友達以上恋人未満
「ねぇ翔真、アタシ達って友達だよね?」
いつものようにこう聞けばアタシの友達⋯⋯の翔真はこう答える。
「うん、そーやで? 俺らは“ずっと”友達やろ?」
「だよね、ありがとう。そう言ってくれて」
「おん⋯⋯あ、ノート見せてくれへん?俺全部書けてなくてさ~」
「あ、いいよ?はい、どーぞ」
翔真はアタシのさっきの会話から遠ざけるように言った。正直アタシだってあの会話、嫌だよ。
だけど、仕方ないじゃん。
この関係を....壊したくないんだもん。
アタシのノートを受け取って彼はアタシの真隣で握っているシャーペンを動かす。凛としたカッコいい横顔にアタシは見惚れながら「あー好きだな」なんて、思っても言わない、言えない。
だから、この質問をするしかアタシたちの関係が分からなくなる。
“友達”⋯⋯でいい。
好きなんて、告白をして振られてこの関係が壊れるよりはずっとマシ。
翔真だって、 ずっと友達 って言ったんだし。
多分このままずっと⋯⋯アタシ達は友達のままなんだと思う。
そう考えるとやっぱり辛いな、なんて。
「ありがと~いやー、助かったわ!やっぱ橙花は頼りになりますね~」
丸眼鏡の奥の目を細めながらおだてる彼。
「⋯⋯ん、別にそんなことないよ」
「あれぇ、照れてんの?」
「そんなことないし」
と、図星でアタシは彼の背中を思いっきり叩く。
翔真は楽しそうに笑っている。
───⋯⋯これでいい。
この関係が何よりも⋯一番安全だから。
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橙花に惚れてから1年が経った。
何回も告ろう告ろう、そう思っとっても橙花が、
────友達だよね?翔真。
なんて聞いてくるから「好き」の言葉さえ喉でつっかえて出てこぉへんかった。
“友達”の言葉の重みのせいで告白なんてできんかった。
だからそれなりにアプローチ的なのを桂兄さんから教わってしてみたんやけど。橙花は鈍感すぎて気づいてくれへん。
この気持ち、いつ伝えたらええんやろ。
「いや~1年経つの早いなー翔真?」
「そっすよねーもう4月ですもんね!」
「そーいえば今日嘘ついてええ日やんな?」
「あー⋯⋯桂兄さんは毎日がエイプリルフールっすもんねw」
「誰が毎日嘘ついてんねんw」
なんて他愛もない会話を桂兄さんとする。
今日はエイプリルフール⋯⋯か。
ん?
エイプリル、フール・・・?
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「どーしたの?いきなり呼び出して」
「⋯⋯今日さ、エイプリルフールやん?」
「え?うん⋯⋯」
「⋯⋯エイプリルフールって嘘ついてもええ日やん?やけどなもう1つ意味あんねん。」
翔真は紺色の瞳を輝かせてアタシを見る。もう1つの意味?
「⋯───嘘を明かす日でもあんねん」
「⋯⋯それがどうしたの?」
嘘を明かす日。
翔真はアタシになにか嘘をついていたの?
「せやなぁ、嘘って言えば⋯⋯“ずっと友達”は無理そうってことやな」
ずっと友達、が嘘?
じゃあこの関係が嘘ってこと?
「ずっと友達は無理やけど、その代わりに橙花と付き合いたいねん」
「⋯⋯へ?」
みっともない声が自分の口から漏れる。
「あーその⋯⋯まぁ、.......俺、橙花が好きやから」
手で頭を掻きながら耳まで真っ赤にしてそういう彼。
あーそういうこと⋯⋯。
ずっと友達は無理だけど。
その代わりに付き合いたい、好きってこと。
そっか、翔真はこの関係が嘘だったんだ。
「⋯⋯いいよ、そういう嘘なら」
「ほんま、ごめん今頃言ってもよなぁ」
「アタシもこの関係はもう嘘にしたいから」
「⋯⋯⋯ってことはええってことなん?」
彼は似合わなく顔を赤くしている。
アタシは微笑んでから
「うん」
と、頷いた。