実家行き!魔族特製・爆速馬車!
待たせてごめんなさい!
前回は閑話でしたね。
今回は前編です。
後編は、日曜の12:00に投稿しますので!
よろしくお願いします!
「ん?」
封筒の中を見ると、もう一枚入っていた。
『もっと手紙ちょうだい!それで絶対帰ってくること!
ルームメイトさんたちも連れてきて。
カナン』
きれいな文字でそう書かれていた。
「いやまあ結構書いてるけどな……」
そんな言葉が、自然と漏れる。
基本2か月に一通は書いているはずだ。
このくらいじゃないと、本当に書くことがない。
見終わった手紙を、封筒ごとまとめて捨てて、セランの方を見ると、ソファに座りながら読んでいた。
「そっちどんなだった?」
「うん…なんか……たまには帰ってきて?みたいな……」
こっちに目を向けることなく、返事する。
「僕もやわ。どうする?」
読み終えたのか、手紙をきれいに畳んで机に置き、目線をこっちに向けた。
「んーまあ帰るかなあ……。コウキ君は?」
「僕も。ていうか、そうせんとやばそう」
そういうと、セランは目をまんまるとさせる。
「え?一緒に行くの?」
「まあ……そうせんとこいつだけ残ることになるやろ?」
そういいながら、蚊帳の外みたいな顔をしたアルバを親指で指す。
「余は別に良いぞ」
「いや、それもあるんやけど、なんか連れてくるように書いててさ」
正直、家族に同居人を紹介するのは少し恥ずかしい。
だが、これまでの恩もある。
それに、なんとなく、見せたい気持ちも、ないこともないような。
「僕も、いつかは紹介してねって言われてたし、大丈夫だと思うよ」
「おっけい。じゃあセランの方から行くか」
「わかった。でも、間に合うのかな?8日で」
「あ」
そういえば忘れていた。
前の世界なら、車があるから何とか大丈夫な距離だろうが、ここは異世界。
森を切り開いて道路にしたり、排気ガスをまき散らしながら高速移動したりはできず、街の外の道路はろくに整理されておらずガッタガタ。移動も速くて馬か自転車ぐらいだ。
「たしかに……」
2人の沈黙が続く。
お互い頭を回すが、お互い何も出てこない。
僕一人なら、森を突っ切っていけるのだが。
「?移動に困ってるならっ余が出すぞ」
のっそりと腰を起こしながら、案を出してくれるアルバ。
たしかに、魔族が使っている馬は色々すごいらしい。
なにやら速かったり大きかったり、強かったり。
僕も詳しくは知らないが、普通の馬よりもいいことは確実。
乗るなら、この案しかないだろう。
「え、マジ?」
「いいの?」
「かまわん。飼い殺しの死蔵品を試す、いい機会だ」
本人がそういうのなら、言葉に甘えることにしよう。
「まじありがとう」
「い、いいのかな……だ、だって……」
「だからかまわんと」
「そ、そうなの?ありがとう……」
そしてアルバは、少し考える仕草をした後、ゆっくりと立ち上がった。
「なら余は、用事ゆえ少し出る」
「おっけい、ちなみにどこ行くん?」
「魔王城だ」
「あーね、いってら」
「いってらっしゃーい!」
━━━二人の見送りを聞いた後、余は外に出て、リセリナが作った転移用の魔法陣まで向かう。
普通は見えないようにしているが、余には丸見えだ。
それを使うと、瞬きの間に周囲が魔王城前に変わる。
仰ぎ見るほどに大きい門、繊細で豪勢に彫られたレリーフ。
そして、この門も、飾りかと思うほどに大きく、神々しいまでの魔王城本殿。
これらが長い間維持されているのも、先代の、忌まわしき先代の功績なのだろう。
「余だ、通してくれ」
できるだけ言葉に気を付けながら、門番に話しかける。
「ま、魔王様ですか!!どうぞどうぞ!」
緊張しい動きでゴゴゴと音を立てながら開ける門番。
「はあ…はあ…ど、どうぞ」
「あ、ああ」
(このくらい自分でやるのだがな……)
門の先に見えるのは、広々としたエントランスホールに、余を模した彫像。
見ていて少しむず痒い。
「おや?魔王様、帰ってらしたんですね。お出迎えできず、申し訳ございません」
そう言って、こちらを見ているのはリセリナ。
何やら忙しげだが、大丈夫なのだろうか。
「かまわん、気にするな」
「どのようなご用向きでしょうか?」
「それが、2人の実家に向かうことになってな。連休中に行かねばならんから、あの馬を頼みたい」
少しの時間の後、口を開く。
「なるほど……では、そのように手配します」
「いつも苦労をかけるな、リセリナ」
「いえ、滅相もございません。あっそういえば、恐縮ですが魔王様、こちらの資料をご確認いただけますでしょうか?」
「かまわん。どれ……」
そういいながら、渡された書類を見る。
「ふむ……」
どうやら、この魔王城に“エレベーター”なるものをつける計画案のようだ。
資料を見る限り、かなり大掛かりなもののようだが、この建物自体、今後の魔属領の会議や謁見をするにしても大きすぎるほど故、恐らく問題ないだろう。
むしろ、デッドスペースを活かせるいい機会だ。
「構わん」
「ありがとうございます!では、失礼します」
一礼をした後やはり忙しかったのか、素早く避けていく。
そして余も、リセリナを信じ帰路につくのだった。
━━━━━━今は、何時だろうか。わかりようもない。
だって、目を開けていないのだから。
外は既に、屋台や店が始まっているようだ。
「寝坊したあああ!!」
そんな叫び声が、隣から聞こえる。
間もなくして、勢いよく扉が開く音。
「あれアルバ君は……まあいいや!」
すぐに僕の方も開く。
「コウキ君も、ほら起きて!」
セランが俺の毛布を引っぺがす。
時計を確認すると、今は8:30。
寒くはない。
が、どこか寂しい。
「やだあ……」
「もー駄々こねない!寝坊だよ寝坊!」
「はいはい起きます…起きますよ……」
そういいながら、寝返りをつく僕。
そろそろマットレスの買い替え時だろうか、少し腰が痛いような。
「僕も寝坊してなんだけどさ!はやく起きようよお!」
「わかったって!」
渋々起き上がった。
「ふわあっああ……おはよー……」
「おはよう!ハイ早く支度して!」
被さる様に、扉が開く。
「馬車の用意できたぞ」
入ってきたのはアルバ。
(ばしゃ……なんのこ━━━)
段々頭が覚めてきた。
そういえば、今日は帰省の日だった。
僕のじゃないけど。
「ちょっと早くしてよ!結構目立つんだから!」
後ろからリセリナの顔も見える。
「なんでおるん?」
「そんなの、護衛と運転に決まってるでしょ?」
「あっそっすか」
顔から察するに、それだけではなさそうだ。
「あれ?リセリナさんも来るの?」
奥で歯磨きをしようとしているセラン。
その顔は、どこか残念そうな気も。
「セラン君おはよぉ!あ!そ、そういえばぁ、セラン君の実家にも、行くんだっけえ?」
「なるほどねえ……」
これが目的だろう。
というか、わかりやすすぎる。
「おはようございます!今日はよろしくお願いします!」
寝起きで大きな声を出しているせいか、少し枯れている。
「というか、セラン君の実家ってどこなの?」
「あ、聞いてなかった」
「ちょっともう……」
大きなため息。
すると、リセリナはポケットからおもむろに地図を取り出すと、セランに見せるようにして広げた。
「どのあたり?」
「えっと……ここです」
黄みがかった地図に、ビシッと指をさす。
「ここね。わかったわ」
さされた場所に印をつけると、それをきれいに折りたたんで、後ろポケットへと戻した。
「じゃあすみませんけど、ちょっと準備してきますね」
「はーい」
(僕とセランで対応違いすぎね?)
そしてセランは、玄関の扉を閉めた。
━━━大体15~20分ぐらいだろうか。
準備を終わらせ僕たちは外へと出る。
とは言っても、歯磨き・着替え・荷物整理くらいだ。
「おまたせ~」
「あら、時間かかったわね」
セランが出たのを確認すると、しっかりカギをかける。
「お待たせしてすみません!」
「いやいいのよ!」
「……ひどくね?」
「では、いくか」
僕は苦虫をかみつぶしながら1階へと降りる。
そこに待っていたのは、くすんだカーキ色の体、薄く光るエメラルドグリーンの鬣と尻尾、大地を彷彿させる茶色く大きい脚を持つ馬だった。
「ふふんすごいでしょ。これはね、魔王城で交配させた特殊な馬でね、親種は━━━」
「じゃあよろしくぅー」
「ちょっとぐらい聞いてもいいじゃない!」
遮るように馬車の車に乗る。
座席にはクッション性のものものが使われているようだ。
「今日はよろしくお願いします!」
「ええ、よろしくね」
続けてセラン。
「今日は頼むぞ」
「承知いたしました」
最後に、アルバが乗った。
「じゃあ行くわよ?」
パシンという音がすると、ゆっくりと動き出す。
少しの揺れが心地いい。
「おお~!」
僕は、こういう荷台とかじゃない馬車に乗るのが、割と初めてだ。
だからか、ただの街中でも楽しい。
「すごお!」
セランは、僕よりもキラキラとした目で外を見つめている。
(こういうの、田舎者っていうんかな……ひどいもんやで、世間って)
「ねね!あれって、この前行ったじゃない!?」
「あーほんまや」
「あそこか」
そこには、いつぞやに行った焼き肉屋。
少ない金を出し合って食べたのがなつかしい。
そんなこんな話していると、外への門についたようだ。
「そこの馬車止まれ!」
甲高い馬の声とともに、馬車が急停止する。
少し聞こえにくいが、揉めているわけではなさそうだ。
「なんでしょうか?」
「見たことのない馬だが、お前は魔族か?車室には何が乗っている?」
(車室って言うんやこれ)
「魔王様と、そのお友達よ」
「ま、魔王様?冗談はよせ!確認させてもらう」
鎧が揺れる音が近づき、兵士らしき者が扉を開けた。
「魔王とやらはそこのお前か。なにか証明できるものを見せろ」
「証明……といっても、何を見せればいい?」
「知るか!元からお前が魔王だとかは信じていない。とにかく、身分を証明できるものを見せろ」
「いや余は魔王だが……」
少し当たりの強い野郎だ。
何か警戒しているのだろうか。
「あ、学生証あるやろ?」
「ああその手があるか。これでよいか?」
そして、どこかから学生証を取り、すっと差し出した。
そこの兵士は、学生証をじろじろと見つめて……。
「はいはい学生か。まあそういう時期もあるだろうから今回は見過ごすが、あまりこういう場で…は……え、えええ!!」
驚いたように後ずさり、腰を直角に曲げる。
「すすすみませんでした!まさか本当に魔王様だとは知らず!」
「そういうのよいから頭を上げろ。そこまで警戒するということは、なにかあるのか?」
兵士が顔を上げると、鎧の中から手配書を取り出す。
汗臭そうな紙だ。絶対触りたくない。
「は、はい……最近近隣の町に魔族の指名手配が現れたらしくて、警戒態勢を強めるよう言われているんです」
「そうか……すまないな」
「はい!では、お気をつけて!」
門が開き、僕たちの馬車は進む。
街中よりも、颯爽と、素早い速度で。
「おーはや……速すぎじゃない?」
セランが、びっくりした様子で外の草原を見つめている。
たしかに、きれいな景色だ。
そして僕は、外に手を伸ばし、風を掴むように握る。
「コウキ君何してんの?」
「いやさ、なんか、言うやろ?速く動いてるとこで手出したら、おっぱいの感触するみたいなやつ」
実際、おっぱいを通り越してマッチョの大胸筋だ。
これはつまり、現代の高速道路の速度はゆうに超えているということだろう。
「え、なにそれ?もーバカなことしてたら、怪我するよ?はい手しまって!」
そう言われ、僕は手をしまう。
風が気持ちいい。
「ほんとに危ないから、手はしまっときなさい?多分もう500キロは出てるから」
「はーい」
「へー500キロも出てるんだ……じゃあ、窓閉めないと危ないかな?」
「ある程度風除けとか衝撃吸収とか、色々魔法かけてるから大丈夫だと思うけど、もう少し速度も上げるし、心配なら閉めておいたら?」
たしかに、500キロも出ている割には風が弱いし揺れも弱い。
さすがは魔族といったところか。
「なるほど……ありがとうございますリセリナさん!」
「フフッいいのよ。あなたもお客さんなんだから、横のバカみたいにゆっくり過ごしてね」
「ははは……」
バカとは、誰のことだろうか。
横は、僕しかいないはずだが。
「ていうか、セランの実家ってどんなとこなん?」
「ん?えっとね、すんごい田舎なんだけどね?野菜が大きくておいしいんだ!」
「へー」
「よく仕送り来てたでしょ?あれだよ」
「あーあれか」
僕たちの家に、定期的に荷物が届いている。
その中は大半が野菜なのだが、いつも少し困るぐらい多いのだ。
「セランの実家…か……どういう人なのだ?」
興味深そうなアルバを見るのは珍しい。
見ていて、少し面白い。
「あー…僕ね?おばあちゃんっ子でさ?世話焼きで、そのせいでちょっと嫌な時もあるんだけど、すごく優しくてあったかい人なんだ!」
「ほう……セランは、好きなのか?」
「うん、大好きだよ!」
「そうか」
そして大体二時間後。
僕たちは、酔い止めと馬の手入れのため、休憩に入っていた。
近くには、民家もいくつかあるようだ。
「あ~疲れたぁ……あと半分かあ……気が滅入るわあ」
「お疲れー」
それと、リセリナの休憩も含めて。
「もーあんたが変わってよ」
「そんなんやったことないわ」
「はあ……腰とおしりが痛い……」
ふと振り返ると、アルバとセランがいない。
「おーい!」
と、思っていたら、左からセランが走ってきた。
その後ろには、アルバも歩いている。
「どしたん?」
「ちょっとね、近くに川と果物の木あったからさ、水汲んできれいにして、近くのおうちからいろんな果物もらってきて、いくつかジュースにしたからさ、はい!」
そう言って渡してきたのは、冷えた革袋とモモ1個。
「あざす」
「これ、リセリナさんの分です!残り半分も、お願いします!」
リセリナには、革袋とモモ二つを。
「あ、ああ、……コウキ」
「?」
「あと半分も任せときなさい!」
「お前……調子いいやつだな」
ごくごくと、勢いよく飲むリセリナ。
「おいしー!これすもも!?」
「はい!こっちのモモも、甘くておいしいですよ!」
「じゃあこっちのモモも、後でいただくわね」
そんなこんなで、僕たちはまた進みだした。
4話前編、読んで下さり、ありがとうございました!
よければ、ご感想・ご指摘あれば是非!
次回は日曜の昼12:00投稿ですから、お忘れなく!
あと、運転中に手出すのは普通に危ないのでやめようね
じゃっ!