ep.23 さすらい
幕末の京都──。
とある姫君が家来の担ぐ駕籠に揺られて、夕暮れの市中を移動していた。
暫くして人気のない道へ差しかかると、正面に男の人影が現れた。
担ぎ手の男達が警戒して足を止めると、正面の男は黙って刀を抜いた。
「なんだ貴様! 名を名乗れ!」
「おいらぁ、人呼んで人斬りの殺生丸」
「殺生丸!? 貴様が噂の……」
担ぎ手の男達は、護身用の刀を抜いて身構える。
しかし、その抵抗は人斬りの前では無意味に等しい。
「うわぁぁぁ」
男達は次々と斬られていった。
そして遂に、駕籠に乗っていた姫君だけが残った。
「あなた……わたくしが誰か、分かった上での振る舞いですの?」
「もちろんだぜ? シャルロット様。あんたは大名家の姫君。つまり、おいらにとっては打出の小槌ってことよ」
「くっ、わたくしを拐って身代金を要求するつもり……? この金の亡者!」
男はせせら笑った。
ひもじい借金まみれの生活。それがこの男の原動力だった。
「くくく、ここで死にたくなきゃ、言うとおりにするんだなぁ」
「ひどい。ひどいです……。シクシク」
そして、殺生丸がシャルロットの方へ近づこうとした時、彼の前にスッと何者かが割り行った。
「誰だてめえ」
小柄な男は腰の刀に手を添えて答えた。
「べつに名乗るほどの者じゃないよ。拙者は、さすらいのガブリエル。小さな旅人さ」
「……」
「あれ、急に大人しくなっちゃって。さっきまでの威勢はどうしたでござる!」
「おいぃぃ! 人がびびったみたく言うんじゃねーよ! ツッコミたくないだけぇ!!!」
「ガブリエル様! どうか、わたくしを助けて下さい! 御礼ならいくらでも致します!!!」
「承知。じゃあ、いくよ?」
二人は互いに深く身構えると、間合いを探りあった。
互いにピタリと静止した直後、磁石のごとく衝突した。勝負は一瞬。
「き、切れねぇ……」
そう言って倒れたのは殺生丸の方だった。
「残念。僕、硬いからね」
無傷のガブリエルは、刀を鞘に納めた──。
***
翌日、ガブリエルとシャルロットは、小さな茶屋で小休止していた。
「ガブリエル様は、拠り所がないのですよね……? もしよろしければ、わたくしのお屋敷に来ませんか……? わたくし、その……」
シャルロットは命の恩人に好意を寄せていた。
高貴な家柄に生まれ、お金に困ることは一生ないが、激動の時代を生き抜くには、ガブリエルのような逞しさが必要だし、惹かれるのだ。
「シャルロット殿の気持ちは嬉しいでござるよ。でも──」
ガブリエルはお茶を飲み干すと、静かに立ち上がった。
「拙者は、さすらい。あてもなく、また旅に出るでござるよ──」
──完。




