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深窓の令嬢、ご当地令息に出会ったけれど。~恋より推し活に専念します!~  作者: つこさん。


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第11話 深窓の令嬢、みんなへ謝る。

「たいへん申し訳ございませんでしたわ……わたくしの見識不足でございました」


 イマがベルントへ「職人のみなさまへ謝りたいのです」と告げると、彼は大きな手でヒゲをひとなでし、驚いた顔の後に豪快に笑った。そして、イマの頭をぐりぐりなでる。そのペペインっぽさにイマは頬を染め、扇子を胸に当て「素敵ですわ!」とドキドキする。


 しおしおとイマが謝ると、他の職人たちは鍬を地面に立て、苦笑いでうなずき「いいよ、いいよ」と許してくれる。さすがペペイン度が高い人たち。心が大地のごとく広大だ。

 ハイモ氏は、馬車に乗せて現場へ連れて行き、測量道具を手渡すと本当にシャンとした。ベルント氏たちにも覚えがいい測量技師のようだ。


「傾斜五度」


 杭をトンと打ち、風に厚い前髪が揺れる。堂に入った動作だ。ライテ丘の草が足に擦れ、朝霧が器械を濡らす。イマは扇子を握って「あれで、見えてますの?」と首を傾げた。


「……さぁて。オレらはじゃあ、帰るかあ?」


 ハイモの無言の作業を、職人たちは敷地の外から眺める。ベルントが鍬を肩に担ぎ、職人たちにそう呼びかけた。


「せっかくお運びいただきましたのに、本当にごめんなさい……」

「まあなあ、お嬢は知らんかったんだから、しかたない。設計が終わるまで、地ならしを進めておくさ」


 ベルント氏がそう言うと、ウッツ氏が「測量が終わって、工期の目安ができたら、連絡します」と請け負った。イマも真似して「連絡しますわ」とうなずいた。


 帰って行く職人たちへ茶の一杯でも、と思ったが、それについてはヨーズアから「あんたが用意するわけじゃないでしょう。メイドたちの負担を考えなさい。そういうのは事前準備が必要なんですよ」と言われた。なるほど、こんなにたくさんの人へ茶を振る舞うとなれば、かなりの手間と時間がかかることだろう。イマはまたひとつ賢くなった。


 職人たちを見送り(金一封をそれぞれに渡そうと思ったが、それはヨーズアに未然阻止された)、ハイモの作業を見守る。しかしそれなりに時間がかかるようで、イマは少々立っているのが辛くなってきた。


「ドク。椅子を使用人に持ってこさせてはダメかしら」

「ここで見ていようって魂胆なんでしょうが、ダメですよ。あんたはさっさと中入って横になりなさい」


 イマを見もせずにヨーズアは言った。けんもほろろと言うやつだ。その通りだったのだが、イマは「でも、見たいのです」と抵抗してみた。


「あんたの部屋の窓からでも見えるでしょう。こんな朝早くから動き回って、かなり疲れている。倒れたらどうすんですか。主治医としての命令です」


 その会話が聞こえたのか、ウッツ氏が「ぜひ、お休みになってください。作業が終わり次第お屋敷へ声をかけます」と言った。イマはじーっとヨーズアをみつめたが、折れてくれなさそうなので諦める。


「……承知しましたわ。では、ウッツ様、ハイモ様、あとはよろしくお願いいたします」


 淑女の礼をとると、ウッツ氏はびっくりした顔で「あ、はい! 承知しました!」と言った。

 屋敷内に戻ると、イマは急に疲れを自覚して玄関ホールにある長椅子へ座り込んだ。ヨーズアが「言わんこっちゃない」と苦虫をかみつぶしたような表情をする。


「ドク、どうしましょう。わたくし、ウッツ様たちだけに作業をしていただいて、自分が休んでいるのは、とても心が痛みます」

「なんでですか。あんた、俺とかメイドが働いていることに、心が痛むんですか?」

「え?」


 思わぬことを言われ、イマは背筋を正してヨーズアを見た。ヨーズアは、いつもと変わらぬつまらなそうな表情で言う。


「あんたは金であの人たちを雇った。だからあの人たちは仕事をしている。それだけだ。俺たちとなんら変わらんですよ。なんで心が痛むんですか」


 イマは、言われたことに少しだけ衝撃を受けた。そうだ、ヨーズアやメイドたち……すべての使用人たちは、ウッツ氏や職人たちと同じく、イマとイマの実家に雇われて働いているのだ。そこに、差異などない。なぜ、イマはウッツ氏たちにだけ、心を痛めたのだろう。


「……わたくし、思い違いをしておりましたわ。ごめんなさい」

「いいんじゃないですか。作業者に報いたいって気持ちはおかしなことじゃないでしょう」


 ヨーズアはそう言って、椅子へ座り込んだイマの前にひざまずき、腕をとって脈拍を確認した。


「――で、そう思うんなら、金をばらまくんじゃなくて、十時くらいになんか軽食でも振る舞ってやりなさい。あの人たち、朝食を食べずにここへ来ているでしょう」

「まあ、そうですわね! 起き抜けに来ていただいたのでした!」


 ヨーズアが立ち上がったのに対し、遅れてイマも立ち上がる。そしてメイドへ軽食の用意を言いつけようとして、止まった。


「……ドク。どうしましょう」

「なんですか」

「軽食を用意してくれる、使用人たちへは、どう報いればいいんですの?」


 ヨーズアは肩で大きく息をついた。そしてイマをまともに見て言う。


「あんた、そんなこともわからんのですか。ひとこと『ありがとう』って言ってやりゃいいんですよ。あんたはこの屋敷の主人だ。――あ、俺には金でかまわんです、どうぞ」

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