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深窓の令嬢、ご当地令息に出会ったけれど。~恋より推し活に専念します!~  作者: つこさん。


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第12話 深窓の令嬢、上手い話に乗る。

「問題があります」


 イマが屋敷の寝室で昼寝から目覚めたのは、午後の陽光がカーテンを透かせるころだった。

 メイドたちは気を利かせて、ウッツ氏たちへ昼食の提供もしてくれたらしい。イマが起きたと知らされてウッツ氏が報告に来たとき、まずは「ご配慮ありがとうございます」とていねいに言われた。

 自分が提供したわけではないのにお礼を言われて、どうしていいかわからずにイマはとりあえず「ようございました」とうなずく。


「今回測量した土地ですが……こちらのお屋敷とは地盤がまったく違うようです」

「まあ、どう違うのですか?」


 一階の客間にて話を聞く。ヨーズアは「興味ないんで。べつに俺がいなくてもいいでしょう」と同席しなかった。

 ウッツ氏が真剣な表情で、前傾姿勢になり言うので、イマもソファから身を乗り出して聞いた。ハイモ氏は微動だにせず座っている。寝ているのかもしれない。


「調査中、地面の水分量がとても気にかかりました。ハイモは、すごく鼻が利くヤツなんですが……すぐにそのことに言及するくらいでした」


 そう言って、ウッツ氏はテーブルの上に屋敷とその周辺を描いた簡易スケッチを広げて出す。


「勝手ながら、こちらの屋敷の建っている地盤も一箇所、水分量の簡易調査をさせていただきました。どうしてこちらのお屋敷がちゃんと建っているのか気になりましたし、これから建築する上で、不測の事態が生じてはいけないので」


 なんと、イマが寝ている間にそんなことまでしてくれたらしい。スケッチには、イマにはわからない数値がいくらか書き込まれている。


「屋敷は頑強な岩盤の上に建ち、安定しているようです」


 屋敷の建物全体と、庭の該当部分を鉛筆で丸く囲い、ウッツ氏は説明する。


「――が、庭の外側と建設予定地は水分量が多く、湿地です。このままでは建物を建造はできないかもしれません」

「なんですって⁉」


 驚きのあまり、イマは扇子を握り、声を張り上げた。なんと、ペペイン邸建設計画が、始まる前に終わってしまった!


「まあ、まあ、どうしましょう」


 イマが多少涙ぐんで狼狽したからか、ウッツ氏はあわてて「いえ、まだぜったいに建てられないというわけでは……まだ、簡易調査ですし」とつけ足す。それを聞いてイマは「そうでございますの?」と気を持ち直した。


「ただ……もし懸念していることが当たってしまえば、工数がかなりかかります。地盤に杭を打ち、特殊な基礎が必要です。イブール外から専門家を呼ばなければならないため、費用と日数がかさみます。他の土地の方が現実的かもしれません」

「そうですの……」


 屋敷の隣にあり、すぐに行き来できる夢のような状況を想定していたため、イマはしょんぼりしてしまった。

 それに対し、ウッツ氏はどうにかイマを励まそうとしてか、咳払いをして、こう言った。


「しかし、見方によれば朗報かもしれません」

「なんでございましょう?」

「しっかり調査し、掘削で確認する必要はありますが、熱水脈の兆候があります。水分量の多さだけでなく、かなり地温が高いですし、そんな匂いだとハイモが述べていました」

「まあ、熱い水脈ですの? それがなにか?」


 ウッツ氏はいくらか慎重に、イマの顔色を読むような表情で言った。


「……もしかしたら、ですけれど。ハイモの鼻を信じるなら――……温泉が、湧くかもしれません!」


 はっと息を呑み、イマはわなないた。

 ウッツ氏の言葉を復唱し、彼がそれに深くうなずくのを見て、イマも深くうなずいて、言った。


「――オンセンとは、なんですの?」

「そこかー、そこからでしたかー」


 ヨーズアは同席していないため、解説してはくれなかった。よって、ウッツ氏が「温泉とは」と説明をしてくれたが、どうやら湯がたくさん出て来て、自然の風呂ができた状態のことを指すようだ。

 それはなかなか、すごいことではないだろうか。イマは、地面から湯が出てくる場面を想像できなかったが、とりあえず「すごそう」という感想は持った。なので、ウッツ氏へ「それは、たいそう重畳でございますわね!」と述べる。

 

「なので……まあ、ライテ丘の全体でないことは確かですが、そんな可能性もあります。もし、本当に温泉を掘り当てることができたら――」

「話は聞かせてもらった!」


 バーン、と音を立てて客間のドアが開かれた。ギラリ、とメガネを光らせたヨーズアがそこに立っている。


「まあ、聞き耳を立てていましたの、ドク?」

「はっ、なめないでくださいよ。そんなことしなくても、金の響きがする会話を、たとえ二階の自室に居たとしてもこの俺が聞き洩らすわけないでしょう!」


 そういうものなのだろうか。現代医学ではその耳はなんと呼ばれるのだろうか。イマはとりあえず「さようでございますか」と神妙にうなずいておいた。


「お嬢、ここは俺にも噛ませてもらいたい。なんなら、温泉関連のとりまとめは俺がやりましょう」

「まあ、ドク。いまだかつてなく、キラキラとした、希望に満ちあふれた瞳でおっしゃいますのね」


 カッカッと音を立てて歩み寄り、ヨーズアはイマの隣へ座った。そして指先を組み前傾姿勢で「詳しい話を伺おうか、ウッツ君」と言う。


「あ、あの……いえ、精密な地盤調査をしないと、なんとも……」

「しますよ、してください。金はこの人が出すでしょうから」

「まあ、わたくし?」

「お嬢、これは、チャンスですよ」


 ヨーズアは、キラキラというか、ギラギラとした目でイマを見て言った。


「もし温泉を掘り当てることができれば――それで商売ができる」

「商売」

「そうです、この丘を温泉の出る観光地にできる」

「もう観光地ですわ。イブールの町役場通信第183号で、すでにそのことは言及されています」


 ウッツ氏が「いえ、まだ温泉が出るとは」と言う声を遮って、ヨーズアは「熱水脈はありそうなんでしょう」と断じた。


「――そして、掘り当てたら……名称を『ペペイン温泉』にだってできる」

「なんですってー⁉」


 イマは思わず悲鳴のような声を上げた。――『ペペイン温泉』! なんと……なんと甘美な響きだろうか……!


 イマは扇子を開いて、口元を隠した。そして、静かに、厳かに告げる。


「――あとは任せましたよ、ドク」

「承知いたしました、イマお嬢様」


 ウッツ氏が「えー、あのー。あ、はい」と言った。

 ハイモ氏はずっと微動だにしなかった。

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