体育祭
「――さて、説明は以上になるけど……何か、質問のある人はいるかな?」
「せんせー、パン食い競争のパンはなに〜?」
「うん、ごめんだけど流石にまだ分からないな。でも、たぶんアンパンとかじゃないかな」
およそ二週目経た、放課後のホームルームにて。
楽しそうに尋ねるクラスメイトの質問に、少し呆れたような微笑で答える先生。そんな、何とも和やかな雰囲気につい微笑ましくなってしまう。
ともあれ、何のお話かというと――来たる一ヶ月後、六月上旬に開催される体育祭に関してで。
「ところでさ、新里は何に出るの?」
【僕は一応、障害物競争に。斎宮さんは?】
「あたしは玉入れと、それから最後の全学年男女混合リレー。一応、皆からの推薦で選ばれたんだよ?」
【へえ、やっぱり凄いです斎宮さん】
それから、数十分経て。
空き教室にて、和やかな雰囲気でそんなやり取りを交わす僕ら。言わずもがな、テーマは体育祭に関してで。……それにしても、やっぱり凄いなぁ斎宮さん。まあ、去年の体育祭でも凄く速かったしね。
あ、ちなみに僕は去年、借り物競走に――そして、お題はなんと友達……うん、ほんと困りました。
「……それでさ、新里は今年、応援団やるの?」
すると、話題転換とばかりに少し改まった様子でそう切り出す斎宮さん。……いや、転換してないか。むしろ、普通に自然な流れだし。まあ、それはともあれ――
【……はい、少し緊張しましたが……その、今年は挑戦してみようかと】
そう、躊躇いがちに答える。言わずもがなかもしれないけど……本来、僕はそういう目立つことに参加するタイプじゃない。実際、当然のごとく去年は参加しなかったし。
だけど……本音を言えば、全く憧れがないわけでもなく。そして、何より……先頭の列で、一生懸命手を振り声を上げる斎宮さんの姿が、ひときわ僕の心中に鮮明に――
「……そっか、うん、良いことだと思う」
「あっ、ありがとうございます……」
すると、柔和に微笑みそう告げてくれる斎宮さん。だけど……心做しか、その表情は何処か不安そうにも見えて……うん、やっぱり気のせいかな?
「…………ふぅ」
数日後、放課後にて。
中庭の一角にて、深く呼吸を整える僕。さっと辺りを見渡すと、和気藹々と話す数多の生徒達。そして、その中で僕が知っているのはほぼ三分の一。そして、三分の二は他学年――即ち、三年生と一年生の生徒達。当校において、応援団はそれぞれの学年の同じクラス――僕の所属するこのグループは、それぞれの学年のE組の生徒で構成されるわけでして。
ところで、それはそれとして……うん、改めてだけど僕の場違い感が半端ないね。
「――皆、今日は集まってくれてありがとう! 俺は三年の渡部尚哉。ちょっと大変かもしれないけど、皆で頑張れば絶対楽しいからさ! 一度きりの高校生活、最高の思い出作ろうな!」
それから、20分ほど経て。
そう、ぐっと拳を握り言い放つ男子生徒。爽やかな笑顔が印象的な、精悍な顔立ちの先輩だ。そんな彼女の言葉を受け、最初は疎らに、そして次第に全体から拍手が起こる。
……一度きりの、高校生活……うん、確かにそうだよね。斎宮さんと日坂くんとは別々になっちゃうけど、それでも体育祭という催し全体としては、きっと素敵な思い出を共有でき――
「――それじゃ、さっそく俺ら三年が振り付けを教えていく。ただ、その前に男女二人でペアを組んでもらいたい」
「…………へっ?」
「……ん、何か質問か……ああ、相手は誰でもいいぞ。誰でも、仲の良い相手と組めばいい」
「あっ、いえそうではな……いえ、何でもないです」
「……? そうか。でも、聞きたいことがあったら遠慮せず何でも聞いてくれよ!」
「……あ、はい、あり……はい」
「……?」
すると、僕の反応に気付いたのだろう、快活な笑顔でそう話してくれる渡部先輩。一方、感謝の一言すら言葉にならない情けない僕。……その、申し訳ありません。
ただ、それはそれとして……うん、さっそくピンチ到来。仲の良い相手と組む……うん、僕にとってはまさしく呪いの言葉で。
と言うのも――昔から体育の準備運動とかで二人一組になる際、同じようなことを言われたけど……当然、この地味で陰キャラでコミュ障たる僕に声を掛けてくれる人などいるはずもなく、かと言って自分から声を掛けるなんて出来ようはずもなく、最終的に僕に憐れんでくれた先生が組んでくれるという展開で……うん、本当に申し訳ないです。
だけど、今回は先生に頼るわけにもいかない。誰か、こんな僕とでも組んでくれる寛大なお方は――
「――宜しければ、私と組みませんか? 朝陽先輩」
「…………へっ?」
お祈りしつつ辺りを見渡していた最中、ふと後方から柔らかな声が届く。尤も、ここにいること自体は何も驚くことはない。だけど――
【……えっと、良いのですか? 織部さん】
そう、いつもながら筆記にて尋ねる。彼女は一年E組――なので、ここにいるのは何ら驚くことじゃない。だけど――
「ええ、もちろん。先ほどのお話によると、学年の制約もないようですし」
すると、僕の疑問に答えるように莞爾とした微笑で答える織部さん。……まあ、確かに。そもそも、なんで同級生じゃなきゃ駄目だと思ってたんだろう。誰にも言われてないのに。
……いや、それはともあれ返事だ。――まあ、どちらかなんて考えるまでもないんだけど。
【……はい。僕で良ければ、是非ともお願いします】




