ep.22 秘密
放課後の職員室。
「永島先生、ちょいといいかの?」
背後から言われて振り返ると、女教師は目を見開いた。
「り、理事長……!?」
「ホホホ。そんなに畏まらんでええよ」
そうは言うが、この学校の創業家かつ最高責任者である。
見た目こそ普通の老人だが、そこにいるだけで空気が一変するような、規律を感じさせる人物だった。
そんな理事長に、永島先生は廊下に呼び出された。
「永島先生はいつもニコニコしていて、生徒からも人気じゃのう」
「いえ、私なんかまだまだです……」
「若いのに謙虚じゃのう。ところで、転校生の様子はどうかな?」
「ガブリエル君ですか? とても人気でしたよ? あのクラスにもすぐに打ち解けてくれそうです」
「それは良かった。実は担任の永島先生だけには伝えておきたい事があってのぉ」
「私に? なんですか……?」
理事長は先生の耳もとで囁いた。
「……実はあの子、アンドロイドなんじゃよ」
「えっ、アンドロイドですか……?」
「しっ! 静かに! これは秘密の話じゃ」
「あっ、はい……」
理事長は先生から少し離れると、話を続けた。
「彼、少し変わってなかったかね?」
「確かに、給食の時間とか少し様子が変でした……」
「うむ。まぁ、そういうわけで、あの子は少し特別なんじゃ。なにか困っておったら、助けてあげておくれ」
「それはもちろん。教師ですから……」
それを聞いて、理事長は笑顔を見せた。
「それではの」
手を振りながら去っていく理事長。
先生は緊張が解けて、その場で呆然としていた。
「ガブリエル君が、アンドロイド……」
その言葉の意味を、心の内で反芻してみる。
「私は……」
先生は自身のポケットから手を引き抜くと、
「私のは、アイフォン……」
まだ、ローンが残っている最新機種。
「いったい、なんの話だったのだろう……?」
わざわざ呼び出されて、まさかスマホの話題に終始するとは思わなかった。
「確かに私が学生の頃は、小学生のスマホ持ちに特別感あったけど……」
先生は神妙な面持ちで、その胸に手を当てた。
(理事長、時代は変わるんです……)




