ep.17 サニーサイドアップ
熱したフライパンに油を引き、温まったところへ卵を割って落とすと、透明だった液体はすぐさま色を帯びた。
蓋はせずじっくりと火を入れると、大きく広がっていた白身が、次第に縮まっていくのがわかる。
それでも真ん中の黄色は半熟を保っていて、フライパンからパチパチと音がしてきたら、美味しい目玉焼きの完成である。
そんなふうに何度か料理をするうちに、台所の勝手も分かってきて、ガブリエルは少しづつ自信をつけていた。
と言っても、ガブリエル自身はアンドロイド故に食事を必要とせず、自分で料理を食べることはない。
必要なときに味見をして、その成分やバランスを分析し、美味しいとされる指標に近づけるだけだ。
本当は食べた人に感想を貰えるとデータの蓄積が捗るのだが、あいにく殺生丸にはいちいち感想を言う気がないらしく、味付けの精度が上がっているとは言えない。
したがって相手がなにも言わないつもりなら、なにか言いたくなるまで、少しずつヘンテコな味にしてやろうとガブリエルは企んでいる。
調理したものは、リビングの食卓へ並べていく。
今朝はベーコンと目玉焼き、ご飯と味噌汁、そしてサラダを少し。
しかし、肝心の殺生丸はまだ寝室で寝ているだろう。
それはいつものことで、彼が起きてくるのはおおよそ朝と昼の間くらいだ。
今までなら、ガブリエルもその時間に合わせて朝食の仕度をするところだが、今日からはそうも行かなかった。
(そろそろ行かないと……)
時計は7時を回ったところだ。
ガブリエルは新しく買ってもらったランドセルを背負うと、玄関に向かった。
初めての登校……。
少し緊張しながらも、靴を履き、ドアノブに手を掛けた。
その時だった。
背後に人の気配を感じて振り返ると、眠そうな目の殺生丸が、ひっそりと立っていたのだ。
まだ短い付き合いとはいえ、こんなに朝早く起きている殺生丸を見るのは初めてのことだった……。
彼はなにも言わず、ガブリエルに手を振った。
それで十分だった。
「殺生丸様、いってきます!」




