年賀状に代えて
とんぼ様
また新しい年がやってきます。
お元気でいらっしゃいますでしょうか。
あなたを思い出す時、私はいつも十八のままで、あなたは一つ上の十九歳です。
初めて会った時、私はあなたをずっと年上だと思い込んでいました。
今まで見たことの無いような、謎の笑顔。
笑顔のままで、停止した顔とでも言えばいいのでしょうか。
でも、ふわふわと輪郭の無い顔は、とても柔らかかった。暖かかった。
その瞬間に、私は恋をしたのでしょうが、それを自分では知りませんでした。
新入生歓迎会の時に、あなたも私と同じ新入生だと知って、暗い穴に落ちたような気がしました。
あなただけが、あの笑顔のままで、明るく光り輝いて見えました。
あなた以外の世界が、光の無い、暗い穴の中の世界なのに、あなただけが、全然別の次元にいる…
光に満ちた、愛に満ちた、素晴らしい世界にいる…
私までが、その世界にいられるかもしれない、と錯覚したのかもしれません。
何者をも拒まない、あなたの笑顔を、私への好意と錯覚しました…
困ったなあ、と頬を赤らめながらも、幸せだった。
今で言うストーカーのように、私は全身をアンテナにして、あなたのいる方向を探知しました。
わかるのです、本能的に、あなたのいる場所が。
私は偶然を装って、「あら?」という感じであなたに会いました。
一度、一緒に喫茶店に入って、長い間あなたと話しましたが、人見知りで対人恐怖症気味の私が、我を忘れて話しこんでいました。
何を話したのか記憶に無いままに、お手洗いに行くと、鏡には見たことのない、美しい女性が頬を紅潮させて、幸せそうに微笑んでいました。
後にも先にも、そんなに奇麗な私を見た覚えがありません。
「じゃ、また」とあなたが言って、私達は離れました。
なぜか、あなたが困っているのはわかりました。
愚かな私は、あなたが私を愛し過ぎて困っているのだろう、と考えました。
事実は突然やってきました。
あなたが年上の女性と歩いている、という噂。
アンテナを張り巡らせていた私は、その現場を目撃しました…
あなたは、本当に幸せそうに微笑んでいました、謎の笑顔ではなく。
その時、自分が、あなたを熱愛していたのだと、ハッキリとわかりました。
そして、あなたは、その年上の女性を熱愛しているのだと。
私の愛は、使い果たされたのか、以後、誰に対しても、二度と同じ気持ちにはなれません。
愛しています、今でも。
くらげ




