学園都市でショッピング!事件もあるよ!
前回は、迷子の子の回でしたね!
では第3話、よろしくお願いします!
━━━ここは魔族領にある魔王城、大会議室。
「━━━以上が、今月の総収支と、それをふまえた今後の予算案でした」
私の発表とともに、拍手が起こる。
いつもなら、安堵のため息をつくところだが、今日は違う。
「では次に、魔王様の居住に関する件について━━━」
「っ!!」
司会の一言に私の体が跳ね上がる。
これが、今回の本題といってもいいことだからか、先ほどまで寝ていた者たちも、パッと起き上がったようだ。
「では、ヴェルディア側近」
「はっはい!」
慣れているはずなのに、言葉が詰まる。
私の発言次第で魔王様が返されてしまう。
この焦り、不安。 いつぶりだろうか。
「コホン」
落ち着くための咳払い。
「ご存じかとは思いますが、魔王様は、3人で共同生活されておられました。場所は、学園都市内のアパート、防音付きらしく、家賃は大銀貨1枚ほど。部屋割りは、コウキ殿ともう一人の方が6畳に対し、魔王様は12畳。家賃は魔王様が2割、残りの二人が4割ずつ負担されているようです。以上です」
すっと座るとともに、会議室がどよめき始める。
「(ねえ、ちょっと小さくない?)」
「(そんな安いトコ住ませてるのも……ねえ?)」
「全く、狭くないかあ?アパートっつうのはな……魔王様の部屋狭くないかあ?魔王様のアパートは狭いぃっ!」
「静粛に」
司会がどよめきを止める。
しかし━━━
「本当だからだぁ!」
「発言は質疑応答の時に」
「本当のこと言って何が悪いんだこのバーカぁ!」
「ギョー議員、これ以上の私語をする場合は、ご退出願います。狭すぎるのではという質問でよろしいですね?ではヴェルディア側近」
面倒くさくなったのか、強引な進行だ。
「はい。そもそも学園都市自体が小さい町でして、他の町に比べて物件の敷地面積が小さいんです。それに加え、他の住人の都合などから照らし合わせた中で、一番いい物件を選んだと、聞いております」
少し答えになっていない気もするが、まあ大丈夫。
「正しい根拠を言え!!正しい根拠だお前が正しい根拠を言え!」
「ギョー議員、ご退出願います」
その掛け声とともに、ギョー議員はぶつくさとつぶやきながら外へと消えた。
「では、質疑応答を続けます」
「はい」
「セリナーク議員」
よく鋭い指摘をくれる女性議員だ。
いつもは助かるが、今回は話が別。
かなりの強敵だ。
「先ほどの質問と被るようですが、大銀貨1枚は、安すぎるかに思います。せめて大銀貨3枚ぐらいが妥当かと思いますが、いかがでしょうか」
(くっ!きたわね……)
勿論、この質問は想定済み。
「ヴェルディア側近」
「はい、先ほども申しましたように、他の同居者の都合を考えたうえでの額だと、伺っております」
「はい」
「セリナーク議員」
「同居する必要はないのでは?」
「ヴェルディア側近」
「いえ、今回は、同居前提ですので、それはできません」
そうして、この議題の質疑応答は、30分以上にものぼり、その結果、なんとか様子見しつつ抜き打ちの点検を続行という所までで抑えられた。
上手いことやっただろう。
さすが私だ。
「はあ……」
いつもの、何倍もの疲労感だ。
「お疲れ、大変だったのう」
「はあ……ほんとよ。でも、あなたもね、ラズ」
今日の司会を務めてくれた、同じく側近のラズベルトだ。
同じ立場として互いに高めあった仲で、向こうだけ歳をとってしまったが、今でも仲のいい友達だ。
「魔王様元気にされておったか?」
「そうね、気楽に過ごされておられたわ」
「ほっほっそうか、それはなによりじゃ。今度はわしもいくからの、じゃあの」
「えっ?ちょっ!」
かなりまずいことになった。
(まずいまずいまずい!)
ラズベルトは、私にも引けを取らないくらいの忠誠心。
もしリビングに住んでるなんてバレたら、どうなるかわからない。
(ま、まあなんとか……なるわよ……ね?)
半分、投げ槍だ。
━━━━━━「よし、余そろそろ公務行ってくる」
「いってら」「いってらっしゃーい!」
迷子の件から数日。
今は冴えわたるほどの晴天のある日。
「それにしても、暇だねえ……」
「な」
今日は、学園の9連休の休日、その初日。
やることもなく、今はただ惰性と時間をむさぼっている。
「あ、そうだ!服買いに行かない?」
「え~めんどっ」
「いいじゃんいこうよお~」
僕は、服への興味がほぼ皆無なのだ。ファッションだとか、ウインドウショッピングだとかより、治安維持や、側溝の清掃など、街のボランティア活動をしていたいと思うくらいに。
「でもさ、さすがに長袖ないのはまずいと思うよ?短パンだけは、まだしもさ」
「え~でも売っとん?もう6月やで」
「多分大丈夫だと思うよ?よし、じゃあ行こ!ほら!」
無理やり手を引いて、僕を外へと連れ出そうとするセラン。
「わかった!わかったって!」
そうして僕は、半ば強制的に外へと出てきた。
少しだけじめっとした空気に、撫でるように優しい日差し。
外を歩くには最適な天気のようだ。
「あ、セラン君かい!?今日学校休みなの?」
「こんにちは!そうなんですよ、だから友達と服を買いに来てて!」
しばらく歩いてきた僕らは、屋台のおばちゃんに足を止められていた。
街はいつもながら活気に満ちているが、休日だからか、学生が多い。
「あらそうなのぉ!でもせっかくなら、何か買ってかない?」
「そうですね、じゃあタレ2本お願いします!」
「あいよ!じゃあもう2本おまけしとくね!」
「「ありがとうございます!」」
そんなこんなで、色々な屋台が、うちもうちもと、買い食いさせられ、手持ちがパンパンになってしまった。
勿論ながら、手は洗った。
「あ!ゴミ箱あったよ!」
「お、ラッキー!」
こういう所にはゴミ箱ぐらいあるだろという気持ちで、20分歩き回ってようやく見つけた。
そして、よく見ると……。
「あ!あれ服屋じゃん!」
真っ白なマネキンに、おしゃれなコーデ。
奥をよく見ると、規則的に並んだ大量の服・ズボンたち。
「そういや本題そっちか」
「もー、逃げようったってそうはいかないよ?」
「いやいや……そんなつもりないですよお」
なんとかごまかして、そのまま帰ってやろうと思っていたが、そう上手くはいかないものだ。
少し重厚な扉を開くと、涼しい風と、おしゃれな女性店員達が、僕らを出迎えてくれた。
こんなおしゃれな店に、パジャマ姿で入るのだから、なんだか申し訳ない。
「いらっしゃいませ!」
家にいたら、聞くことがないくらい通った声。
「コウキ君、服わかんないでしょ?僕選ぶから待ってて!」
「余裕で失礼やな。あと、お前そんな詳しかったっけ?」
「コウキ君よりはわかるよ!いいから待ってて!」
そうしてセランは、服の海へと消えた。
待っている間、暇なのであたりを見回す。
それにしても、本当に服が多い。
ただ多いだけではなく、種類も豊富で、手の届かない上の方にまで服がある。
そして、目線を下に移すと、会計口の二人の店員が、何やら話している。
━━━「(ねえ、あの二人、ちょーかわいくない!?)」
「(ね!ほんとね!)」
「(ほんとに……なんか歪んじゃいそうだわ……)」
「(ねね、どっちがタイプよ?!私はね、服探してる子!)」
「(私は白髪の子!……ってなんか、あの子こっち見てない?)」
「(ほ、ほんとね……聞こえてたかしら……)」
「ちょっと2人ぃ!暇ならこっち手伝って!」
「「は、はーい」」
━━━まあ、服屋にパジャマで来ていたら、煙たがられるのは当然だろう。
彼女らと僕とでは、価値観が違うのだ。
「ちょっと2人ぃ!暇ならこっち手伝って!」
「「は、はーい」」
そうして二人は、声の方へと消えた。
「ごめんおまたせ!」
間もなく、申し訳なさそうな顔のセランが帰ってきた。
「ごめん、わ、わかんないや」
「いや、いいよ」
こんなことは、もちろん想定済み。
「んー…でもどうしよ……ここまで来てコウキ君の服、買わないっていうのもなあ……」
「僕に任しとけって!」
だから、最終手段を用意していた。
「え?もしかしてコウキ君、詳し━━━」
「すみませーん!」
「あ、聞くのね……」
そう、結局僕らみたいな素人は、この道のプロに聞くのが一番なのだ。
「はい、お呼びでしょうかぁ」
「あの、長袖の服を探してるんですけど、僕ら何がいいのかよくわかんなくて……」
「はい!お任せください!」
自信満々のプロの顔。 非常に頼もしい。
━━━「あの……」
「お似合いですお客様ぁ!!」
「ほんっとに似合ってるよコウキ君!」
その格好に着替え、試着室から出た僕を、セランと店員の笑顔が出迎えた。
「これって女物じゃ……」
着せられたのは、黄みがかった白の、ローゲージで立体的なケーブル編みのニット、名前はわからないが滑らかな生地でぶかぶかとしたズボン。
長袖と長ズボンが肌にあたる感じ、少し気持ち悪いというか、違和感がすごい。
ただ、よくわからないが、2人の反応を見ていたら、何とも言えない気持ちになっている僕もいる。
「どうですかお客様ぁ?」
「そうですね……ちょっと肌触りが……あとズボンは、短いのでお願いします」
「はい!でしたらこれはウールの生地にして、下はあ……チャコールグレーのタックワイドハーフパンツなんて、いかがでしょう?!」
「じゃ、じゃあそれで……」
(な、なんて?)
そして、改めて持ってきたものを着てみると、先ほどよりも肌触りがよく、下も短くて縛られる感もなくて、先ほどよりかなりいい感じだ。
「お客様こちらもお似合いですぅ!どうでしょうか、お客様!」
「じゃ、じゃあ……これで……」
「はいありがとうございます!他のものも、お試しになられますかあ?」
「いえだいじょ━━━」
「お願いします!」
断ろうとした僕を、止めるように遮るセラン。
こういう所は、本当に抜け目ない。
「はいありがとうございます!」
そうして僕は、さっきのに加え、あらゆる服を買わされた。
会計の金額に、恐れ戦いている。
━━━「じゃっ僕外で待ってるから」
「おん」
お店特有の、少し重い扉を開け、外で待っていると……。
「坊や、ちょっといいかの」
少し腰の曲がった老人が、近寄って話しかけてきた。
どうやら右手には、地図を持っているみたいだ。
「はい、どうしたんですか?」
「ちょっとの、行きたいとこがあるんじゃが、道がわかんなくての……」
少し弱弱しく見える見た目でも、目の奥はどこか据わっている。
まるで、万年を生きてきたみたいな。
「そうですか。ご協力できればいいんですけど……ちなみに、なんて場所ですか?」
「えっとたしか…オコリ荘…とかだったかの」
オコリ荘。 ちょうど僕らが住んでるところだ。
「それならわかりますよ!地図見せてくれませんか?」
「おお、もちろんじゃ!」
広げてもらった地図に、僕らが住んでいるアパートを指さす。
地図なんて見ることないから、少しもたついてしまった。
「ここですね」
「おおここか!助かったぞ坊や!」
「いえいえ」
「それにしても、変わった名前じゃの」
これには同感だ。
それで入居者が少なくて、家賃を下げたという話も聞く。
僕らとしては助かるけど、いいとこなのにという気持ちもある。
「たしか、これ建てた大家さんの名前が、オコリだったから、とか聞いたことありますよ」
「ほおそうじゃったか。なにはともあれありがとの」
「いえ、お気をつけて!」
その言葉を背に、老人は僕らが来た道を戻っていく。
そして、しばらくが過ぎると、手持ちいっぱいの袋を持ったコウキ君が戻ってきた。
━━━「おっすおまたせ」
何とか会計を終え、外に出ると、退屈そうに立ち呆けているセランを見つけた。
「うん!にしても、すごい荷物だね!半分持つよ」
「いや大丈夫。心配するなら僕のお財布の心配をしてくださいな」
「フフッそれは難しいなぁ」
そんなことを言い合っていると、2人の男と1人の女性が、どうやらもめているようだ。
遠目ではっきりとはわからないが、女性の方はどこか見たことあるような気も。
「いやって言ってるじゃないですか!それに私、旦那もいるんです!」
「いいじゃんかよぉ別に」
「そうだぜ?ただ飯食うだけだってえ」
聞くに堪えない会話だ。
周りも気味悪がるような目で見ているが、長めの髪と金髪の二人組を怖がっているのか、誰も助けようとしない。
「もう、私行きますから!」
その場を踏みしめるように歩いて、立ち去ろうとする女性。
「おい待てよお」
金髪の方が、その手をガッと掴む。
「いっ!離して!」
「だから逃げようとするからだろ?」
「そうだぜ、話ぐらい聞けよ」
(諦め悪いな……みすぼらしくならんのかな)
「セラン、止め━━━」
「ちょっと!」
横を見るとセランはおらず、再び前を見ると、女性を掴んでいる手を掴み、もうすでに止めてたようだ。
「なんだよお前」
「ガキはどっか行ってろ!」
長髪の方が、セランを押しのけ、尻もちをつかせる。
さすがに、もう見てられない。限界だ。
「なにしてんだ」
「「あ?」」
僕の声に、2人はこちらを向く。
「あ、あなたは!」
近くで見ると、なんでわからなかったのかというぐらい、はっきりとわかる。
「あ、もしかして」
「エマちゃんのお母さん……ですか?」
「はい!その節は本当に……!」
迷子の子、エマちゃんのお母さんだ。
「おいおい」
「俺らおいて、そっちでやってんじゃねえよお」
男どもは、イライラしているようだ。
「んだよ、帰ってもいいぞ別に」
「調子乗ってんじゃねえよ!」
「ま、まあまあ……」
冷静にさせようと、この場を宥めるセラン。
「なんだよお前!きれいな人の前だからってカッコつけても、てめえみてぇなガキはモテねえよバーカ」
「ははは……」
金髪の罵倒に、ひきつらせながら笑っている。
セランをここまでこき下ろして、許せない気持ちもあるが、ここは我慢だ。
「こっちの白い方なんか、その辺の女よりちっせえじゃねえかよ!ザコはガヤどもみてえに黙ってみてりゃいいんだよ!」
「「ハハハ!!」」
長髪の罵倒は、僕に向けてのようだ。
これもセランに向いていたら、本当に危なかった。
少し気になってセランの方を向く。
「……」
目に、何の光もない。
僕ですら少し怖くなるくらいに。
「あの……訂正して、もらえますか」
声色が、低くて暗い。
怒りの感情を、そのまま表したような。
「んだよ、大口叩いてんじゃねえぞ!」
「消えてろザコども!」
金髪はセランに向かって、長髪は僕に向かって拳を振り上げた。
その瞬間━━━
「「ううっ!!」」
その二人が倒れこみ、地面をミミズのように這いずり回る。
セランを見ると、片手をひねるように握っているようだ。
「あー……」
おそらくセランの魔法だろう。
こいつのは少し特殊だから、ぱっと見ではわからない。
「おーいセラン!」
目を覚まさせるように肩を揺らす。
「…あ、コウキ君……ちょっと…やりすぎたかな……?」
まずそうに笑うその顔。
どうやらいつものに戻ったようだ。
「あ、御怪我は大丈夫ですか?!」
エマちゃんのお母さんに駆け寄り、握られた手を掴むセラン。
「はい、おかげさまで」
「よかった……ど、どうしましょう……これ……」
「いやお前がやったんやろ」
お願いと言わんばかりの目だ。
(しゃあないなあ……)
「わかった……とりあえず、警備隊呼ぼか」
そうして、警備隊を呼び、男2人を連れていってもらった。
僕らへの暴行未遂や罵詈雑言、非力な女性を無理矢理掴んで連れていこうとしたことなどが連行の理由となった。
そこからの事情聴取は長く、僕が警備隊に多少顔が知れていることなどから、正当防衛とみなされ、少しの注意程度で済んだので助かった。
その時知ったが、このエマのお母さんは、ミレーネというらしい。
もうすっかり夜だ。
お腹がすいているし、晩御飯も買えていない。
これからどうしたものか。
「あの、ほんとにありがとうございました!」
「いえいえ構いませんよ。なっセラン?」
「う、うん……ありがとう」
「本当に、前回のこともありますし、何かお礼を!」
「いやいや、ほんとに構いませんよ!」
「セランの言う通り、ほんとに何も━━━」
このタイミングで、お腹が鳴ってしまった。
「あら、フフッ」
かなり恥ずかしい。
若い女性の先生を、お母さんと呼んでしまった時くらい恥ずかしい。
すると、ミレーネさんは手をパンッと叩き━━━
「あっもしよかったら、これからうちでお食事していきませんか?!」
どうやら話を聞くと、ミレーネさん一家は噂に聞いた新しい飲食店の店主さんらしい。
僕らも、いつか行こういつか行こうと考えていた。
「いいんですか?」
申し訳なさそうなセラン。
「はい!以前魔王さ……アルバさんにも話しているので、是非皆さんで!」
「なら、お言葉に甘えて」
「ちょっとコウキ君!?」
こういう時くらい、言葉に甘えるのが筋というものだ。
「お二人とも、とてもかわいらしいですけど、ほんとはかっこいいんですね。じゃあ、お店で待ってますよ!」
そういって、小走りで去っていくミレーネさん。
「「……」」
顔を真っ赤にしてしまう僕とセラン。
「じゃあ……とりあえず、帰るか」
「そ、そうだね……服もあるしね」
そうして僕らも、アルバを呼ぶため、家への歩を進めるのだった。
第3話、お読みいただきありがとうございました!
今回は、セランが輝く回でしたが、どうだったでしょうか?
一応、暴行未遂でも暴行罪は成り立ちますから、このお二方はアウトですね!
加えて、女性を無理やり連れ出そうとしてるので監禁未遂罪も成立して
実際の裁判だと、大体1年~1年半の懲役 執行猶予付き
が妥当らしいです。
ただ、二人で共謀してると取れて、悪質性も高いし、コウキとセランへの暴行未遂、罵詈雑言からして再犯率も更生可能性も低そうなので、執行猶予の可能性も低そうですし、もしこれが初犯じゃないならおそらくそのまま実刑になりそうですね。
ということはさておき、もしよかったら、感想・ご指摘下さればうれしいです!
では、次回もよろしくお願いします!
じゃっ!