もはや天職?
――それから、およそ二週間が経過して。
「……ねえ、新里。一つ、聞いても良いかな? まあ、駄目って言われても聞くけど」
【……あの、斎宮さん。でしたら、その前置きはそもそも不要なのでは? まあ、もちろん駄目なはずなどありませんが】
「うん、じゃあ早速……今、何してるのかな? あたし達」
「……えっと、情報収集?」
心做しか、些か既視感を覚えないでもないやり取りを交わす斎宮さんと僕。そんな僕らがいるのは、校舎隅にひっそりと在する階段――よほどの理由がなければ、ほぼ使用される機会のないであろう、一階と二階を繋ぐだけの小さな階段の段裏辺りです。……うん、ほんと何のために設けられたんだろう。機会があれば、是非とも設計者の方にお伺いしてみたいところだけど……うん、まあないよね。
さて、そんな聖香高校七不思議にでも入りそうな素敵な謎に興味は尽きないものの、もちろん階段に足を運んだ理由はきちんとあって――
「……えっと、改めて聞くけど……ほんとに、ここから来るんだよね、会長達」
【はい、恐らくは。まだ短期間ではありますが、綿密に調査を重ね導き出したデータなので、ある程度は信じて頂いて問題ないかと】
「……えっと……なんか、ごめんね?」
「……?」
すると、どうしてか曖昧な微笑で謝意を述べる斎宮さん。……あっ、ひょっとして僕に負担を押し付けてしまったと憂慮してくれているのかな? 僕が勝手に動いただけなんだし、気にしなくて良いのに。
ともあれ、なんとも好奇心を掻き立てずにはいられないこの不思議な階段の、数少ない利用者の一人が我らが生徒会長たる郁島先輩というわけで。
ただ……三年生の教室が二階にあることを考慮に入れても、この階段を使用するメリットは別段ないように思える。生徒会室からもそれなりに遠いし。なので、わざわざこの階段を通る理由までは定かでないけど……まあ、混雑を避けるためとかかな。
――ところで、それはそれとして。
【……あの……申し訳ありません、斎宮さん。このような、些か空間の乏しい所へ連れてきてしまって……】
「……いや、別に新里が謝ることじゃ……あたしが、勝手についてきただけだし」
いつものごとく筆記にて謝意を伝えると、少し顔を逸らしつつ答える斎宮さん。そう、僕らがいるのは段裏のすぐ下の辺り――比較的小柄な僕ら二人が入る程度にはあるものの、決してゆとりのある空間とは言えず……それこそ、うっかり体勢を崩そうものなら、触れるどころか密着に至るような状況なわけでして。……うん、やはり念には念を。重要事項を事前にきちんと伝えておくべく、狭隘な空間にて再びペンを走らせる。
【……あの、斎宮さん。もちろん、細心の注意は払う所存です。……ですが、その……万が一触れ合ってしまっても、決して感染はしませんから!】
「急にどうした!?」
些か突飛とも思える僕の発言に、目を瞠りツッコむ斎宮さん。それでもしっかり声量を抑えられる辺り、ほんとに器用だなと思う。
ちなみに、何のお話かというと……なんと、僕の身体だけに存在するらしい唯一無二の菌――新里菌についてです。
『――やべぇ、にいざと菌がうつるぞお前ら。逃げろ逃げろ〜』
確か、小学三年生の秋頃だったと思う。
鬼ごっこの際、僕が鬼になった時はいつもそう言って逃げていた子達がいたもので。他の子達が鬼になった時は何も言われていないことから鑑みると、どうやら僕に特有の細菌みたいです。
……それにしても、どんな菌なんだろう? ひとたび感染ってしまったら、忽ちコミュ障になってしまう、とかかな? ……うわぁ、恐ろしや。
そういうわけで、何が何でもそんな悍ましい菌を伝染してしまうわけにはいかない。尤も、斎宮さんであれば仮にほとんど話せなくなったとしても人気が翳ることはまずないし、僕としても傍にいてくれるだけで嬉しいのだけど、もちろんそういう問題ではない。
だけど……うん、心配ないかな? 実際、鬼ごっこで触れたり触れられたりした子達の誰からも、新里菌感染事例の報告は届かなかったわけだし。うん、大丈夫……だよね?
さて、感染とは何ぞやと尋ねる斎宮さんを適当にごまかしつつ視線を移す。会長さん達はまだもう少し降りてこないと思うけども、それでも念のため集中は欠かせない。
「……ところでさ、新里。会長がここを通るとして、だいたいどのくらいかも分かってたりするの?」
【……そうですね、時間に関してはまだまだ精度が甘いのですが……今から、およそ12〜14分くらいかと】
「いや十分厳しいけど」
【ですが、その前にあと2分で数学の高田先生がここを通るはずですので、ひとまず隠れましょう】
「もはや厳密すぎて怖いよ!!」
目を見開きそう言い放つ斎宮さんと共に、しっかり段裏の下に身を潜め暫し息を潜める。すると、きっちり2分後に高田先生が階段を降りてきて、僕らの視界を通り過ぎていった。気付かれなかったこと、そして推測通りの結果にほっと安堵していると、すぐ隣におはする美少女からポツリと声が届いた。
「……もはや、天職じゃない?」




