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迷子と囲う鍋

前回は、魔王の側近が来た話でしたね!

では、第二話、お楽しみください!

 ほとんどセランとリセリナだけが話していたステーキ屋から数日。

 外はすっかり暗くなってきて、大体7時くらい。


「なあどうするー?」

「「?」」


 僕たちは、セランの部屋に集まっていた。


「いや、ゴミ捨て」


 男3人のルームシェアだと、結構ゴミがたまる。

 この前のゴミ捨て日に出し忘れてしまったのもかなりでかい。


「えーめんどくさいから行ってよー」

「余も」


 片方は椅子に座って本読んでダラダラして、もう片方は人のベッドに座って本読んで府ダラダラ。

 こいつらは、僕もそうだとは思わないのだろうか。

 ベッドでダラダラしているのは、僕も同じだが。


「僕もですわ。あと、僕溜まってるって言ったから、一歩リードね」

「見つけた人から行くべきでしょ?はい一歩リード」

「余、魔王だから一歩リード」

「「ずる」」


 足並みそろってしまった。

 こうなったら、水掛け論の押し問答だろう。

 こうなったら、最終手段。


「うし、ジャンケンで決めるか」


 僕のその言葉で、2人はすっと立ち上がった。


「来ると思った」

「やるか」


 何の手を出すかは決めてないが、運で負けるつもりはない。


「ちょっと待って!考えるから」

 始めようと手を出した僕を、セランが静止してきた。

 考えるとはいっても、ほとんど運だと思うが。


「余も、代々伝わるジャンケン必勝の儀式━━━」

「んなもんないやろ」


「よし、大丈夫だよ!」

「……よし、余もいいぞ」

「よし」


 少しの緊迫感。


「「「ジャンケンポン!!」」」


 セランはグー。アルバもグー。

 かく言う僕は、チョキ。


「くあああ!!めんどくさあ!」


 立ち上がった足から力が抜け、崩れ落ちる。


「よっしゃ!じゃあお願いしまあす」

「頼んだぞー」


 のんきにダラダラする体制へと戻る2人。


「じゃあ、時間も時間やし、鍋の準備しといて」


 そう、今日は鍋なのだ。

 どうやら、こっちにも日本食らしきものがあるらしく、ワコク料理というらしい。

 多分、いつかどっかの僕みたいな転生者だか転移者が伝えたのだろう、名前的にも。

 ちなみに今日は豚骨鍋である。


「じゃあいってらっしゃい」

「ありがとな」


 そんな声を背に、外に出た。

 ここからゴミ捨て場までは、歩いて大体10分強といったところ。

 

「あーめんど」


このファンタジーな街並みにも、すっかり慣れたものだ。


「ふっ」


 とはいえ、こんなきれいな街並みを、ゴミ大量に持って歩いている自分の姿を想像すると、少し笑えてくる。


(そろそろか)

 そんなことを思っていた頃。


「?」


 木々が、微かな風に揺られる音すら聞こえるくらい、静かな夜の中、何か聞こえてくるような。


「……えーん……」


 誰かが泣いているような声、か、音。


 自然と身を構える僕。


 少しゆっくり歩き、近づいていくと……。


「うえーん!ママあ…どこお……!」


 ゴミ捨て場の近くで、座り込み、泣いている女の子。

 だいたい、4~6歳くらいだろうか。


「そんなとこ座ってちゃ、汚れちゃうよ?」


 一旦ゴミを捨て、その子に話しかける。


「おじさん、だあれぇ?」

 肩をしゃくりあげながら、答えてくれたその子。

 目の腫れ具合から、結構前から泣いていたのがわかる。


「おじさんは、この辺に住んでる学生だよ。君は?迷子…だよね、多分」

 こういう対応は、セランが向いているのだが、今は仕方ない。


「うん……ママとね、はぐれちゃったの」

「んー……どうしよ…ここじゃあ警備隊も遠いしぃ……」

「ひぐっママぁ……」

 色々考えている間に、また泣き始めてしまった。


「じゃあ…うち、来る?」

「え?」


 めんどくさいから、一旦預かってしまおう。

 探すのは、明日の朝からでいいだろう。


「夜じゃ危ないしさ、おじさんたちこれから鍋するんだ。よかったら食べない?嫌なら、一緒に警備隊のところ行くでもいいんだけど」


 警備隊のところだと、不審者だとか思われかれないし、本当は明日の朝に探したい。

 だが、嫌なのに連れて帰ると、それこそ本当に誘拐だ。


「なべ?うん、たべたい!」

「よし、じゃあいこっか!」

「うん!」



━━━そうして、帰り際に色々聞いたところ、どうやら、最近こっちに越してきたそうだ。

 それは迷子になるのは仕方ないだろう。


「ただいまー」

「あ、おかえ━━━え、その子どうしたの?!」

 焦った様子のセラン。

 仕方ないだろう。


「なんだ、迷子か?」

「そそ。この子も鍋食べたいらしいけん」

「そうなの?よろしくねー」


 セランが近づき、手を出して握手を求める。


「うん!よろしくねおじさんたち!」

「余もよろしくな」

「うん!」


 さっきから、いい匂いとコトコトという音がリビングを包み込んでいる。


「あ、もうできてるよ」

「あざす。あ、そうだ靴は脱いで、そこ入れてね」

「わかった!」


 そうして僕たちは鍋を囲んだ。

 出汁が染みていて、かなりおいしい。


「あ、聞いてなかった。君、お名前はなんていうの?」

 セランが、女の子に向かって聞いてくれた。


「わたしはね、エマだよ!おじさんたちは?」

「僕はコウキ」

「余はアルバ」

「僕はセランだよ」


 そういいながら、鍋をつつく手を止めない僕ら4人。


「アルバ、肉ばっか食べ過ぎちゃう?」

「肉うまあ」

「聞いちゃおらんぜこいつあ」


 とはいっても、指摘したら、こんにゃくにも手を付けた。

 鍋にこんにゃくは少し変な気もするが。


「エマちゃん、もしかして、白菜苦手?」

「…うん、にがてなの……」


 セランの問いに、少し顔を暗くしながらも答えるエマ。


(まじでこいつ、子供の相手上手いな)


「じゃあ、いっかい食べてみない?」


 食べてみないと解決しない、という判断なのだろう。

 幸いにも、ここの白菜は豚骨が染みてるので、言うほど白菜白菜はしてないだろう。


「……うん、やってみる」


 嫌そうながらも、頑張って口に入れようとしている。


「無理しなくていいんだよ?」

「そうだぞ、余も好かんし」

「お前は食え」

 ほぼガヤの僕らの声。


 そして、勢いよく一口。


「……どう?おいしい?」

 心配そうに聞くセラン。


「…うん、おいしい……けど……」

 少し無理しているのが、僕でもわかる。

 かといって、食べれないわけではなさそうだ。


「あ、ちょっと待って。ポン酢あったっけ?」

 ポン酢まで加われば、案外行けるのではないかと思ってのことだ。

 僕も、そうやって色々克服した。


「あ、それありかもね」

「ポン酢なら、切れそうだったから買っといたぞ。冷蔵庫の右だ」

「おっやるじゃんアルバ」

「フン、余を誰と心得る」


 小皿を取って、冷えたポン酢を半分まで注ぐ。


「じゃあ、食べてみて」

 セランが白菜を取ってポン酢につけ、エマの口まで持っていく。


 パクッと一口で食べると、しばらく咀嚼した後。


「おいしい!」

「「「おー!」」」


 子供の成長を喜ぶ3人。

 これではまるで、ほんとうにおじさんみたいだ。


「なんか、こっちまでうれしいな。僕らけっこうおじさんなってきたんかな」

「ね、あははっ」

「余はそうだがな」


 見た目は僕らと同じくらいだが、実年齢でいうとアルバは遥かに上だ。


「あ、そうや。ちょっとセランさ、張り紙してきてくれん?」

「え?ああこの子の?いいよ、ちょっと待ってて」


 そういうと、セランは部屋に戻ったかと思えば、しばらくして紙とともに玄関に向かった。


 チラッと見えただけだが、紙にはこう書かれていた。


 “迷子預かってます!”

・4~6歳くらいの女の子

・茶色い髪のストレート

・名前:エマ

 心当たりございましたら、207号室お尋ねください!


 そんなことを、きれいな字で書いていた。


「じゃあ、いってきまーす」

「「おう」」「いってらっしゃーい!」


 バタン。その音ともに、セランの姿が見えなくなった。


「ねね、おじさんたちって、いつもはがっこーにいってるの?」

「そうだな、確かに余らは学生だが、余とコウキは、毎日通うわけではない」

「?」

 何を言っているのか、わかっていないようだ。


「えっとね、セランは、月曜から金曜までちゃんと行ってるんだけどね?僕とアルバはちょっと特別で、あんまり通わなくても大丈夫って言われてるんだ」

「そ、そうな…の?」

「まあ、まだわからなくてもよい」


 そんなことを言っていると、セランが帰ってきた。


「ただいまー」

「「おう」」「おかえり!」


 エマは、もうすっかりこの空気に慣れたようだ。


「じゃあ、続き食べよー!」

「あ、どこ貼ったん?」

「えっとね、外の塀のとこだよ」

「あーね」



━━━そうして、しばらく鍋をつついていた時だった。


 コンコンと、ノックの音。


「僕出るわ」

「ありがと」

「おう」


 ガチャッと開ける。


「はーい」

「あ、あの……!」


 奥には、汗ばんだ女性が、息を切らしながら立っていた。


「あの、張り紙見て、来たん、ですけど!」

「あ、はい。ちょっと、エマちゃん?」


 振り返って、エマに聞くと、こっちに駆けてくる。


「はーい!」

「この子、エマちゃんのお母さん?」

「ん?」


 後ろから、顔を出した瞬間。


「ま、ママぁー!」

「エマぁ!よかったあ!ごめんねえ!!」


 互いに強く抱き合う。

 こっちから見える母の顔は、涙でぐしゃぐしゃだ。


「あのっ!ほんどうに、ありがどうございます!」

 鼻の詰まった、叫ぶような声。

 それほど心配していたのだろう。


「「いえいえ」」「かまわんぞ」


 なぜだか、僕まで喉が熱くなってきた。


 ちらっとセランを見ると、彼はもう目に涙をためている。


「ママ、あのね?このおじさんたちがね?」

 そういいながら、僕らを指さす。

 よく見ると、きれいな爪だ。

 きっと、この母がきれいに手入れしているのだろう。


「うんっあの、本当にありがとうございます!」

「いえいえ、見つかってよかったです」

「あの、お礼なら、今はないですけど、いくらでも━━━」

「かまわん」

 遮るように言うアルバ。


「え?」

「お金のためにやったわけじゃないので、何もいりませんよ」

 優しい笑顔で対応するセラン。

 激しく同意だ。

 逆に渡されると、心の中の何かが欠落してしまうだろう。


「あの、ちょっとだけ待っててもらえますか?」

「え?」


 その言葉の後、バタンと扉を閉める。


「どしたの?」

「一応、一人見送りについていって欲しいんやけど、アルバ、行ける?」

「余か。わかった」


 そういうと、ゆっくりと立ち上がる。


「あ、そうだ。これ、持って行ってあげて」

 セランの指先には、さっきつついていた鍋。

 まだ結構残っているが、僕らの胃袋は結構パンパンだ。


「わかった」


 すると、鍋はパッと消える。

 


「じゃあ、行ってくる」

「おう」「いってらっしゃーい!」



━━━バタンと扉を閉め、しっかりと鍵をする。


「外も暗い。見送るぞ」

「な、なにからなにまですみません!」


 そうして3人、夜の街を歩く。

 もうすっかり暗く、たまに見える明かりは、月明かりと家から漏れるものくらいだ。


「あの、ご迷惑をおかけしませんでしたか?」

「ああ、余はもちろん、あやつらも楽しそうにしていたぞ」

「そうですか!ご迷惑でしたら、どうしようかと……」

 そう、本当に迷惑ではなかった。

 だが、そういう所も心配するのが、親心というものなのだろうか。


「あのねママ!わたしね、はくさいたべれたんだよ!」

「そうなの?えらいわね!」

「えへへ~」


 これが、親の前での笑顔というものか。

 なんというか、色が違う。


「ところで、おぬし名はなんという?」

「ミレーネです」

「そうか」



 そうして、無事彼女らの家に到着した。


「あのっ!本当にありがとうございました!」

「かまわん。ああそうそう、これ、持っていくがよい」


 そうして、さっきの鍋を取り出す。


「うわあすごおい!」

「エマ、《空間収納(アイテムボックス)》は初めてか?」

「うん!」


 “《空間収納(アイテムボックス)》”。

 魔力量によって入る量が変わるが、これに入れている間、時間の経過がないので、重宝している魔法だ。


「い、いいんですか……?」

「よい。探すばかりで、何も食べておらんだろう?そんな奴を見過ごすほど、余らは落ちぶれておらん」

「ありがとうございます!」


 まだ温かい鍋を、手渡しする。


「では、そろそろお別れだな」

「うん……」


 シュンとした顔だ。


「エマ、また遊びに来るとよい」

「いいの!?やったー!ありがとう、アルバおじさん!」

「あ、アル……はっ!」


 なにか気づいたらしいが、青ざめているのはなぜだろうか。


「も、もしかして……魔王様……だったり……」

「そうだが」

「た、たた大変なご無礼を!!」

 そういいながら、何度も頭を下げるミレーネ。


「頭をあげよ、ミレーネ」

「で、ですが……」

「ママぁ?」

 よくわかっていないエマ。


「あのねエマ、この方はとっても偉い御方なの!」

「そうなのお?」

 子供は、よくわからないくらいが丁度よいだろう。

 

「気にしなくてもよいぞ」

「で、ですが!」

「おぬしが無礼ならば、あやつらは斬首刑だ。気にすることはない」


 少し笑いが起きると思ったのだが、そう上手くはいかないものだ。


「あの、改めて、本当にありがとうございました!この御恩は、いつか必ず!」


 また頭を下げるミレーネ。


「だからよいと……」

「あ!でしたら、私たち店をやっていまして、もしよかったら、うちの店に、みなさんでお越しくださいませんか?!」

「ああ、わかった」


 ここが、妥協点といったところか。


「フフッ魔王様って、優しい御方だったんですね。では、お店でお待ちしています」

「ああ、必ず向かう」

「じゃあね、おじさん!」

「ああ、また」


 そして、余は帰り道を歩く。


 少し見上げると、空に舞う星々と、半分にかけた月が、夜を照らしているのがわかる。


 あの反応、恐怖、焦り。

 わかってはいた。

 まだ、魔族への奇異、畏怖の目は消えていない。


 だから、だからこそ。


 余が、動かなければ。


(まだだ……まだ足りぬ)


 鍵を開け、ドアノブを回し、引く。


「戻ったぞー」

「「おかえりー」」


第2話、お読みいただきありがとうございました!

よろしければ、感想・ご指摘、よろしくお願いします!

では!

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