いよいよ本番です。
「――さて、新里。今日は敵同士だけど、互いにベストを尽くして頑張ろう!」
【はい、お互い悔いのないよう頑張りましょう、斎宮さん】
それから、およそ三週間後の六月上旬。
グラウンド隅の方にて、軽く拳を合わせ健闘を誓う僕ら。まあ、僕が全力を尽くしたところでチームの役に立てるなどとは思わないけど、もちろんそういう問題じゃない。役に立たないからといって手を抜いて良い理由にはならないし、もちろんそのつもりもない。精一杯、力の限り頑張る所存です。
さて、もはや説明不要かとも思うけど、本日はまさしく体育祭その日で。
ところで、一応の説明を――恐らくは多くの高校と同様、当校においてもチーム分けはそれぞれの学年の同じクラスで構成される。つまり、斎宮さんのチームはそれぞれの学年のB組、そして僕のチームはそれぞれの学年のE組でということに――まあ、端的に言うと応援団のチームと同じなわけで。
ともあれ、いざ尋常に戦いの火蓋が切られたわけなのだけど――
「――あははっ、良かったよ新里! すっごい注目の的だったね!」
【……悪い意味で、ですけどね】
「あははっ、まあ良いじゃん。B組でも、新里のこと可愛いって盛り上がってたし」
開会からおよそ一時間後。
グラウンド外の給水所にて、僕の背中をペシペシ叩きながら何とも楽しそうな笑顔で告げる斎宮さん。……うん、確かに注目の的だったね……悪い意味で。
さて、何のお話かと言うと――つい10分ほど前に終了した、僕の唯一の参加種目である障害物競走に関してでして。
では、こんな地味で陰キャラでコミュ障の僕が何ゆえ注目の的だったのかと言うと……まあ、度々みっともない姿を晒してしまったからで。
と言うのも――平均台ではお酒でも入っているかのごとくふらふらし、跳び箱では勢い余り着地の際にくるっと前転し、網を潜る際はもう絡まるわ絡まるわでそのまま網を纏ったままゴールし……あ、ちなみに網を独占したままでも誰にも迷惑は掛かりませんでした。僕がようやく網の地点に到着した際、皆さん既に遥か前方を走っていたので。
……でも、幸いなのは断トツ最下位でE組全体に迷惑を掛けてしまった僕を、斎宮さんだけでなくチームの皆さんも笑ってくれたことで……うん、ごめんなさい。
――ところで、それはそれとして。
【……そろそろ、斎宮さんの出番ですよね】
そう、筆記にて伝える。……ところで、今更ながら体育祭でメモとペンを携えている人なんてきっと僕くらいだよね。まあ、流石に競技中は席に置いてきたけども。
ともあれ、僕の文章を見た後、再びこちらに視線を向けニコッと微笑む斎宮さん。そして――
「――うん、ちゃんと見ててよ新里! もうカゴから溢れちゃうくらい、玉という玉残らず全部放り込んじゃうから!」
【はい、バッチリ見させて頂きます! それこそ、斎宮さんの投げる玉の縫い目までバッチリと!】
「……いや、流石にそれは気持ち悪いけど」
玉じゃなくてあたしを見てよ――続けて、何とも呆れたようにそう口にする斎宮さん。……うん、ご尤も。そもそも、縫い目とか見えないだろうし……たぶん。
ともあれ、宣言通り全部――とは言わないまでも、贔屓目でなく誰より多くの玉をカゴに投げ入れ勝利へと大きく貢献した斎宮さん。……うん、やっぱり流石です。
ただ、それはそうと……その、B組のみんなの歓声に応えた後、僕の方にビシッと笑顔でVサインをするのは控えて頂けると。その、もちろん嫌なわけではないのですが……うん、やっぱり恥ずかしいと言いますか……あの時の、E組のみんなからの何とも生温かい視線がどうにも居た堪れなくて。
あと……ついでに申しますと、隣からの視線が中々に痛かったり――何とも冷えた視線を僕に向ける、後輩の美少女からの視線が。
「…………すごい」
それから、数十分経て。
思わず、感嘆の声を洩らす。と言うのも――
「――キャー、巧霧くーん!!」
「こっち向いてー!!」
二年の部、100メートル走終了後。
卒然、校庭の至るところから響く大きな歓声。……いや、卒然でもないけども。それこそ、レースが始まる前からずっと響いてたし。
ともあれ、そんな頗る人気の美少年――日坂くんは特に表情を変えることなく、自身のチームであるB組の歓声に応えるように軽く手を振るだけ。相変わらずクールだなぁ、日坂くん。むしろ――
「……いや、なんで朝陽先輩がそんなに嬉しそうなんですか」
そう、何処か呆れた表情の織部さん。……うん、むしろ僕の方が喜んじゃってるよね。ほら、日坂くんが人気だと嬉しくって。




