惨の夜 「正義と悪」
正義の味方というのは、人は子供も大人も憧れを抱くものである。なにゆえに人は正義に惹かれるのか。正義とは、などといえば哲学のような難しい話に聞こえるが、そんなに構えないでもらいたい。なんせ鬼の思いつきの独り言である。
正義というのは一般的にいうなら道徳や倫理的に正しい、人の世にとって必要となる善なる行いや人のことを指す。逆に悪といえば、道徳や倫理に反するもので、人間の社会において不要なもの、排斥されるべきものとして取り扱われることが多い。それゆえに昔から正義は勝つ、などという言葉があるように、正義は悪を倒すべき存在となっている。そしてそういう存在を人は正義の味方と呼んでいるんだろう。
だが人の世には必要悪という言葉も存在する。人が善行を行う上で、悪とされることでも、人の世や時代のために必要な行いのことだ。勘違いしないで欲しいが、俺たちあきんどが必要悪であるなんて大仰なことが言いたいわけではない。自分たちの行いが正しいことではないと自覚しているし、なにより自分たちのために勝手にやっていることだからだ。必要悪が人の世に必要なものであるとするならば、それは正義ということになるのだろうか。では逆に悪のことは不要善と呼ぶのかといえば、それは違うというだろう。なぜなら善とは人の世に必要とされるものであるのだから、それが不要ということはない。このように、正義とは善を前提としている以上、どうあっても悪より尊重されるべきものとなっているのだ。
などと勝手な考察をまくし立ててはいるが、きっと目の前の鬼はそんなことなど頭に一切なく、単純に「格好いい」から特撮ヒーロー番組にかじりついているんだろう。
「ほんに仮面らいだぁいうのは格好ええどすなあ。ただでさえ容姿の整った俳優はんを使こうとるのに、やっぱり変身するちゆうのが浪曼があるんとちがいますか。」
「知らんよ。」
「いやぁ、特撮から人気俳優になっていった人もたくさんいますからねぇ。最初の頃は演技もちょっと硬い感じで、前の作品と比べて前の方が良かったなぁなんて思うんですけど、終わる頃には不思議と終わって欲しくない!ってなるのが特撮の味わい深いところといいますか、いいところですよねぇ。」
瓜と並んでうんうんと語りだした月美について言いたいことは山ほどあるんだが、どこから説明したものか。
「月美さんや、婆さんの遺言で飯を作りに来てくれるのはいいんだが、別に毎日来なくてもいいとは思わんかね。」
台所の換気扇を回し、煙草に火を点ける。
「月美でいいですよ店長さん。あとばあちゃんは死んでませんから、勝手に殺さんでください。」
店長と言われると何か引っかかる部分があるんだが、やはり名前がないと人と関わる上で不便を感じることもあると分かりつつ、自分の信条を貫くのであれば一線を引いておくことも大事だと思いつつ。
「月美はんには教えてしもうてもよろしいと、うりは思いますけども。」
俺の心中を察するように瓜がくすりと笑いつつそんなことを言う。こういう形での存在証明はあまり気が進まないんだが、この際仕方がないか。
「瑠璃だ。」
「るり?」
「俺の名前だよ。名字はない、店長とか店主とか、そういう呼び方は瓜で間に合ってるからな。」
そう言うと月美は嬉しそうな顔をして瓜の手を握ってはしゃいでいる。瓜はというと、こちらを見ながらにやにやと笑っている。
「そんなことより」
と、話に入ろうとしたところで、テレビがニュース番組に切り替わり、本題の方からこちらに飛び込んできた。
「昨日未明、〇〇市内において、他殺とみられる男性の遺体が発見されました。遺体は損傷が激しく、身元の特定には至っておりませんが、警察は今ネット上などで話題の『私刑人』による連続殺人の可能性が高いとして捜査を進めています。」
『私刑人』は、法で裁くことのできないような『悪』を私刑と称して裁いて回っているとされる人物だ。始まりとしては、重犯罪の容疑で捕まった犯人が証拠不十分で釈放され、警察が大バッシングを受けた事件からだった。犯人の釈放から一週間後、犯人が自宅で首を吊っているところが発見された。警察は自殺として発表しようとしたが、時を同じくして、インターネット上に奇妙な動画が投稿された。
「この男は自分が殺した。」
動画の中の人物は何重にも合成された音声を使用しており、体の線が出ないようにか雨合羽のようなものを着ていて、男か女かも判別が難しい。しかしその人物は、動画の中で首を吊った男の横に立ち、この男が何をやらかしてどうして殺されなければならなかったのかを語りだした。そして仕舞いには自分がどのようにこの男を殺したのかを懇切丁寧に説明し出し、いかに警察や司法が無能であるか高説をたれて終わった。
この動画は多方面から様々な場所に投稿されているらしく、内容に関してもネットの匿名掲示板や報道番組などで物議を醸している。まぁネットに関しては俺はそんなに詳しくないので、聞いた話になるのだが。
「私刑人。」
先程まではしゃいでいた月美だったが、さすがにこの時ばかりは真剣な面持ちになっていた。それも当然、昨日の事件の第一発見者は何を隠そうこの月美なのだから。
「場所を変えよう、店の方に来てくれ。」
空想妓楼あきんど、この店はある種の結界のようなものだ。善なる『人』を寄せ付けず、悪なる『鬼』を寄せ付けない。そういった呪いのようなものを至るところに仕掛けてある。死にまつわる話をすれば、少なからず悪いものが寄ってくる。つまり鬼を寄せ付けないためにはここは最適と言える。その上、秘密の話をするための防音対策も完璧だ。
「単刀直入に聞くが、瓜はこの私刑人についてどう思った。」
この場合のどう、とは単に感想を聞いているわけじゃない。もちろん鬼の視点から見てこの犯人が人かそれ以外か、という話だ。
「うりの見立てでは、こんお人は間違いなく人間でありんす。しかしながら、同じく間違いなく、鬼が関わっていると思います。」
「まぁ、普通の人間にしては不可解なことが多いからな。」
「鬼って、瓜ちゃんたちみたいな?」
右手を上げて質問する月美を見て俺と瓜は顔を見合わせたが、そもそもなぜ月美が俺や瓜の正体を知っているのか、そして瓜が視えるのかということについて話しておかなくてはいけないだろう。
遡っては二週間前のこと、改めて月美が俺たちに挨拶に来た日、月美は瓜を一目見て「ばあちゃんの言ってたとおり可愛い」だのなんだのと言って騒ぎ始めた。
最初はおいちょっと待てと思ったのだが、話を聞いてみれば、月美はいわゆる霊感というものを持っているらしい。本人はそれを鬼とは呼んでいなかったが、往来で鬼を視ることもしばしばあったそうだ。そんな月美がより存在の強い鬼、つまりは瓜や俺を見れば、それは人と同じようにはっきりと視え、触れることもできたというわけだ。
月美の家系ではそういった体質の者がいたこともあったと婆さんから聞かされて、本人も自覚するようになったこと、そして実は婆さんも少しは視える人間だったと後で知って深いため息を吐いたのを覚えている。その時月美は瓜に対してこう言ったのだ。
「瓜ちゃんって私とは少し違うよね。」と。
ここで「人間じゃないよね」などと言われていたら、俺はきっと月美を蹴り出していたと思う。本人が自覚しているかはさておいて、月美が鬼、霊や魂に対して誠実であるとわかった瓜は、自分たちのことを話して聞かせた、というわけだ。
「まぁそうだ。鬼は人や土地に対して悪を以て悪行と成す。ある意味では人がそういうものとして鬼を扱ってきた弊害だな。」
「人のせい…。」
少し落ち込んだ様子の月美を見て、瓜が続ける。
「元来、信仰や伝承の類はそういうものでありんす。人の魂である鬼然り、地震や台風、干ばつのような自然災害然り、人は目に視えない恐ろしいものに名あを付けることによって、後世に知識を遺してきたんどす。せやから、月美はんが鬼に対して、正しく想っていれば、少なくともうりはうれしく思います。」
瓜がにこりと笑ってみせると、月美は強く頷いて、目をごしごしと擦った。
それを見て少し気が抜けてしまったが、気を引き締め直して話に戻る。
「私刑人の犯行は少しずつ激化している。月美に最近の動画も見せてもらったが、あれはもう人に成せる業じゃない。」
最近の私刑人の犯行、ざっくり言うと殺した数は一度に五人で、その死体からもいだ首を被害者各々の知人の家の戸口に飾っておいたというものだった。首は刃物などで切り落としたものではなく、まるで引きちぎったような痕をしていたこと、そして首を飾られた家も全国各地に点在していて、死体の状態と死亡推定時刻から見ても一日二日では移動が不可能ということ。しかし私刑人が動画を投稿していること自体がブラフで、犯人は単独ではなく複数であるということもあり得るが、それについては俺たち鬼の視点から見れば疑問が残った。
「鬼の視点ですか?」
「そうだ。」
人の世というのは一定の均衡が取られているものだ。世界中の人口が緩やかに増えているようではあるが、その反面、日本では少子高齢化などといって出生率が低下していることもあり、人が生まれればその逆に死んでいく。もっと広い話をすれば、この人の住む星というものですら、人間に都合のいいように形成されているといっていい。
そしてそれは人や自然のような形のあるものに限った話じゃない。人の社会を形成している善と悪にもバランスはある。
「必要悪、というわけでありんすな。」
瓜が煙草を燻らせながら言う。
「なぜ必要悪という言葉が存在するかわかるか?」
月美に問うてみるが、これは少し意地の悪い質問だったので、月美も唸るだけだった。
「必要悪が存在する理由は、簡単に言えば必要だからだ。」
「えぇ、なんですかそれ。」
月美がぶすっとしながら言う。苦笑しながら俺は続ける。
「人の世は善が必要とされている。人々全てが善行を行う世界であればそれに越したことはないが、善行だけでは人の社会、生活は成り立たないんだ。」
ぐぬぬと月美はまだわからないと唸り続けている。みかねた瓜が助け舟を出す。
「例えば月美はん、人を殺すのは罪でありんすか?」
「それは罪だよ。」
うんうんと頷きながら瓜は続ける。
「では家畜を殺して食べるのは罪でありんすか?」
「それは…。」
月美が言い淀むと、瓜はきっぱりと言う。
「仏の道に通ずれば、それは罪どす。」
「そうだ。仮に人が麦や米だけを食べていた世界であったとしたなら、今この世に存在しているあらゆるものは、人を含めて今の形をしていなかったか、存在すらしていない。」
これも均衡の話だが、栄養バランスという言葉がある。人が人として健康に存在するために必要とされる栄養素のバランスのことだ。これがもし、先に言った麦や米だけを食べて生きてきたとしたら、きっと人はもっと脆い生き物になっていただろう。
「そういう時代もあるにはありんした、ですが、日照りや干ばつ、台風で不作になったり、食うにも困った時に、やがて誰かが農耕やらに使っていた家畜を見て言いはりました。」
『あの生き物は食べられるんじゃあないか』と。
月美ははっとして口を手で覆っていた、その背中を瓜がさすってやった。
「極端な例だが、これが俺たちの言う必要悪だ。殺すことは悪だと知りながら、生きるために何かを殺す。人はそうやって均衡を保って今の時代まで存在し続けた。」
煙草に火を点けてゆっくりと一息吸う。
「さて、必要悪については概ね理解したと思うが、ここからが本題だ。」
必要悪が社会にとって善性と均衡を保つものであるなら、殺意を持って殺すために殺す行為は悪そのものといえる。これはもう人の世の理から外れた行為だ。
「人はそれを外道とも呼んだりしてはりますなあ。」
「人の世の理を外れたもの、月美はもうそんな存在を知っていると思うが。」
月美はゆっくりと顔を上げてぽつりと言う。
「それが、鬼。」
「そうだ、そして正しくいうなれば悪鬼。」
「でも瑠璃さんや瓜ちゃんもその悪鬼なんですよね、なら。」
月美の言いたいことはわかる、と瓜は優しく言い聞かせる。
「うりと当主はんは少おし特別でして、全ての悪鬼がうりたちのように考え、行動しているわけではありまへん。むしろ、ほとんどの悪鬼は悪行を以て悪を成す、そのような存在に成り果ててしまいました。」
「殺すことが目的の殺人を行うような人間は、そのほとんどが悪鬼に魅入られてしまったといっていい。そして悪鬼はその目的ゆえに、他の悪鬼と群れることはほとんどない。これが俺たちの見解だ。」
話し終えると暫くの沈黙が辺りを包んだ。やがて月美が小さく口を開いた。
「それで、私そんな人に殺すって言われちゃったんですよねぇ。」
ため息の三重奏。
第一発見者といったが、殺害現場を目撃したという方が正しい。そして月美は犯人の姿を見て、声を聞いた。殺す、と。
「私、今日ほど陸上やってて良かったって思う日はありませんよ。」
いや、足の速さの問題ではないだろう。おそらく犯人はあまり土地感のあるものではなかったんだと思う。人も、おそらくは鬼も。
「荒事は専門外なんだがなぁ。」
煙草の煙と一緒に深いため息を吐くと、瓜はくすくすと笑った。
「餌でも撒いて、悪鬼の一本釣りとでも洒落込みまひょうか、当主はん。」
そう言うと瓜は月美に髪を二、三本くれないかと言った。月美は意味がわからなそうだったが、手櫛を通して数本の金の糸を瓜に渡した。瓜はその髪の毛を白い紙に乗せると、ひとつ、ふたつ、みっつ、と折って、三角形にした折り紙を俺に突き出してきた。
「ほいどうぞ、当主はん。」
僕かよ。と、おそらく顔に出ていたが、内心そう思ってその折り紙を受け取った。
「なんなんですかそれ。」
月美の疑問ももっともだ。
「これは人形だな。」
簡易的ではあるが、呪いや陰陽術で使うこの人形に髪の毛を織り込むと、髪、紙、神と、神に近しい力を使うことができるというものである。
まぁ正直人形にそこまでの力はない。せいぜい髪を織り込んだ者の身代わり程度といったところだろう。月美の髪を織り込んだそれを俺が持つことによって、悪鬼に俺を月美だと思わせようという魂胆である。髪にはその人物の生気が宿っているといわれているからな。
「早速だが、今日の夜に決行しよう。相手に見つけてもらわないと困るし、居なくなられても困る。」
「月美はんはこのままここに泊まって、お留守番していておくんなまし。」
月美は何か言いたげだったが、瓜の笑顔と俺の圧に負けて、黙って頷いた。
「さあて、鬼退治は何年ぶりかね。」
その夜、町外れの運動場で瓜は煙草をふかし、俺は伸びをしていた。あんまり他の悪鬼と関わらないようにしてはいるが、今回のように人に害を成す鬼を退治しなければならないこともなくはなかった。あまり人目につかないようにとこの場所を選んだが、果たして見つけてくれるかどうか。
「鬼退治いうても、犬、申、雉はおらんようどすなあ。」
「鴬と虎がいれば十分だろ。」
人形を指差し、月美の金髪とスカジャンの背中の模様からなんとなく虎をイメージしてそんなことを言った。するとゆっくりと遠くから近づいてくる人影が見えた。
そのものの姿は見るもおぞましかった。月美があんなに怯えていたのも頷けるというものだ。
それは雨合羽を被っているのではなかった。其れは人の皮を裏返したものを頭からすっぽりと被っていたのだ。ソレは人の姿を象っただけの、ただの鬼だった。
「完全に呑まれてしもうておりますなあ。あれではもう人には戻れはしまへん。」
「そうだな、あれはもう仕方がないだろう。」
俺は煙草に火を点けた。瓜も煙管に灯を入れた。その煙管からはいつもの仕事と時とは違う薫りが漂っていた。
瓜が煙を吸い上げると同時に、俺は左手に人形を持ち、右手の煙草の火で空に印を結ぶ。瓜から習った陰陽術だが、文字通り付け焼刃程度の代物だ。
「縛れ。」
発すると同時に鬼の足元から蔦が伸びて鬼の両の腕を縛る。俺程度の術であれば難なく破れるだろうが、そのための瓜の煙管だ。この煙管の香には鬼の力を縛る効果がある。俺や瓜ほどの悪鬼となれば話は変わるが、その辺を漂う悪鬼ならば効果はてきめんだろう。
「さっさと片付けるか」
と、とどめを刺そうとしたその時、背後から声が聞こえた。
「あれが、鬼…?」
はっとして振り返ると、そこには月美が立っていた。
「当主はん!」
瓜の声と同時に俺は動いていた。咄嗟に月美を庇うように腕を伸ばしたが、月美に向かって突進してきた鬼の一薙でその腕は肩ごと抉り取られて、弾け飛んだ。
俺の血で真っ赤に染まってしまった月美を片手で担いで距離を取る。痛みは気にするほどじゃないが、少し予定外のことになった。
「お前、なんで来た。店にいろって言ったろ。」
瞬時のことで状況を理解できていなかった様子の月美だったが、次第に全身が小刻みに震えているのが伝わってきた。
「で、怪我はして、ないな。」
俺が月美の体を眺めて、そして目を真っ直ぐに見ると、月美は頷き、そして泣いた。
「ごめ、ごめんなさい…私、知りたくて…鬼のこと、瑠璃さんや、瓜ちゃんのこともっと…。」
それを聞いて俺は深くため息をついた。
「わかったわかった。ただし、ここにいるなら覚悟しろ。」
俺は月美に正面を見るように促した。そこには俺と月美を庇うように瓜が立っている。
「お前は知りたいと言った。識るということはその本質を視るということだ。よく見ていろ、あれが本来の邪悪な鬼、邪鬼だ。」
瓜の白い肌が黒く澱んでいき、白い髪も燃えているように紅く染まっていった。
そして鴬のように美しかった声は、しゃがれた鴉のように耳障りだった。
「おんし、瑠璃に何をしてくれとるんじゃ。」
瓜が右手を上げて空を爪弾くと、鬼の左腕が血飛沫と共に消し飛んだ。
「おい聞いとるんか?おんし、瑠璃に何をしたんじゃと申しとるんじゃ。」
瓜がまた爪弾くと、今度は右足が地面と共に穿たれて消えた。
その姿を見て月美はいっそう震えが増していた。俺は月美の頭を押さえつけて、目を外らせないようにした。
「見ろ、あれが俺たちが成している事だ。あれは人ではなくなってしまったが、元は人だ。俺たちもまた元は人だった。人が人に悪を成すのは悪、鬼が人に悪を成すのも悪。」
瓜はゆっくりと鬼に歩み寄り、立ち上がれなくなった鬼の頭を掴んで持ち上げた。鬼の体から、纏っていた人の皮がずるりと地に落ちた。
「じゃあ鬼が鬼に悪を成すのは、いったいなんなんだろうな。でもな、俺たちはお前の好きな正義の味方でもなければ人の世の必要悪でもない。」
掴み上げた『人』の頭を瓜は笑って握り潰した。
「俺たちは人を殺す鬼。悪そのものだ。」
血溜りの中で高笑いを上げる瓜を見ながら、俺は破れたコートを月美に被せて煙草に火を点けた。そのまま瓜に近づいて、その頭を残った腕で抱きしめた。
「ご苦労さん、もう大丈夫だ。ありがとうな。」
すると瓜の肌や髪は次第に元の美しい雪色に戻っていく。白い肌を血に染めて、弱々しい声で言った。
「当主はん、痕は痛みはしまへんか?」
「あぁ、まぁ三日ぐらいは不便だろうが、その分は瓜が手を貸してくれるだろ。」
二人はそうして楽しそうに笑っていた。
私はそんな鬼たちを見て、素直に怖いと思ってしまった。




