約束
――それから、一週間ほど経て。
「ふう、やっとテスト終わったー。なあ、頑張ったご褒美にボーリングでも行かね?」
「何がご褒美だよ、しょっちゅう行ってんじゃねえか。まあ、反対する理由もないけどな」
「なになに、あんたらボーリング行くの? じゃああたしらも」
「オッケ、じゃあいつものメンバーだな。ところで、お前も久しぶりに行かね? 夏乃」
「……え? ああ、えっと……」
一年A組の教室にて、やっと解放されたとばかりにいつも以上の盛り上がりを見せるクラスメイト達。いわゆる、トップカーストの男女生徒達だ。そして、今しがたの会話にあったように、本日は定期試験――二学期中間試験の最終日です。
ところで……試験前だというのに、張り込みなんて随分と余裕だな――ひょっとすると、そのようなお声があるかもしれません。ですが、斎宮さんと僕は基本的に日々自宅でも勉強に励んでいるので、試験前だからといってとりわけ勉強時間を増やす必要はなく……うん、誰に言い訳してるんだろうね。
ともあれ、斎宮さんは本日ボーリングに行くようだ。言わずもがな、彼女は僕と違いご友人がたくさんいるので、当然ながらこうして別々に帰る日も一定数あるわけで。なので、少し寂しい気がしないでもないけど……うん、仕方ないよね。
――の、はずだったのだけど。
「――いやー、ここに来るのもなんか久しぶりな気がするなあ。何歌うんだろ、新里。まああたしが聞いといてなんだけど、未だにあんまり歌うイメージないんだけどね」
「……あ、はい、まあ……」
それから、数十分経て。
てきぱきとデンモクを操作しながら、楽しそうに僕へ笑いかけ話す斎宮さん。一方、些か困惑を覚えつつ曖昧に答える僕。……いや、答えられてないかな。
ともあれ……そんな僕らがいるのは、我らが日本の誇る偉大なレジャー施設、空オーケストラ――いわゆる、カラオケです。……うん、どう考えても要らないよね、この説明。
――そもそも、事の経緯はというと、
『――ねえ、もしかしてだけど……新里って、歌う時は意外と声出たりするの?』
例の空き教室にて、不意に尋ねられたこの一言がきっかけだった。
あの後、自宅へ直行すべく一人教室を後にし廊下を歩いていると、ふと後方からパーンと背中を叩かれた。何事かと戦々恐々振り返ると、そこには何とも愉しそうな笑顔を浮かべる斎宮さん。確認するまでもなく、僕のリアクションをたいそう面白がっているのが分かって……うん、まあ良いけどさ。そんなに痛くなかったし。
それはそうと、てっきりご友人の皆さんと一緒にボーリングに行くものかと思っていたのだけど……尋ねてみると、今日はあまり気分が乗らなくて、申し訳なくも理由をつけて断ったとのこと。まあ、そういう日もあるよね。……いや、ほとんど友達のいない僕が言うのもなんだけども。
ともあれ、ひとまず空き教室にて試験のこと含め他愛もない話に花を咲かせた後、不意に先ほどの一言が飛んできたわけで。……ひょっとして、ボーリングじゃなくカラオケが良かったのかな?
そういうわけで、本日こうしてリア充の方々ご用達のレジャー施設へと足を運んだわけですが――
【ところで、こちらのカラオケには初めて訪れたわけですが……どうやら、例の看板は掲げられていないようで些か安堵致しました】
「うん、そもそもないからね? そんな看板。一度でも見たことある? まあ、それはそれとして……こちらのカラオケにはってことは、カラオケ自体には行くことがあるってことだよね。……ちなみに、誰と?」
【そうですね、以前は家族と一緒に訪れることもありました。ですが、最近は専ら一人でですね。とは言え、それほどの頻度で訪れるわけでもありませんが】
「……あぁ、うん、なんか……ごめんね?」
「……?」
どうしてか、少し申し訳なさそうに微笑み謝意を口にする斎宮さん。いったい、どうしたのだろう? 謝ってもらうようなことを言われた覚えはな――
「……でも、それなら……っていうのも変かもしれないけど……また、一緒に来よ? もちろん、新里が嫌じゃなければ」
【……嫌なわけ、ないじゃないですか。僕でよければ、是非】
「うん、良かった。じゃあ約束ね?」
少し窺うような斎宮さんの提案に、少し驚きつつも笑顔で返答をする僕。彼女と過ごす時間が増えるというのに、嫌なはずなんてない。すると、彼女はニコッと完爾とした笑みを浮かべそう言った。




