ご無沙汰?
「どうだった? 新里。初めての応援団は」
【はい、とても緊張しましたが……それでも、どうにか無事に終えられたと思います。それに……こうして実際に参加すると、凄く楽しいなぁと。斎宮さんは?】
「……そっか、良かったじゃん。うん、私も楽しかったよ」
【そうですか、それは良かったです】
練習開始から、一時間半ほど経て。
まだ日の高い帰り道を、和やかなやり取りを交わしつつ歩いていく僕ら。僕のクラスのE組同様、斎宮さんのクラスのB組も放課後、応援団の練習をしていたみたいで。……まあ、知ってるんだけどね。それなりに距離はあったけど、同じ中庭で練習してたし。
「いやー、それにしてもまだ今でもびっくりだよ。まさか、新里が自分からこういうのに参加するなんて」
【……はい、それは僕も思います】
すると、にこっと微笑みそう口にする斎宮さん。……うん、それは僕も未だに思う。数日前のホームルームにて応援団をやりたい人の挙手を求められた際、おずおずと震える手をどうにか上げた感覚を今でもしっかり覚えている。……それでも、どうにか勇気を奮い立たせられたのは――
【……あの、ありが――】
「――ところでさ、新里」
ありがとうございます――そう伝えようとした僕の言葉に被さる形で、ふと僕の名を口にする斎宮さん。……いや、彼女からすれば突然何の感謝だという話だろうけど、それはともあれ……うん、どうしたのかな? 心做しか、その声音に少し不穏な――
「――なんか、すっご〜く仲良さそうだったね? 織部さんと」
「…………えっと」
そう、満面の笑顔で尋ねる斎宮さん。だけど、心做しか瞳の奥が笑ってな……あれ、こんなこと前にもあった気が。
「……ふーん、男女二人組、ねえ。まあ、そんなことだろうとは思ってたけど」
「……あ、えっと……はい」
ともあれ、今日の件につき簡潔な説明をすると何処かジトッとした目で答える斎宮さん。まあ、説明というほどでもないけども。男女二人でペアを組むように言われ困ってた僕に、織部さんが声を掛けてくれた――言ってみれば、ただこれだけの話だし。
ただ、それはともあれ……うん、そこまで楽しそうに見えたのかな? 僕。いや、実際凄く楽しかったし、僕自身さっきそう言ったのだけど……それでも、斎宮さん達B組とは結構な距離があったはず。なのに、そこまではっきり認識でき――
「……ところでさ、新里。これから、ちょっと時間あったりする?」
「……へっ?」
「…………ここは」
「うん。あの教室でも出来るけど、たまにはこういう場所でするのも良いかなって」
それから、20分ほど経て。
ポツリと呟く僕に、ニコッと笑顔で告げる斎宮さん。そんな僕らがいるのは、住宅街にひっそりと佇む三階建てビル――その一階に在する、比較的小さな卓球場で。
……そう言えば、昔はよく来たなぁ、ここ。両親も卓球が好きで、よく連れてきてもらったし……それに――
「――イタッ!」
一人感慨に浸っていると、ふと左肩に痛みが走り声を上げる。見ると、ラケット片手に悪戯っぽく微笑む斎宮さん。……いや、斎宮さん。流石に角は痛いです。せめて、丸いところにして頂けると……いやまあ、別に良いんだけどね。実際、言うほど痛くもなかったし。ともあれ、僕も――
「――はい、新里」
「……あっ、ありがとうございます」
僕も、ラケットを取りに――そう思い足の向きを変えた僕に、今度は軽く肩を叩く斎宮さん。その手には、もう一つのラケット――どうやら、僕の分も取ってきてくれていたみたいで。感謝を告げ受け取ると、彼女は屈託のない笑顔を浮かべて言った。
「――それじゃ、始めよっか新里」
「――ふぅ、楽しかったぁ!」
【そうですね、斎宮さん。僕も、すっごく楽しかったです】
それから、一時間ほど経て。
和気藹々とやり取りを交わしつつ、再び帰り道を共にする僕ら。だけど、さっきとは違い空はもう朱に染まっている。
「でもさ、今更だけどほんとに良かった? 練習終わりで疲れてなかった?」
【あ、いえ大丈夫です! その、少し疲れてはいましたが……そんなの気にならないくらい、凄く楽しかったので】
「……そっか、だったら良かった」
すると、ややあって少し不安そうに尋ねる斎宮さん。だけど、僕の答えを聞くと、ほっと安堵を浮かべてくれて。そんな彼女の様子に、僕もほっと安堵を覚える。確かに、彼女の言うように少し疲れてはいた。だけど、今言ったようにそんなの気にならないくらい、凄く楽しくて――
「――ところでさ……久しぶりだね、新里」
「…………へっ?」
一人感慨に耽っていた最中、不意に届いた思い掛けない言葉。……えっと、久しぶり? いったい、何のことだろ――
「……だから、こうして二人で遊びに行ったのが久しぶりって言ってるの」
「……あ」
そう、少し口を尖らせて話す斎宮さん。……そう言えば、そうかも。斎宮さんとは学校はもちろん、職場でもよく会ってるけど……そう言えば、さっきみたく二人で遊びに行ったのは結構久し――
「……ほら、少し前に巧霧と織部さんと四人でカラオケ行ったじゃん。もちろん、それはそれで楽しかったし、また行きたいとも思うよ? でも……こうして前みたいに二人で遊びに行く機会が無くなるのは、やっぱり嫌だなって」
「……斎宮さん」
「……だからさ、また遊びに行こ? 二人で、遊びに行こ?」
そう、窺うように尋ねる斎宮さん。心做しか、その表情から一抹の不安が見受けられるけど……だけど、僕の答えなんて考えるまでもなく――
【はい、もちろんです。僕にとって、斎宮さんとの二人の時間はかけがえのない大切な時間ですので、僕の方こそお願いします】
そう、彼女の瞳を真っ直ぐに見つめ伝える。すると、パッと目を丸くした後さっと目を逸らす斎宮さん。その綺麗な頰が朱に染まっているように見えるのは、夕陽のせいだろうか。
ともあれ、ややあって僕に視線を戻す斎宮さん。そして、後方からの夕陽を受けいっそう輝く笑顔で応えてくれた。




