最速の星屑
こんなこと書いてるから本編進まないんですよね
さて、皆さんの中に寝起きドッキリをされた人は何人いるかな?
大きな樽に火薬が詰まったやつ2個置いて巨大な剣で斬りつけるあれじゃないよ?
目が覚めたら違う場所にいるやつ。たまにテレビ番組のドッキリでやってるよね起きたら葬儀場だったり川の真ん中だったりするあれ。
ただこれは動画投稿者だったり芸能人が仕掛けられることでただの一般人が仕掛けられることは無いはずだ。
もしそんな目にあった人間がいたらどうなるかって?
「えっ…何処此処。声高いし。何これ!?」
目が覚めれば辺り一帯木しか無い森の中全くもって訳が分からない。
オーライオーライ。クールに行こうじゃないか昨日酒を飲んだ覚えは無い。ちゃんと食事は一日3食取ってたはず。最後の記憶は3轍中ソロでEndless World Onlineの新エリア攻略してた記憶が最後…
「まさか…」
聞き覚えのある声、見覚えのあるゴシックドレス、見覚えのある髪型と汚れの無い純白の髪色。何より頭に手を当てると獣の耳とお尻には尻尾。
「これが今がはやりの異世界転生…」
いや、マジか…課金アイテムやゲーム内通貨を湯水のようにつぎ込んだ最愛の自キャラではあるものの…
「前世に未練…無いな」
残念ながら今時絶滅危惧種な社畜だったからなぁ…。オンラインゲームだけが生き甲斐でしたよ。
結構やり込んでた自信はあるし、これでもランキング乗る喰らいにはやり込んでたし大抵の敵は単騎で屠れるけど…
「しかしながら…。この姿でこの声で男口調は絶望的に合わない…仕方ない、これはロールプレイ…ロールプレイ。TRPGで鍛えたロールプレイ能力を今こそ生かす時」
TRPGは数少ないボッチでは無い証明みたいなゲーム!え?SNSでハッシュタグ付ければ誰でも出来る?それでも普通に初対面の人と喋れるんだから十分でしょ。
「それはそれとして…此処はどこ?辺り一面木しか無い…」
そもそも今着てる服も完全場違いでこんな森の中で着てたら引っかかりそう…。攻略中だったと思うから他の服持って無かった気がする…
「ん、これは…」
アイテムの事を意識すれば今所有しているアイテムが分かる…
「さしずめインベントリーという事かな」
十中八九倉庫に預けていたはずのアイテムすら持ってる事になってるな。それは救いだけど…ちゃんとこれ出てくるの?
適当に食料アイテムのリンゴを出してみると…空間が裂けてリンゴが落ちてきた。
「夢じゃないって事は分かったわ…」
ヒュー…凄いねぇ。プレイヤーマーケットで売値一律1000ゴールドだった宝石や最低値だっただった金を売れば億万長者になれるな!
「現実逃避は止めよう。衣食住のうち住む場所以外は何とかなったという事は良かった。」
服はこの服は戦闘用だし安全が確保されるまでは着ておくしかないか。他の服や防具とは雲泥の差だからなぁ。
ゲーム時代空腹ゲージは無かったからこの体が食事が必要か分からない、けどバフ用の料理食料アイテムはある。一人暮らしの楽しみなんてゲームと料理しかなかったから料理くらいできる。
インベントリーの中には死蔵されていたに等しい食料アイテム。塩や胡椒に山椒も3桁あるし調理済みの料理アイテムもある。料理人のジョブも5LVあるからゲーム食材の調理も問題ない…と思う。きっと、たぶん。maybe・・・
「問題は此処が何処か分からないっとことかなぁ…」
ただの森か林なら別に適当に食料アイテム食べながら適当な方向に歩けば良いだろうけど。
「どう見ても地球上には存在しないのが居る…」
光の玉のような物が近くまで寄って来た。よく見たら人型…。いやぁ…新種のトンボかな?こんな大きくて人型のトンボなんていたらニュースになると思うんだけどなぁ…ハハハ。
妖精ですね分かります。さっきのリンゴ取り出してあげたら喜んで持って行った。友好的で良かった…妖精術師のジョブなんて取ってないけど。
さてと、此処がまだ地球の可能性があっり、少なくとも類似した星と思うべきかな。
太陽は幸いある。地平線があって太陽が動いてる。自転しているとは思う…という事は夜が来る。
「まぁ、仕方ない。人が見つかるまで歩こう。キャンプアニメにはまった母の影響でキャンプ経験はあるし某サバイバルチャンネルも見てたからいけるでしょ」
あ、素が…日々の積み重ねが大事なんだよ。
辺り一体見渡す限り木々だけの森。ただ苔が生えたりもして無いし寒さに強い木が多いきがする。針葉樹とかそう言うの
ここら辺は雪が降るんだとすればこの森を出るのは急いだほうが良いかもしれない。
「なんくるない、なんくるないさー」
折角貰った第二の生のんびり行こうじゃないか。
のんびり行こう 何て事を思ってたのが1週間前。つまりこの世界に来て1週間がたったという事。
スキル使ってみたり、魔法使ってみたり、アイテムがちゃんと使えるか試して木が数本なぎ倒したり。たまに見かける妖精に手持ちの木の実系あげたり。
「いや、そろそろ飽きてきたんですけど」
広すぎるでしょこの森。1週間よ?睡眠をとってないこの体で一日の時間を計測した結果この世界の時間が前の世界で25時間に相当するという事が分かった。
多少誤差があるとして、夜は休み日中歩いて1週間!スマホも本も何もない徒歩1週間はキツイ!
「もういいや。スキルを使って走破しよう」
今までも一通りの覚えているスキルは試してきたけどあくまでテストみたいなもの。本格的なのはこれが初めてになるのかも。それに所謂食いしばり系スキルは怖くて試せてないし。
閑話休題、この世界でもスキルや魔法が使える事は分かってる。音声認識の要領で声に出すか、単純に使用するとイメージすれば飽きる程見たエフェクトが「本物」として発現する。
スキルや魔法を発動するたび体に馴染んでいくのが分かる。
発動の前段階、自分を中心に光の粒子が巻き起こり、全身に力が漲る感覚が満ち満ちる。巻き起こっている光の粒子は銀色で幻想的で綺麗だ。
「ソニックダッシュ」
身を少しかがませスキルの名称を発言し起動する。
足に銀色の粒子が足に纏われ。一歩踏み出せば圧倒的な加速を得て体を前進させる。
ランナーのジョブを最大LVの10まであげる事で獲得できるスキル【ソニックダッシュ】ただ早く。素早く、より早く。それだけ。風のようにただ素早くノーコストでいつまでも走れる。という物。
戦闘には向かない物の長距離を移動するのにこれ以上の物は無いだろう。そして何より。
「私は最速だからね!」
公式に運営から【最速】の称号を与えられてるこのソフィアは風などと言う生半可な表現ではなく。
閃光
そう呼ばれた。
トラ〇ザムとかほざいた者は撃ち抜いた後魔法で氷のオブジェにした。
スキル起動中のゆっくりとした視界の中どれ程走っただろうか。かなりの距離を走ったことは確かだろう。高速移動や体運びにも慣れてきた頃だった。
何かが聞こえた。直ぐに立ち止まり聞こえた方向に意識を向ける。聞き間違いじゃなければガラスが割れるような音が聞こえた。この体になってから狼の獣人だからか聴力も強力になってありがたい限り。
しばし耳を澄まし聞こえてくるものは鳥の羽ばたきばかり。こういう時五感強化に索敵系スキルはこの世界だと正直効きが悪いと言うか、電波の入りが悪いような感覚。
「まてよ、鳥の羽ばたき?」
追い立てられた?1匹や2匹程度じゃない。ただそう、多いわけじゃない様に思う
「迷ってる暇は無い…よねー。ソニックダッシュ」
再度ソニックダッシュを使用しすぐに向かう。
あわよくば人に会えるかもしれない。って程田だけれど…そもそも救出対象死んでるかも。
side:???
病気のお母さん、大好きなお母さん。
お父さんもずっと都の方で頑張ってお薬買って来てくれてるのに全然治らない。
だからせめて、お母さんの誕生日プレゼントに体にいいお薬になる食べ物を探しに来ただけなのに。
「ヒィ…だれか。」
そんなに奥に入ってないはずなのに大きな魔獣。よくおじさんたちが狩りで取ってくる熊みたいな魔獣が…いる。
お守りにって亡くなったおばあちゃんからもらった護石を握りしめるしかない。体が固まって動かない。だってその巨大な体の丸太みたいな太い前足それが私に迫っていたから。
護石を壊れるくらい握りしめてその巨大な体からの攻撃に身構えます。強く目をつぶったその次の瞬間。お茶碗が割れたかのような音と共に体に衝撃に襲われた。
「あっ…」
自分の体が熱い。でも分からないけど痛みは感じない。
「ケホッ…」
お父さんの言ったとおりだった。魔獣は滅多に出ないけど絶対じゃないし熊や狼なんかの怖い動物がいるって。
何か…凄く、眠くなってきちゃったや。
気づいたら、凄く美人な人が私を抱えていました。
私達と同じ狼の因子の濃い獣人。星空のようなキラキラとした深い蒼の瞳。
「zsdcd?」
言ってる言葉が分からないけど何となく言いたい事は分かったので「大丈夫です」と伝えると少し考えた後起こしてくれました。
side:ソフィア
さて、あの熊もどきを蹴り殺せたのはよしとして、手遅れ…では無いものの。
「ほっとくと死ぬよねぇ」
神官職はそこそこ自信があるものの…
「キュアライトウェーブ 属性系の方が慣れてるし…」
生憎と無神論者…いや、異世界転生なんてさせる事が出来る存在がいるなら信仰に値するかな。兎も角今の私が信仰系統を使えるかは疑問があるし。
キュアライトウェーブがちゃんと効果を発揮してくれた。
「魔法…か」
目の前の少女を包み込む緑の光の波が体を癒していくのを眺めながら改めて異世界に来たんだと思う。
私と同じ狼の獣人の少女だろうか。見た感じは6歳くらいかな?
光が落ち着いたところで女の子を抱き寄せて軽く揺らしてみる。綺麗な金髪で恐らく犬系の狼のような耳をした少女だった。
暫くすると目を覚ましたようで少々眠たげながら目を開いた。
「大丈夫?」
その言葉が通じたのか聞いたことも無い言語ではあったものの大丈夫と言いたいのだというのは伝わった。
しかしながらやはりと言うか。言ってる言葉が全く分からない。一先ず先ほどの熊は収納しているものの血の匂いで他の獣が来るかもしれない。
うーん…どう伝えたものかなぁ。
伝え方を考えていると女の子がお辞儀をしてから恐らく感謝の言葉?を言ってくれた。ただまだちょっとふらつく体で何処かに向かって進み始めた。
回復が不完全だった?仕様が違うのかな…一応ゲーム時代はオーバーヒールになるくらいの回復量だったけど。結構血が出たみたいだし貧血とか?うーんわかんないなぁ。
兎も角、このままだと不安だし。どんな事情があれ、こんな年端も行かない少女をこんな森に行かせた親に一言言ってやりたいと言う気持ちもある。
この子をお姫様抱っこしてこの子が行こうとしてた方に向かおうかな。
暫く女の子の案内で森を進んでいると少女のお腹からぐーと言う音が聞こえた。女の子の顔を見ると照れたようで顔がちょっと赤い。
女の子を下ろして適当なそこら辺の大きな倒木に座らせ、手持ちの食材アイテムのりんごとブドウをだして渡してあげると恐る恐る受け取り食べ始めた。
一口食べた所で笑顔で食べ始めたので自分の分のリンゴを取り出してかぶりつく。前世で食べたリンゴよりも数倍は甘みがあり美味しく感じた。
うん、可愛い女の子が笑顔で食べていると言うだけで絵になるなぁ。
リンゴを食べ終えた所で女の子はブドウを持っていた草木で編まれた手籠の中に大切そうに入れた。
家に帰ってから食べるのだろうか。恐らくあの熊に受けた攻撃で服を含めあっちこっちボロボロにはなっているので手籠くらいは修理あげよう。
手籠をちょっと借りて応急処置に手持ちの部分を少し補強して返してあげた。あとどれくらいかは知らないが振り回したり乱暴にしなければこの子が帰りつくまでは持つだろう。
治してあげた手籠をみてはしゃぐ姿を見るとそれだけで十分な報酬だ。
その後さらに1時間ほど手をつないで歩くと村と思われる場所に到着した。
村の中は騒がしいようで村の外に居る状態でも分かる程だ。
女の子の足取りは重く、すぐにどうしてこんなに騒がしいのかが分かった。
村の入り口にいた恐らく門番の二人の二人のうちの一人が大慌てで村の中に走っていき、もう一人が女の子に駆け寄った。
女の子とその門番が話して暫くすると村のおくから走ってくる人が見えた。その男は女の子に駆け寄ると涙を流しながら抱きしめた。
まぁ、こんなに心配しているしこの状況を感が見るに何となく察しは付く。怒るに怒れなくなったな。
こちらに気づいた恐らく父親はこちらに何かを喋りながら近づいてきた。
ただどうもおかしい。完全に私が疑われている。いや、分からなくもないんだけれど。
女の子が必死に説得してくれてるらしくすぐに彼は恐らく謝罪?をしてくれた。娘に甘すぎない?
身振りで気にしてない事を伝えるとホッとした様で胸をなでおろしていた。その後深く頭を下げて何か言ってくれたけど…生憎何言ってるかさっぱりわかんない。
女の子が言葉が通じてないことを説明してくれたのか彼は少し考えた後身振り手振りで説明してくれた。地面に絵を書いてくれたので分かりやすかった。
要するに家に案内してお礼がしたいらしい。まぁ自分の子が助けられたならそれが普通か。屋根がある住居で過ごせるだけでありがたい限りだし拒む理由も特に無いからいいか。
それを了承すると彼は村の中へ迎え入れた。野ざらし生活は今日で終わりになりそうで良かった。
案内された家は思ったより大きく平屋の一軒家にしてはしっかりした木造の家だった。
村の中を見た所どの家も結構しっかりとした家が大半だったがこの家はその家々の中でも特にしっかりしていて広かった。
家の中は見たことのない結晶が明かりとなっているようではあるが十分な光源となり家の中を照らしていた。
幾つかの家具た大きなテーブルもありそれなりに良い家で暖かさを感じられた。
家具や食器の数をみてふと気づく、3人分あるのだ。この家には3人住んでいるのだろうと察せられるが今の所私は2人しか見ていない。
3人目が何処かと探していると、あの女の子が渡したブドウを奥の部屋に持って行くのが見えた。
少々失礼かもしれないけれど付いていく。
あの子が入っていった部屋に入ってすぐに感じたのは匂いだった。臭ったのは薬品や漢方薬のような匂いそして、目に入ったものはベットで眠る女の子を数年程成長させた女性だった。
やせ細り、骨と皮だけのようになったその女性はそれでも何でもないかのように女の子に話しかけている。誰が見ても分かるほど無理をしているというのにそれでも無理矢理にでも笑顔を作って女の子が渡すブドウを受け取って笑顔を浮かべている。
こちらに気づいた彼女は体を起こそうとした。そこで私が手でそれを制するとごめんなさいね といった表情で申し訳なさそうにした。
私の家は母子家庭だった。父親の顔など欠片も覚えてはいないが祖父母の家で育てられ、母は一人で私を、俺を養ってくれた。
「まいったなぁ…私はこう言うのに弱いんだ」
恐らくただの病ではないのだろう。だが、これでも私は大抵の事は出来る自信がある。
ゲーム時代愛用していた武器の一つロッド・オブ・レゾナントを取り出し彼女に向ける。
「アンチウイルス」
病原体に対する状態異常の治療をかけたけれど…駄目か。
「アンチポイズン」
効果あり…やはり毒か。後は失った体力か…飯を食え。衰弱化の状態異常を回復出来る魔法とこれは違うでしょう。
とは言っても暫くは胃に優しい物の方が良いかな。
自分の体に起こった事を察したのかおろおろしている彼女をひとまず無視して
女の子が持っているブドウを一度取り上げて籠の中に戻して代わりにリンゴと料理器具一式の中にあったすりおろし器をだす。
食欲が無いわけでは無さそうなので重湯というほどではないはず。リンゴのすりおろしといえば病人食としてポピュラーな方でしょ。
すり下ろしたリンゴを差し出すとこれ以上は受け取れないと言った感じで断られてしまった。
遠慮なんていいから食えと今もしゃべっている口の中に木匙を突っ込む。
何か言いたそうな彼女をガン無視し3本の低位HPポーションを置いてその部屋を出た。
部屋を出た所であの子の父親とばったり会った。出て来た私に怪訝にしながらも入れ替わるようにその部屋に入っていった。
リビングの椅子は3つだがテーブルは4人分のスペースがあるので適当に家具アイテムの椅子に腰かけて一息つく。
その次の瞬間乱暴にドアが開く音と共に父親がリビングに飛び込んできた。そして私に何か話しているものの全くその言葉が分からずそれを思い出したのか百面相をしている。
「ふふっ」
MP程度どおって事ない。あの程度なら片手間で済む。
私の対面に座った彼は若干老けたように見える。
さて、今回の対価についての話になった。正確には会話ではないのだが、一先ずそれについては置いておいて。
私が土魔法で作った黒板でやり取りした結果私が要求したのは幾つかの金銭と衣食住そして言語を教えて欲しいという事。
彼は了承しまず住居に関してはこの家の一室を借りられるらしい。金銭に関してはすぐに幾つかの貨幣を貰った。よく見る金貨や銀貨と言った物でこれがどれくらいに相当するかは分からないが結構な金額のような気がする。
一度首を突っ込んだので最後まであのお母さんの経過観察もしたかったし、恩を売っておけばおいそれと追い出されたりはしないでしょ。
この世界に来て二ヶ月がたった。
この村で話されている言語はこの世界でのある程度共通の言語らしい。
二ヶ月かけて英会話教室もどきを睡眠必要無いからと勉強し続けた結果ある程度日常会話には困らないようになった。
そして、言葉が分かった事であの親子の名前が分かった。あの女の子の名は…
「ソフィア!ソフィア!」
「マリーちゃん…走るとまた転びますよ」
「怪我したらまたソフィアに治して貰えばいいもん!」
懐かれた…のは良いとしても。
「あのねマリーちゃん。私にでも治せない怪我だってあるのよ?それに…兎も角あまり走ってはいけませんよ?」
「えー…」
まぁ。子供と言うのはこういう物かな。そう長い間此処で厄介になるわけにいかないだろうし。
「二カ月もただ飯喰らいで、流石にそろそろ何かしないとね」
実際の所病み上がりのマーサさんの経過観察や村の人達の怪我や病を治療をしていたのでお金自体はあるけど。
「錬金術で薬を作って道を行った先にあると聞く街に行って売りに行くとしようかな」
「お薬作るの?」
「えぇ、何時までも何もせずこの家に御厄介になる訳にも行かないから。その時は簡単な事ならマリーちゃんにも手伝ってもらおうかな」
「ほんと!?」
「こらこら、あまりソフィアちゃんを困らせないの」
リビングでそんな話をしていると皿洗いをしていたマーサさんが手を拭きこちらにやって来た。
すっかり体調も治り見違えるような姿になったマーサさんは一か月ほど前から家事を始め元の生活に戻り始めた。以前までは村の人たちに色々手伝ってもらっていたらしい。お父さんのゾルさんが街で冒険者として結構無理して金を稼いでは治療…というよりも症状の軽減と言う方が正しいか。兎も角治療の為結構希少な薬草を使った薬を買って月一で戻ってきていたらしい。
この話を聞いてこの世界には冒険者という物があると知った。所謂ダンジョンを始め、古代の異跡や魔獣という物が存在する事もしれた。
魔獣と言ってもゲーム時代相手にしていたようなものは少なく精々強力な物でもあの熊くらいらしい。勿論ドラゴンと言ったものもいるそうだがそんなのは稀で100年に一度見るか見ないからしい。
マーサさんにお願いされマリーちゃんは昨日街から帰ってきたお父さんのゾルさんを起こしに奥の部屋に走っていった。朝から元気だなぁ…
「それはそれとして、ソフィアちゃんは錬金術が出来るのね。薬師さんはこの村には居ないから助かるわ」
「このあたりの薬草がどんな効果があるか分からないからちゃんとした物が作れるか分からないけれど。今日にでも薬草採取に行ってきます」
「あら、急なのね。お薬を作って頂けるのは嬉しいのだけど。そんな事してくださらなくてもうちで良ければずっと居てくださっても構わないのですよ?ソフィアちゃん。一生返せないほどの恩人なのですから」
「片手間で救っただけ、相応の対価は貰ったんだし気にしなくて良いんだけど」
「あの程度では返せたとは言えません」
「はいはい。兎も角今日はお昼は要りません夕食までには帰ってきますよ。それとこれからは月に金貨1枚お支払いしますので」
「受け取れません!最初の取り決め通りお代は結構です!」
そう言うと思った…まぁ今度マリーちゃんに貯金箱あげてその中に金貨入れよう。
「ソフィアちゃん…?」
「おっと。何でも無いですよ?ほんとに」
顔に出てたかな?ジト目されてしまった。マーサさんはちょっと鋭いからなぁ。
「さて、バトルシフト」
あらかじめ登録している戦闘形態になれる低位の魔法。MP消費もあってないようなものだし瞬時に着替えられるのは楽でいい。何時ものドレスは着やすい方だとは思うけど着方とか全然分かんないし。
「じゃあ行ってきます。お昼は適当に済ませます」
「はい、行ってらっしゃい。魔法を使えるのは分かっているのだけど、気を付けて」
「えぇ。勿論」
さて、この世界には幾つかの大陸があるというのは分かっているらしい。この大陸は中央大陸でありその中央大陸の中でも北方で西側寄りらしい。
そしてこの北方の大部分を占めるものが私が目覚めたトレイニー大森林と呼ばれるほぼ未開の地らしい。
それとこの世界はゲーム世界とは全く違うらしい。ただこの世界の魔法の理論に置き換えられて発動できるようになったと言った感じか。
これにより今まで有用性の低かった魔法にも改良の余地や新しい魔法やスキルを習得する事もできるかもしれない。
「勉強…言葉は暫くは良いかな」
ずっと辞書とのにらめっこだったし。暫くは体を動かしたいから魔法の研究は後にしよ。少なくとも今私が使っている魔法がそれほど劣っているわけではなく、むしろ優れているっぽいし。
私の戦闘能力がこの世界でどの程度通用するかは現在の所未知数。魔法とスキルで強化されたキックで瀕死にまでいったが…。
あのキックはゲーム時代であれば50LVくらいまでなら通用する程度の攻撃力。本気では無かったとはいえ一撃で屠れなかった。となるとゲーム時代のレベルで言うところの45LVタンク職と言ったところか。
さて、トレイニー大森林について。この森があるのは北方でかなりの豪雪地帯で今滞在している村もかなり雪に覆われるらしい。
この大森林は現在四季で相当するところの秋で多種多様な木の実など実りの季節となっている。永久凍土ではないものの洞窟には年中氷が貼っており、話によると幾つかの洞窟は【ダンジョン】になっているらしい。
そのダンジョンがどういったものかは知らないが、罠があったり魔獣が居たりするんじゃなかろうか。
この季節には村の狩人たちは稼ぎ時らしく週一で集まってある程度奥まで行って狩れそうな魔獣や薬に使える野草や果実を取ってくるらしい。
狩人と言ってもそれ程奥まで入った事が無いらしく森の奥はまさに未知の世界らしい。
「せっかくだから行ける所まで行ってみよう」
いつものソニックダッシュで森を走破しながらそんな事を呟いた。
この世界には魔力なるものが存在するらしい。私を始めとして魔法使いや魔獣が使用する他、効能の高い薬草なんかも魔力をたくわえ、薬草その物が一種の治療魔法と言えるレベルとなるそうだ。
「マナセンセーションを使わなくても分かる…」
魔力溜まりというべきか。周囲をふわふわ飛ぶ多くの妖精や精霊。そのまま飲めそうな程澄んだ水の泉。
まさに何処かの円卓の王が剣を授けられた場所と言えば分かりやすいだろうか。
「場違いに過ぎる…すぐに終わらせよっと」
妖精達の案内に従って来たもののこれはちょっと…水と幾つかの薬草を拝借したら離れよう。
「水は兎も角、薬草…ねぇ」
こちとら元サラリーマンで全く薬草の知識とかないし。ゲーム時代の錬金術で作ってたポーションの材料なんてこの場に無いしなぁ。
「言葉通じるかな。妖精さんたち?良ければ薬草とかって分かる?傷治したりする薬になるやつその材料が欲しいんだけど…」
あっ、頷いてくれた。暇つぶしで作ったクッキーとかあげるから。ブドウとかの方が良いかな?シャイ〇マスカットまだ結構あるしあげてもいいけど。
「あ、良かった持って来てくれた。はい、お菓子と交換ね」
貰ったはいいものの…何だろこれ、水草?次は…普通に果実かな、イチジクっぽいから普通に食べる分にも良さそう。
10種類程周りに居た妖精さんたちに薬草?とお菓子などを交換した所で次に向かう事にした。
何が薬になるか。どのような効果があるかは後でアプレーザルアイテムで分かるでしょう。
…交換してる途中でこのスキル思い出したんだけど。
「ま、まぁ…一々調べるのは面倒だし」
今度はピクニックにでもしに来ようかな。
「ありがとう。あまりこう言った綺麗な場所を荒したくは無いから他の場所に行くね」
漂っていた妖精達にそう言うとドレスにしがみついてきた。行かないでと言われているみたいだ…
「えっ、ちょ…また来るからその時遊びましょ?今度はもっと長くの間いてあげるから」
最近体の方の感覚に引っ張られてる気がする…こんな性格じゃ無かったと思うんだけどなぁ。
「はぁ…このままだとずっと妖精や精霊と過ごしていつの間にか精霊の仲間入りしてそう…」
精霊使いのジョブなんてケーム時代なかったけど…強いて言えば属性魔法使い…私か。
しばらく森を走り、ついでに見かける魔獣らしき生物を飛び蹴りで仕留め収納すると言う辻斬りをしながら森を進んだ。
途中から一撃で仕留められない魔獣もいたが然程苦戦する事も無く魔法やスキルを使うことすら無く倒せた。
私の純粋な筋力はゲーム時代であれば貧弱もいい所で技量値だけで使える武器ばかり使っていた。
それを踏まえるとそれ程強力な魔獣では無いように思う。
「今日はここまでにして帰ろうかな」
時間も体力もまだまだ余裕が有るけどあまり遅いとマリーが拗ねるからなぁ。
結構走りながら取れるものはとったし、お金もまだまだあるからね。
「テレポーテーション」
帰りは一瞬で帰れる。使えるようにしてて良かった空間魔法。
若干MPコスト重いのが難点だけど…。
村に戻ると人集りが出来ていた。
何だ何だと近付くとどうやら商人が来ているらしく様々な物を買っては家に持って帰っているご婦人が見える。
私に気づいた村人が裂けてゆく。まるでモーセのように。
この村に来て、私は世間知らずの治療魔法が使える魔法使いでドレスで居ることが多いせいか高貴な身分と思われている。
この村では魔女様と呼ばれ、何かあれば直ぐに呼ばれる程度には信用されている。
「おや、魔女様。今日はどちらへ行って居られたので?」
「森。薬草採。あと妖精と遊んでた」
え、何でこんな喋り方って?言葉覚えきる前から喋ろうとしてたらこれで定着してたんだよね。
訂正面倒くさいしこの話方でも通じるなら支障はないし。
「なんと!妖精とですか!流石は魔女様です」
「商人が来てる?」
「えぇ!魔女様も何かお買いになられますか?」
とは言っても食料品や生活必需品は問題ないし武器も自前で何とかなるからなぁ。
「ん?これ…」
ヨモギだ…流石にこれは知ってる。薬草としても山菜としても食べられる雑草…。
「これ…」
「あぁ。それは傷に効くというポラプ草ですね。一籠銀貨1枚と銅貨5枚です」
山盛り盛られたヨモギ改めポラプ草。乾燥されているものの使うには支障は無さそう。商人の話によればこの山盛りの一籠が銀貨1枚と銅貨5枚らしいし試しに買ってみるとしよう。
「薬草。他には?」
「色々ありますが…お嬢さんはどうやら魔術が使えるみたいだけど薬草が必要なのかい?」
「私は錬金術師でもある。私の持っている薬を再現出来るかもしれないと思ったから。それに魔法は万能じゃないから出来る事は増やしたい」
「何とまぁ…出来たお嬢さんだな。それならポーションもあるから買っていかないか?全部ひっくるめて金貨1枚でどうだろう。その代わりお嬢さんが作ったと言う薬を見せてくれ」
完全に薬師志望の子供と思われてる気がする。そういう目だな。
見せるのは別に問題ないか。私が持っている薬の中だと何が一番何が性能がいいかな。
「私が作り出した薬で一番いい物は流石においそれと出せないけれどこれならいいかな」
「なに…これ?【鑑定】見れない…失敗作じゃないの?」
「それは貴方のそのスキルの熟練度不足。仕方ない…もっと低ランクの薬を出す」
そう言うと商人は面白くないと言った顔をする。まぁ言いたい事は分かる。
しかしどんなスキルを使ったか知らないけど最上位ポーションを鑑定できないか…。
最上位ポーションを一先ず回収しインベントリーに投げ入れ代わりに中位ポーションを取り出し商人に見せる。
「これは私が持っているポーションの中では下から2番目」
「はいはい…。【鑑定】…!?これで下から2番目だって!?」
「私が居た場所では正直無いも同然だった」
まぁゲーム時代HPポーションは割合回復だったからなぁ。HP最低値の私は下級ポーションの固定値回復で全回復するから使わないし。
「じゃあ返して」
「あっ、あぁ」
「それと次来るときは出来れば色々な薬草を仕入れて来て欲しい。出来ればいいけど」
「それは…難しいですね。もし購入されない場合少々困ります」
私が見た目通りの人間じゃないと察して口調を一人の商人とした口調になった…。
この商人が言いたいのは自分の客層とは外れるからもし買われなかった場合のリスクが怖いと。
「全額前金で金貨5枚だす」
「金貨5枚!?」
「高価、希少だとかは関係なく様々な薬になる薬草や果実。後は動物の肝や牙と言った様々な物を仕入れて欲しい」
少々無理を言ったか。
「別に無理ならいい。高価な物なら私が直接取りに行く」
「い、いえ。先ほどの失礼な態度の謝罪の意味でも引き受けさせていただきます」
「もし希少な薬が手に入ったなら相応の報酬は約束する」
さて、こんな所かな。金貨5枚ともなれば大人一人節約すれば三カ月は過ごせる金額。相応の物が来るといいけど
商人との話も終わってちらっと横を見ると剣や杖を持ったいかにもな冒険者が5人ほどいた。
冒険者についても知りたかったし
「貴方たちは冒険者?」
「ん?あぁそうだぜ?」
「そう…」
うーん…そんなに強そうに見えない。ゾルさんの方がまだ強そうに見える。
「なんだよ…」
「そう強そうには見えない」
「酷いな…」
あ、いやすまん。本音がつい。この剣士の青年がリーダーっぽいけど多分パーティーメンバー全員で来られても勝負にならないしゾルさんにも勝てないと思うけど。
「これでも俺達これでも鋼鉄級なんだけどな…」
ふむ。鋼鉄級と言うのが全体でどのランクに位置するか分からないからなぁ。
「謝罪する。鋼鉄級という物がどの程度上位なのかは分からない」
「あー…そうか。上から7番目で下から3番目だよ。一応一人前ってくらいだと思う」
ふーん…まぁ、基準くらいに思っておけばいいか。
「そう…頑張って」
「おう。君もな、護衛依頼なら是非呼んでくれ」
「自分より弱い者に守られる気はない」
それだけ言ってその場を去ろうと振り返るとゾルさんがやれやれと言った顔でこっちを見ていた。
「本当に君は…」
「マリーは?」
「家で拗ねてるよ。朝何も言わず出て行ったからじゃないか?」
一言言っておけば良かった。言った言ったらで連れて行ってと言われるかな?
「今度は一緒に連れて行きますよ。今日はちょっと運動も兼ねていましたから」
「そうしてくれ、娘も喜ぶ。それじゃあ先に戻って娘の機嫌を取ってくれ、ずっと膨れっ面なんだ」
「はい、御機嫌取りにお土産を渡してあげようと思います」
ソフィアちゃんが家に帰っていくのを眺め、ソフィアちゃんが残していった爆弾を解除する為後輩たちの元に行くとしよう。
「ようお前ら。依頼困らせてないか?」
「ゾルさん!勿論ですよ!今日は帰ってたんですね」
「あぁ。もう無理する必要も無いしな。暫くはこっちに居るつもりだ。それとすまんなうちの客人が失礼なことを言ったみたいだな」
「そうですよ!流石にあんな子には負けませんよ?俺達でも」
まぁ、普通はそう思うよな。俺もぱっと見ただの見てくれの良い女の子に見えたし。
「いや、あの子にはお前らじゃ勝てないと思うぞ。俺が一緒に挑んでもな」
「いやいや。流石にそんな事は」
「いい機会だ教えておいてやろう。見てくれや表面的な情報だけで相手を見ると痛い目で見るぞ。そしてそのツケは自分の命で払う事になる」
俺がソフィアちゃんに最初に会ったあの日、あの時ソフィアちゃんを改めて冷静に見た時の正直な感想は「化け物がうちの子を連れて来た」だった。
化け物なんて生半可な表現じゃ表しきれないかもしれない。確かに上手く隠されている。だが上手く隠されすぎているのだ。あそこまで綺麗に何も感じないと逆に怖くなってくる。
「まぁ、我が家の恩人でな。もし何か困ってそうなら気にかけておいてくれ。あの人の機嫌損ねて街一つ更地になっても何一つ不思議じゃないからな」
そう言うと青い顔をしているが。まぁ、そこまで寂寥な人じゃないと思うがな、何よりマリーが懐いてるし可愛がってもらっているからな。何かあれば俺はソフィアちゃん側に付くぜ。
「じゃあ俺もそろそろ家に戻るわ!嫁が待ってるんでな」
「ただいま帰りました」
「あぁお帰りなさい」
トットットッ…ギュ
「あらあらあら…ほんとソフィアちゃんにべったりねぇ」
帰ってきてそうそうドレスにしがみつかれてしまった…
「マリーちゃん何も言わず出て行ったのはごめんなさい。でも今日は森に行っていたのよ森は危ないでしょ?だから連れて行けなかったんです」
「ソフィアに守ってもらえばいいもん!」
「離れないと森の奥で取ってきた美味しい果実はお預けですね」
ピクッ
「折角走って森の奥まで行って来たのになぁ。マーサさんとゾルさんと三人で全部食べちゃおっかな」
「駄目!私が食べるの!」
よし、離れてくれた。まだちょっと拗ねてるけど…
「あらあら、独り占めは駄目よー?」
「うん!」
「じゃあマリーちゃん。お庭で遊びましょ?先に行ってて下さいね。直ぐに行きますから」
幾つか取ってきた中でも複数人で食べるならやはりリンゴやスモモっぽいのがいいかな。
寒冷地と言うのもあって寒さに強い物が多かったなぁ。…あの妖精が一杯居た場所は別だけど。
とりあえず某虹色のガチャ石っぽいリンゴでいいかな、ハンドボールの玉くらいあるし。
取ってきた虹色の星型八面体の果実をインベントリーから取り出し台所に出しておく。
「一応食べられることは確認してます」
「ありがとう。やっぱり見たことのない果実だけど似ているのはアッカかしら…それにしても綺麗な色ねぇ」
「じゃあ私は少しマリーちゃんと遊んできますね」
「本当にありがとう」
「好きでやっているんですから気にしないでください」
さて、ちゃちゃっと魔法で私服用のセーターに着替えてマリーちゃんが待つ庭に向かう。
この家の庭は15m四方とそこそこ広くよくゾルさんが剣の素振りをしているのを早朝見かける。
庭に出て見るとゾルさんの素振り用の木刀を重そうに引きずっていました
「それはマリーちゃんには重いと思いますよ?」
「あっ!ソフィア!」
「剣を振りたいのですか?」
「うん!お父さんみたいな冒険者になりたいの!」
おぉー親の背中を見て子供は成長すると言いますしねぇ。
「でもそれはお父さん用の物です。代わりの物を私があげましょう、どうですか?」
「いいの!」
「えぇ。構いませんよ少し早い誕生日プレゼントという事で。でもちゃんと毎日素振りをするんですよ?」
「うん!」
子供用の木刀かぁ…そこまで高品質じゃなくてもいいでしょう。でも硬い木なら樹木系モンスター素材が良いか。
適当に所持量が一番多かったエルダートレントの木材を取り出す。
「【|武器作成≪クリエイトウエポン≫】」
それ程私は鍛冶師のLVはあげておらず最低限自分の装備の整備や修復が出来る程度だが木刀を作るくらいは問題ない。
今年で6歳になるマリーちゃんの体に合う程度に小さくした直剣型の木刀。強度的には鋼鉄の剣程度の強度はあるからいざとなれば身を守るにも使えるでしょう。
「さぁ、どうぞ」
「ありがとう!大切にする」
「そうして頂けると嬉しいです」
「ソフィアは剣使えるの?」
「使えますよ。でもマリーちゃんが想像している物とは違います」
「そうなの?」
「そうです、基礎などは私でも教えられると思いますがマリーちゃんが目標にしているお父さんの剣術は教えられません」
「お?俺の話か?」
剣術の話をしていたらタイミングよくゾルさんがやってきました。どうやら夕食の時間のようですね。
「えぇ、マリーちゃんが将来お父さんみたいな冒険者になりたいそうですよ?」
「おぉ!それは嬉しいが…何とも複雑な気分だな」
まぁ、楽なだけな仕事では無いでしょうからね。時には人を殺す事もあるでしょうしね。
「それより飯だぞ!早く家に入りなさい」
この辺りは以前から話されていた通り雪が降る。
豪雪地帯と言う訳では無いものの定期的に大規模な雪かきが必要なくらいには雪が降るので村の男手が総出で雪かきに励む。
「寒い」
数日ぶりに晴れた今日。しばしの間吹雪いていた為雪かきが追いつかず溜まっていた雪かきをする事になった。
村人総出(老人は除く)で村の雪かきをすることになったのだが私にもやるように言われたのだ。
「気持ちはわかるが耐えてくれ」
「【|魔法効果延長≪エクステンションマジック≫-プロテクトアイス】よし、寒くない」
「ずるぅ!俺にもくれよ!」
「私も欲しいわ!」
「しょうがないですねぇ…【|二重詠唱魔法効果延長≪エクステンドマジックツインスペル≫-プロテクトアイス】30分くらいしか魔法効果持たないので切れたらまた私の所に来てください」
因みにマリーちゃんは家で私が作ったこたつでぬくぬくとしている。作った私はこうして外に雪かきにかき出されているというのに…
何時ものドレスは着ていない。と言うか戦闘服的扱いなので私服扱いするのはちょっと違うなと。そもそも着ていた所で私の防御力は紙だし。
さて、今私達は村の中心の広場のような場所に集まっている。誰がどこを担当か分けるためらしい。その為に事前に此処だけは除雪したらしい。
周りを見ると私と変わらないくらいの背の男の子も結構混ざっている。
「さて、皆さん!この寒い日にお集まりいただきありがとうございます!それでは例年の取り決め通りお願いします!」
そう言うと全員にシャベルが配られた。よく見るとシャベルに1と言う数字が彫られていた。
「成程。シャベルに担当するエリアが刻まれていると。でも何処が何処って分かるのですか?」
「一応前にある地図を見れば分かるんだが。基本的にはエリアっていうか村の大通りをやるんだよ。おれは5番通りだった」
「わたしは3番だったわぁ」
「私は1番なのでお別れですね」
こればっかりは仕方ない。担当の大通りを確認したら向かうとしますか。
担当区画につくともう既に通りの真ん中に雪の小山が作られていた。天保山よりは高い雪山だろう。
とは言え私が肉体労働なんてやっても5分でばてるのがオチだ。ならばどうするかなんて決まっている。
まだ除雪されていない積もった雪に手を当て雪だけインベントリーにしまい込む。
「成功…これなら楽ね」
先ほどは手に触れたけど多少遠隔の物でもインベントリーに入れることが出来るから直ぐに終わる。
「これは魔女様!助かります!」
「気にしなくていい。どうせ私に肉体労働は無理。この通りは私だけで良い他に行くと良い」
水や熱で溶かすと解けた水が凍って滑るって言うのはよく聞くしこれが一番…かな?
もっと障害物の無い場所なら【|転移門≪トランスポートゲート≫】を森なんかの空き地に繋げて【|転移門≪トランスポートゲート≫】を動かしてやれば直ぐに終わるかな。
インベントリーは私は種族のお陰で無限だから容量を気にしなくていい。私が散歩しながらインベントリーに雪を入れるだけで除雪が終わる。
「終了」
インベントリー万歳だなぁ。
そして散歩している時に考えた。雪が降っている間勝手に休みなく除雪してくてくれる存在を作れば楽じゃない?と
「【|三重詠唱雪人形作成≪トリプルスペル-クリエイト-スノーゴーレム≫】」
インベントリーに大量にある雪で3m程のスノーゴーレムを作りだし命令を下す。
「雪を降り積もった雪を村の外にある雪原まで除雪しなさい。出来れば夜のうちに行動しなさい」
屋根の上に降り積もったものは自重で落ちてくるはず。スノーゴーレムは【|氷操作≪コントロールアイス≫】が使えるから何とかなるでしょう
「一先ず今日は昼間も働くように。村人に指示を受ければその指示に従いなさい」
後は村に周知すれば問題ないか。
「あぁ、シャベルを持たせておくか。もし侵入者が要ればスノーゴーレムが撃退できるかもしれないし」
このスノーゴーレムのLVは素材がそこら辺の雪だからか低レベルの32だけどこの辺りの魔獣には負けないと思うし。
鉄と木の普通のショベルでいいか。大きいシャベルにしなくちゃいけないけど。
「|武器作成≪クリエイトウエポン≫】|武器作成≪クリエイトウエポン≫】|武器作成≪クリエイトウエポン≫】…今後簡単なスキルも三重で発動できるようにしたいな…面倒だし。兎も角このシャベルに刻まれてる数字の通りが担当ね。今日はこの通りはやる必要ないから街への通り道でも除雪してきなさい。じゃ【行け】」
よし、行動し始めたな。私は村長にでもスノーゴーレムの事を伝えて来るか。
村長への説明も終わって家に帰るとリビングの大きなこたつで寝ているマリーちゃんを見つけた。こたつの魔力は異世界でも絶大らしい。
そっと頭を撫でるついでにその狼の耳も触ってみる。
「おぉー…」
実家のスコティッシュフォールドのたれ耳と違うなぁー…散歩してる柴犬の耳触らせてもらった時を思い出すなぁ。
自分の耳はちょっとビクッ!ってなるんだよね。ちょっと鋭敏すぎるから触るに触れない。
あんまり触ると起きちゃうだろうからこの辺にしておこうかな。
「私もちょっと寝る…止めとこう」
この夢が覚めてしまう気がして寝たくない。この楽しい夢が覚めて欲しくないからずっと眠れない。
何か言い訳を付けてはずっと眠らずにいる。幸い眠らなくても支障はないからいいけど睡眠はメンタルリセットでもあるから一応生物である私は何時か限界が来るかもしれない。
「まだ…大丈夫でしょう」
ずいぶんとこの体に馴染んできていると思う。
自分が女だという自覚は出来てきた。流石に男に抱かれたいとは欠片も思わない。どちらかと言えば女性がいいとは思う。
うん、これ考えるの止めよう。私に恋人とかできんやろ…。
「魔法薬でも作ろ…」
気分を切り替えて、自室で研究に勤しむとしよう。
定期的に購入している薬草やポーションを調べて分かった事は私が持っている回復薬は現状薬草等を使っているだけでは再現不可能という事。
しかしながら何も悲観はしていない様々な薬になるという物を見た結論としては「代用品は作れそう」と言ったところ。
私が持っている回復ポーションは割合回復回復。しかしこの世界の魔法の力を付与された魔法薬は言ってしまえば自然治癒能力の魔法で強化すると言ったところ。
簡単に言えば継続回復効果で治療すると言ったところリジェネレイト系治療魔法と思えば分かりやすいか。
「魔道具技師にでもなろうか」
この世界でのあの明かりになってるあの結晶は魔石といい、魔獣等から取れるらしい。
その魔石を加工する事で光を灯したり水を出したりするらしい。その技術が分かれば回復効果を魔力がある限りばら撒く装置が出来そう。
「そう上手くはいかないからこうした薬があるんでしょうけど」
そう言いながら試作品のガラス瓶を弾く。
手持ちの薬草をふんだんに使った物ではあるが相応の治療効果にはなった。とは言ってもこれは試作品の域は出ない。
「販売用に手ごろで量産しやすい物を考えないと。このままだとニートになる」
別に魔法で医者みたいな事をしているから無職と言う訳では無いけど結局の所貯金を切り崩して生活している事には変わらない。月一の商人でそれなりの金額が流出してるのが大きいか。
今まで討伐してきた魔獣は未だかなりの数が手つかずで残っている。冒険者は魔獣を冒険者組合の解体場に持って行けば解体費用は掛かるが解体してくれるらしい。
「ゾルさんにその辺お願いしてみようかな。手数料を支払えば文句も無いでしょうし」
ほんと、お金の事ばかり気になる。ゾルさんやマーサさんそれにマリーちゃんは私がこの家に居たいと言えば快く快諾してくれると思う。
でもそれはしたくない。それはまるで寄生してるみたいだし、いくら精神が体に引っ張られ子供っぽくなりつつあるとしても大人のつもりで自分でお金を稼ぐ手段もある。
私がこのまま完全に少女になるのは仕方がない物として受け入れよう。でもだからって誰かにおんぶにだっこで居たくない。
しばらくポーション研究をしていた所で自室のドアがノックされた。マーサさんの「ご飯が出来ました」と言う声で時計を見るとちょうどお昼だった。
「冬が開けたら街に行ってみたいな」
雪解けは大分先と聞くけれどそれまでは今の貯金も持つはず。食事も一応この体は不要だから節約すればもっとかな。
「早く冬が終わればいいけど」
私が練習用の木刀を作ってからマリーちゃんは毎日晴れの日は外で、雪が降り寒くとも極力外で素振りをしている。
週に何度かお父さんのゾルさんが基礎を教え、手合わせ等をしています。小学1年生の女の子が毎日素振りや筋トレしていると言うのは感心する物です。
しかしながら腹筋バッキバキと言う訳でもないので、一度ゾルさんにそのあたり聞いたところ女性は男性に比べ筋力の代わりに魔力の成長が早く。必要最低限の筋肉以外は魔力による身体強化で何とかできるそう。
マリーちゃんが素振りなど肉体の事をゾルさんに教わる代わりにマリーちゃんにはとある条件が付いた。
それは勉学を学ぶこと。何故かというと真剣にマリーちゃんの話を聞いたゾルさんがマリーちゃんが冒険者になるにも条件を付けたから。
この世界には学校があるらしい。6若しくは7歳から入学できる9年間小学校から中学程度の勉強を教えてくれるらしい。その学校を卒業しても魔法学校など専門知識を学べる場所があるらしい。
まぁ、兎も角その学校に入学しちゃんと卒業する事がマリーちゃんに課された。勿論村娘に等しくまともな勉強などしていなかったマリーちゃんが今から勉強したところで受かる訳がない。
そこら辺の幼児に小学校受験させるようなものですから。運動神経はゾルさんから問題ないとされている。しかしこのままでは学力が足りるか不安である。
何せ行く学校は貴族が吐いて捨てるほどいるような学校。家庭教師が当たり前マナーは問題なしという者達を想定しなければなりませんから。
百歩譲ってマナーは貴族ではないなら問題ないとしてもやはり勉強。この村で人に教えられるほどの知識をだれが持っているか。
私以外居ませんよね?私もこの世界を事を知るのに学校に興味がありますし、特待生制度で私を入学させてくれると言うので悪い気はしません。それに家庭教師代も嬉しかったですし。
入学テストは小学1年生程度の算数と言語学そして一般常識。一般常識は魔法はどんな属性があるかとか、隣接してる国の名前とかです。
用意したノートと鉛筆を手にマリーちゃんは黙々と私が出した計算問題を解いてくれています。
「出来たよ!」
ものの3分程で5門ほどの問題をすべで解ききり私に見せてくれました。
マリーちゃんはずっと理解力があり私も教え買いがあります。
「完璧ですね。足しひき程度であれば苦も無く解くことが出来ますね」
ひっ算を使った2桁+2桁の計算でも十分解くことが出来ています。
100マス計算を授業前にやっていますが十分合格ラインでしょう。問題は…
「では一般常識ですね。魔法の基礎となる属性は?」
「火・水・風・土・光・闇・空間!」
「違います。火・水・風・土・光・闇です。あのですねマリーちゃん?いつも言ってるじゃないですか、空間属性は私しか使えないですし一般的じゃないのですよ?」
「えー…」
前に私がテレポーテーションで行き帰りしている所を見られてから空間魔法は凄い凄いと…
他にも私を基準に考えてしまい一般常識を少々歪曲して覚えてしまいます。
「もし、入学できなかったら私とはそこでおさらばですよ?」
「やだ!やだやだやだやだ!嫌ッ!ソフィアずっと私と一緒に居て!ずーっとずーっと離れないで!」
「それじゃあ頑張らないとですね。もし入学できなくて学園にいる間に私に恋人が出来たらどうするんですか?」
そう言った瞬間表情が顔から抜け落ち、まるで深淵を覗き込んだようなくらい瞳になった。自分の喉から「ヒュッ!」っという息をのむ音が聞こえる。
全身に鳥肌が立ち、その場に硬直される。
「そんなことさせない。絶対に」
「そ、それじゃあ頑張って勉強しましょ?」
「うん!」
見間違いだと思い込み、何とか平静を取り戻す。仮にも私はゲーム時代最高レベルで耐性も有るはずなのに。
まるでヘビに睨まれたカエルの気分だった。
ともかくこれで前向きに勉強してくれるなら私からいう事は何もないし。先ほどの言は冗談だとしてもそう遠く無い未来にはマリーちゃんとは違う道を歩いてるかもしれない。
まぁ、さっきの事はゾルさんやマーサさんに相談してみようかな。
昼過ぎ。昼食の片付けを私が手伝うと言う名目でマーサさんと二人きりになれた。マーサさんに相談するのは生理の相談をした時以来だけれどよく相談を聞いてくれて本当の母の様に慕っています。
マリーちゃんはゾルさんと剣を振りに行ったので暫く戻ってくることは無いはず。
「久しぶりねぇ。ソフィアちゃんから相談なんて」
「ふふっ。そうですね、大抵の事は自分で何とかしちゃいますから」
「それで相談と言うのはマリーの事ね?」
「気付いていたんですか?」
「そうだろうなって。マリーのソフィアちゃんに対する思いは異常だもの。私達の間でもね?一度ソフィアちゃんと離した方がいいんじゃないかって話になったの。でもあの子にその話をたまたま聞かれちゃって。物凄い形相で猛反対されたわ…」
「そうだったんですか…」
なにがマリーちゃんをそうさせたんだろう。確かにマリーちゃんは実の妹の様に接したし他の村の子供たちとは信頼度が違う。
命の恩人と言われればそこまでだけれどあんな実の家族すら敵視する程の独占欲を出すとは思えない。
「そういえば勉強のほどはどう?」
「ばっちりです。これなら十分合格できると思います。マリーちゃんは吞み込みが早くて驚くばかりです。本当に天才かもですよ」
「勿論よ!自慢の娘だもの」
「そう…ですか」
「ねぇ、ソフィアちゃんさえよければ私の事母親と思ってくれないかしら。ソフィアちゃんの事情は私は知らないし詳しく聞くつもりないわ。でも…ちょっと日に日に辛そうにしてる時があるでしょう?出来る事があればいいなって」
「………」
私はやっぱり…この体に馴染み切ったんだと改めて思ってしまう。この体は人間じゃないけれど、精神は見た目相応で知識や経験のは大人のまま子供になってしまった。
「お母さん…」
「えぇ。お母さんですよ」
元の世界に帰ることはもはやないでしょう。でもこの世界でも大切な物が出来て。守りたいものが出来た。それはいい事ばかりではないかもしれないけれど。
「一つ…お願いが」
「なぁに?」
「膝枕…いいですか?」
「勿論良いわよ!それと。敬語も外さなきゃね」
「っ!…うん」
後悔はしないでしょう。
この日。この世界に来て初めて私は眠りについた。日の差し込む暖房のきいたリビングのソファで母と慕う女性の膝の上で。
悪夢は、見なかった。
目が覚めた時には部屋に夕陽が差し込んで居ました。
見慣れた木造の家で見慣れた小さな手と柔らかな感触。
「夢じゃ無い…夢じゃなかったんだ」
「おはよう。ソフィアちゃん」
「おはようございますマー…お母さん」
身体を起こして軽く伸びをする。
眠るともう目覚め無いかも。と言う不安は無いとは言えない。
けれど生まれてこの方今以上に清々しい気分は無いでしょう。
「お母さん...いえ、マーサさん。今ほど嬉しい瞬間はありません。
感謝します。貴女は私の恩人です」
「感謝される程の事じゃ無いわ。気にしないで」
「いいえ、私は嬉しかったのです。これ以上無いほどに」
それを聞いたマーサさんはそれ以上何も言わなかった。
「改めて私の自己紹介をさせて下さい。
私はソフィア・イルミナリエと言います。改めて、よろしくお願いいたします」
「マーサ・ヴィニヤードです。こちらこそ。数々の大恩深い感謝を」
お互いが頭を上げ、お互いを見てふふっと笑い合う。なんてことの無いただの日常に戻った。
「今日は私に食事を任せて下さい。料理には自信があります。私のいた所の料理を作りますね、お口に合えば良いんですけど」
「是非とも食べて見たいわ!」
「それは良かったです。直ぐに準備します」
ここでこの村...と言うか狼系獣人族の食事事情を説明しましょう。
まず。この村では老人であろうと肉を食べます。老若男女強靭な歯を持ち、毎日最低1食は肉があります。3食肉と言うことも珍しくはありません。
私の手持ちの肉の大半を占めるのはゲーム時代の肉ですが、それは別に必ずしもいい肉とは限りません。赤身肉と言う食材アイテムがあるのですが。このアイテムのドロップするモンスターはボス級以外の全てです。
虫、魚、鳥、豚、犬、猫、ゴーレムetc.雑魚モンスターからは全て固定で赤身肉とレアアイテムとして霜降り肉がドロップします。それが1種のアイテムなので1纏まりに。
冗談じゃない。
では、何の肉が良いかとなると。中ボス級モンスターのミノタウロスの肉にしましょう。
ゲーム時代も乱獲され、ミノ肉の愛称で親しまれた高級(ほぼ捨て値で購入可)なお肉です。
後はレタスとキャベツとブロッコリーに胡麻ドレッシングをかけたサラダ。
コーンポタージュでスープ。
ムール貝をカレーベースのスープで煮詰めたものを魚料理にしようかな。魚料理って初めてだとハードル高いから。
ソルベは...良いかな。気軽に食べて欲しいしレモン風味のジュースを少し出すだけにしよ。
後はデザートにオレンジシャーベットを作ろう。魔法で直ぐに楽に作れる。
何を作ろうか考え終わるとマーサさんがキッチンの前に立ってこちらの様子を見ている所でした。
「やっぱり何か手伝いましょうか?」
「いいえ、今日は私にお任せ下さい。戦艦に乗った気持ちでいて下さい」
「せんかん?」
さて、料理は得意だし自信はある。ゲーム時代も料理人のクラスを取っていたから自給自足でバフ料理を作れた。この世界に来てからも手伝いや自分でも料理を作っては美味しいと言って貰えた。
大丈夫、何時も通りの食事を準備するんだけ。
彼女が来たのは風の月1の刻だった。
呪毒に犯された私を神憑りの様に治療し、見たことの無い魔法薬も頂いた。
その後彼女は家に住むことになった。身寄りが無いらしい彼女だけれど私の経過観察と言う名目でこの家に住んで貰った。
彼女に言葉を教える事になった。物覚えが良く基本的な事を教えたら物の数日で私たちと変わらない程の言語力を獲得していた。
彼女は眠らない。今まで一度も眠ったところを見た事が無い。それでも彼女は変わら無い対応を私達にしている。その身に纏う高級なドレスと夫から聞いた話を総合すれば彼女がどう言った方なのかは薄々想像がつく。さぞ高貴な方が冒険者としていると言ったところでしょう。私達とは違いもはや生物としての格が違うようにすら感じる。
彼女が様々な魔法を使うところを見て現役の頃の私の使っていた魔法が子供だましのようにすら思えてしまう。まさにお伽噺の魔法使い。いや…それ以上の何か。
そんな彼女ではあるものの年相応の感情がある。あれだけ強力な魔法を使えても、生物の領域を逸脱していようとも。彼女は、あの少女は、何処か欠けているように感じる。
だから、あんな提案をしたのだけれど。ここまで心を許してくれるとは思ってなかった。膝枕をしてとお願いされた時は戸惑ったものの、いい事だと思うしこのままでいいでしょう。
急にお料理すると言い、流されたままに任せたものの…日頃食事の手伝いをしてくれているし料理も出来るのは分かっていたんだけど。
ソフィアちゃん…取り出してる物が見て分かる程高級そうでちょっと…
私の料理は多少驚かれこそしたものの美味しいと言って貰えた。嘘を言っている様子は無かったしちゃんと美味しかったのでしょう。勿論味見をしながら料理したし味覚音痴ではないはず。
そして今は一人お風呂に浸かっています。雪が落ち着きもうすぐ春を向かえるとは言え、まだ肌寒い季節です。自室の扉に入浴中の看板を立てて空中に浮かばせたお湯の中に自分も全身入り文字通り全身温まる。
これでも私は体毛が多い方で、長い髪とモッフモフの尻尾というまともに手入れをしたら数時間かかるレベル。その点この方法は浮かしたお湯に薬液を入れて自分がその中に入るという楽ちんな方法。
なおそもそも種族特性上真空だろうと宇宙空間だろうと汚染空間だろうと髪が傷つくことは無いし正直意味は無い気がする…。
そんな入浴中でも構わず入ってくる人が一人…。即座に水球を細かな泡で濁らせまましょう。恥ずかしいので…
「あー!ソフィアまた水の中に居る!」
マリーちゃん…。ノックって知ってるでしょ?水球の中から頭だけを出してマリーちゃんに注意する。
「マリーちゃん。ちゃんとノックして入って良いか聞いて下さいね?特に部屋の前に看板を立てていたじゃないですか」
「そんなの知らない!」
「もぅ…」
水球を消すと同時に何時ものドレスを纏い着地する。水は吸い取るようにインベントリーにしまい込み体には水一滴付いていません。乾燥する必要も無く便利です。
髪をかき上げて後ろへふわっと流す。これが出来る超長いロングヘアも悪くないなと。
「私も髪伸ばす!」
「私は魔法で手入れ要らずですけれどロングヘアは大変ですよ?それに前衛職は髪が長いと大変そうですね。私は問題無いですけど」
ウィンドマスタリーの副次効果で空気抵抗を無い物として動けますし、基本魔法で支障が無いように固定しますしね。
「さて、マリーちゃん」
「マリー!」
「え?」
「マリーって呼んで!」
そう言えばずっとちゃん付けでしたね。背伸びしたいお年頃かな?まぁ、呼び捨てくらい全然いいでしょう。
「えぇ、いいですよ。まりー」
「やった!」
うーん、完全に妹ですねぇ。性的趣向は流石に女性ですけど流石に幼女に手を出す気はないですし、後ろを付いて来るのとか完全に妹とかのそれですよね。
因みにこの世界女性同士で結婚も子供も作れるそうで…オメガバースでしたっけ?あんな感じでしょうか。流石に知らない…まぁ。狼系獣人だけらしいのですが、求愛のサインと言うか本当に番にしたい相手のうなじを思いっきり噛むと双方共にある程度仲が良ければ番として自他ともに認識するらしい?です。
要するに外でそこらへん歩いてる男女がお互いの首噛んでも意味は無いけどカップルなら周りから見て「あ、この二人夫婦なんだ」って認識されるようになると。フェロモンか何かでしょうね?
「ソフィア?」
「あぁ、ごめんなさい。少し考え事を」
「もー!」
「そろそろマリーは眠る時間ですよ。さっ、早くお部屋へ」
そう言ったところ、うずうずとし始めました。どうしたのかと思ってみていると。
「ソフィアと一緒に寝たい…だめ?」
何と可愛いお願いでしょう。確かに夜になると私はすぐに部屋で調合をしてましたし。
「いいですよ。では子守歌でも歌ってあげましょう」
「うん!」
寝巻、寝巻…昔フレンドにプレゼントされたキャミソールワンピしかない…ドレスやローブとかは一杯あるのに。
「まぁ、いっかこれで」
ところで、魔法少女的変身って楽でそれでいてカッコイイと思いますよね。どっちかと言うと指輪の魔法使いかな?
と、言う事で。私の足元から魔法陣が浮かび上がり、魔法陣がそのまま上昇し即座に着替えが完了する。魔法少女と違って真っ裸になる事も無い早着替え。
「綺麗…」
「そ、そう?ありがとうマリー」
一度も使っていないベッドに潜り込み、掛け布団を上げてあげる。すぐに飛び込む勢いでベッドの中に入ってきたマリーの頭を撫でてあげるとニコニコ笑顔で抱きついて来ました。
「今日は特別ですよ?」
「やった!」
知っている子守歌は少ないけど大丈夫でしょう。
あまり歌ったことは無い物の歌う事は嫌いではないですし。
「坊やいい子だ寝んねしな」
そう多くは無いレパートリーの中から選んだ子守歌を歌うとマリーちゃんは最初こそ歌を聞いてくれていたものの数分で眠ってしまいました。
起こさないように短距離転移で抜け出した所でしっかり賭け布団をかけておく。
「さて、改めて金策とマリーへのちゃんとしたプレゼントを考えておかないと」