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声にならない想いを乗せて  作者: 暦海


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意外な選択?

【……ここ、ですか?】

「ええ。ひょっとして、ご不満でしたか? 先輩」

【ああいえ、決して不満などではなく! ……ただ、少し意外だっただけで】

「……ああ、なるほど。まあ、確かにこういう時期に来るイメージの場所ではないかもしれませんしね」



 それから、十数分経て。

 少し慌てた僕の言葉に、納得したような表情で答える織部おりべさん。いや、意外と言ったのは時期に関してではないんだけども……うん、まあ良いか。わざわざ訂正することでもないし。


 さて、ありがたいことに今日は既に彼女が行きたいところを決めてくれている。そして、ここバッティングセンターがその最初の場所で。



「ところで、先輩はこういう場所に訪れたことはあります?」

【いえ、恥ずかしながら実は本日が初めてでして。織部さんは?】

「いや、何も恥ずかしくはないと思いますけど……ともあれ、私も初めてですね。ですが、生涯に一度は来てみたいと思ってたんです」

【……いや、わりといつでも来れるかと】


 その後、そんな他愛もない会話を交わしつつ施設の中へと入っていく。すると、まず視界に映るはそれぞれ球速の異なる五ヶ所のバッティングゲージ。それから視線を移すと、数字の記されたボードに野球ボールを投げて当てるストラックアウト、同じく数字の記されたパネルにサッカーボールを蹴って当てるキックターゲットというゲームが出来るコーナーもあって。うわぁ、なんだかすごく――


「ふふっ、楽しそうですね朝陽あさひ先輩。さながら、次なる総裁選の行方に目を輝かせている無邪気な園児のようです」

「全くイメージが沸かないのですが!?」




【それでは、どれから始めましょうか織部さん】

「ふふっ、既に色々と楽しむ気満々ですね、朝陽先輩。そうですね、それでは……やはり、まずはバッティングからでしょうか」

【良いですね、了解です】


 ともあれ、そんなやり取りを交わしつつ歩みを進めていく。まあ、バッティングセンターだしそうなるよね。


 その後、どちらが先にという話になり、じゃんけんの結果まずは僕からに。まあ、正直どちらからでも良かったし、きっと彼女もそうだったと思う。ともあれ、行ってきますと告げ緊張しつつバッティングゲージへと入っていく。



「さて、お手並み拝見といきましょう。是非とも格好良いお姿を見せてくださいね、朝陽先輩?」

【……あはは。まあ、期待せずにご覧ください】


 すると、ほどなく何とも悪戯っぽく微笑み告げる織部さん。何やら思いっきりプレッシャーをかけられちゃったけど……うん、まあいっか。全然ダメだったら、それはそれで笑って頂けるだろうし。





「……前々から思ってましたが、意外と何でも出来ますよね、朝陽先輩。初めてとは思えないくらいに」

【……へっ? あっ、いえとんでもないです! ……ですが、ありがとうございます織部さん】



 それから、数分経て。

 20回のスイングを終えゲージから出ると、呆気に取られたような表情で告げる織部さん。……出来て、いたのかな? まあ、思ったよりバットに当たってくれたけども……あまり野球のことをよく知らないので、どのくらい打てたら上出来とかも分からなくて。



「――さて、次は私ですが……少し、一緒に来て頂けますか?」

「……へっ?」


 すると、ややあってそう伝えゲージ内と入っていく織部さん。……えっと、僕も入るってこと、だよね? でも、どうして……ともあれ、そんな困惑を抱きつつ仰せに従い再びゲージの中へと入っていく。そして――


「……先ほども申しましたが、私も初めてでして。なので……是非、ご教示頂けませんか? 文字通り、手取り足取り」

「…………へっ?」


 そう、何とも楽しそうに尋ねる織部さん。でも、僕なんかが教えられることなんて高が知れ……いや、皆無と言っていい。……それに、問題はそこ以上に……《《文字通り》》、手取り足取りということは――


「――ほら、先輩。早くしないと、他のお客さんをお待たせることになっちゃいますよ?」


 そんな困惑の最中なか、軽いウィンクと共に告げる織部さん。……いや、それならこんなお願いをしなければ良いのでは……とは思うものの、確かに順番を待っているであろうお客さんがいるみたいなのでモタモタしてるわけにもいかない。なので――


【……えっと、僕もよく分からないのですが、こちらのグリップのところをこのように――】


 そう、柔らかな彼女の手にそっと僕の手を重ねつつ教えてみる。すると、何とも楽しそうに微笑み頷く織部さん。……まあ、これで合ってるのかどうかは本当に分からないけど……あと、皆さんからの視線が痛い。





 



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