん、今日だけでもう何回呆れられたっけ? いや、まあ今日に限らない気もするけど。
ともあれ、最後の種目なのですが――まさしく体育祭のトリを飾るに相応しい、全学年による男女混合リレーです。
さて、ここまでの成績ですが――B組が1位、E組が3位。ですが、最後のリレーにてE組が1位を取ればなんと逆転という僅差で――うん、まるで漫画のような展開です。……いや、これだとまるで僕が主人公みたいな言い草だ。全く、思い上がりも甚だしい。地味で陰キャラでコミュ障の僕なんかが主人公のお話なんて、この世に一つとしてあるはずないというのに。
……あれ、何の話だっけ……ああ、そうそう。最後のリレーで、僕らE組チームが1位を取れば逆転という展開で。……まあ、織部さんの言うように、応援するだけの僕が緊張しても仕方がな――
「――おい、大丈夫かよ尚哉!」
「…………へっ?」
卒然、少し遠くから大きな声が届く。見ると、リレーの集合場所にほど近い辺りで、足を押さえながら座り込む渡部先輩の姿が。場違いかとは思いつつ、思わず僕も駆け寄ると――
「……いや、大丈夫だ。心配させてごめ……ぐっ」
「……いや、大丈夫じゃねえだろ。どう見ても腫れてんじゃねえか」
そう、笑ってみせるも痛みを堪えきれない様子の渡部先輩。失礼かと思いつつも、ゆっくり足の方へ視線を移すと……確かに、見るも痛ましいほどにふっくら腫れていて。
……いつから、だろう。もしかすると、応援合戦の時点でもうこの状態で……だとしたら、これほどの痛みを抱えながら、何事もないかのようにいつもの笑顔でみんなを引っ張って……うん、本当に凄い先輩だ。
だけど、当然ながら感心している場合じゃない。さっき渡部先輩に声を掛けていた先輩、そして他にも複数の先輩達が氷や救急箱を持って来て、手早く渡部先輩の手当てを始める。……大丈夫かな、渡部先輩。そして、感心している場合じゃないと言いつつも、渡部先輩のために機敏に動く先輩達にやはり感心の念を禁じ得なくて。
「……残念だけど、これじゃ無理だ尚哉。まあ、分かってるだろうけど」
「……ああ、ごめんな」
それからほどなく、俯いて謝意を述べる渡部先輩。表情こそ窺えないものの、その声音からも彼の無念さがひしひしと伝わってくる。……悔しいだろうなぁ、先輩。先輩にとって、最後の体育祭……それも、最後の種目でアンカーを務めることになっていたのに――
「……ところで、一つわがままを言っていいなら……俺の代わりは、お前が務めてくれないか? 新里」
「…………へっ?」
卒然、思いも寄らない言葉を届き呆然とする僕。そして、それは僕だけでなく他のみんなも同様のようで。そんな僕らの様子を、少し可笑しそうに微笑み見渡し――
「……まあ、驚くよな。だけど、俺も伊達や酔狂で言ってるわけじゃない。あくまで俺の主観だし、ここにいるみんなが本当に、本当に頑張ってくれたことは分かってるつもりだけど……その中でも、新里の頑張る姿が一番際立っていたように思う。だから、俺はお前に任せたいと思うんだ、新里」
そう、最後に僕の目を真っ直ぐに見つめ告げる渡部先輩。……正直、僕なんかには勿体ない過分な評価だ。他のみんなが、内心どう思っているかも気掛かりで……だけど、それでも――
【……分かりました、渡部先輩。僕で宜しければ、精一杯務めさせて頂きます】
そう、筆記にて伝える。すると、満足そうに微笑み頷いてくれた。




