1:水無瀬家 「私が美しいからよ」
『姫様はナルシスト』という小説をここで書いていたのですが
ログインできないため、新規に制作し直しました((。。;)
「そろそろ、行って来る。」
西の空に陽が沈むころ、二人は私に背を向け部屋を後にする。
それは、私が見た両親の最期の姿だった。
1:水無瀬家
~5年後~
例えるなら社長室。
そんな場所で、私と彼はいつもの作業を行っていた。
「狩屋ぁ~、今日の予定は?」
大量に積まれた資料に目を落としながら、私は隣で黙々と作業をする男に声をかけた。
なにせ、我が『ミナセケ』に舞い込んで来る依頼は山のごとく。
内容に目を通すだけでも一日かかる程の資料が届いてくるのよ。
お陰で毎日休む暇は無し。これでも20歳ぴっちぴちの遊び盛りなんだけどねぇ…。
「あぁ……そういえばあなたに依頼が一件来てますね。あと一時間でその仕事終わらせてください、亜邪子さん」
◇私は水無瀬亜邪子。
何をしても華麗にこなす、超☆完璧人間。
パ○テーンのCMに出れるくらいの腰まで伸びる艶やかな黒髪は、すれ違う人々を振り返らせる。
…本当かって?
別に、部下達を常に大勢引き連れてるせいとかじゃないわよ?
私が美しいからよ。
家族(部下)達の中で「日本人形」とかほざいていた奴は、全員スマキの刑に処したわ。
二年前に水瀬家頭首になった私は、以来その役目を果たしている。
父と母が残した”家族”と、この『ミナセケ』を守るためにね。
「……一時間?!」
思わず立ち上がる。
こいつは一体、何年私の下僕をしてると…「せめて身の回りの管理と言って下さい」
おっと幻聴が。
「亜邪子さん、今口に出てましたよ」
目をやると、心なしか呆れ顔の狩屋が書類をまとめていた。
◇この小生意気な男は狩屋夜雨。通称狩屋。
猫っ毛の黒髪で、黒淵メガネがトレードマークのいたって普通の人間。
私が両親を失った時から、付き人のような役割をしている。
年は私と同じくらい。父がある日突然連れてきたこいつには、本当に謎が多い。
生年月日不詳・出身地不詳・生い立ち不詳・メガネは伊達なのか本当に悪いのか不詳。
挙げていたらきりが無いってわけ。
それでも、実力はこの私のお墨付きよ。
この世界で生きていくために必要な戦闘センスは…………………ま、まあ、百歩譲ってこの私と同等って所かしら。
目の前の机に積まれている紙の山という現実を見る。
「あんたねぇ、どうしてそういう大事な事をもっと早く言わないのよ!」
とてもそんな短時間で終わるはずがない量よねこれ。嫌がらせ?
仕方なく、再び資料を掴み取ると、カツアゲする勢いでそれとにらみ合いを開始。
「?…何をそんなに怒ってるんですか。残りの作業は仕事が終わってからでも…」
「残業?!そんな落ちこぼれみたいな真似できるわかけないでしょ!」
腰まで伸びた黒髪を、さらりとはらってみせる。
「私は、絶対・完全・完璧人間の水無瀬亜邪子様よ!」
高波を背負いどどんと言い放つ。
人類に私の横に出るものは誰一人としていないのよ。
しん…と静まり返った部屋には、狩屋の乾いた拍手が響いた。
◆
「…三件不承認。あとは各階級毎に振り分けておいて」
精根尽きた。とはこの事を言うんでしょうね。
ばたりと床に倒れこみ、最終審査が終了したことを示す用紙を狩屋に手渡す。
◇ちなみに階級というのは、依頼内容を難易度分けしたもののこと。
その後、そのランクをこなせる『ミナセケ』の人間に仕事が行くシステムになってるわ。
そろそろ『ミナセケ』のことがわかってきたかしら?
「時間きっかり…流石ですね」
ニコニコしながら言う奴が憎らしい。一体誰のせいだと思っているのよ。
受け取った狩屋がドアへ手をかける。
「さぁ、そろそろ行って来ましょう」
その光景に、”あの時”の影が重なる。
どくん、と胸がざわついた。
…なぜなら、狩屋があれを持っていたからだ。
前にも見た事がある…あの時、私は……
「まさか、長時間移動と言う名の拷問が待ってたりとか…しないわよね?」
「車で4時間と言ったところですね」
やっぱりぃぃぃいいい!!!
狩屋が持っていたのは、車のキーだった。
床に寝転ぶと、衝撃の事実により急に睡魔が襲ってきた。
「狩屋…」
「なんでしょう?」
すでに半分夢の中と言った状態だった私は、その後情けない言葉を呟いた気がした。
「…おん…ぶ……」
ここで私の意識は途切れた。
「はぁ、仕方が無いですね。
……お疲れ様です、『姫』」
そこには、愛しいものを見つめるかのような眼差しがあったとかなんとか。
◆
時は既に20時。
明かりが灯され華やかになる町並みに背を向け、私たちは狭く薄暗い路地裏に入る。
『今回の仕事は阿片窟掃除ですね』
阿片窟とは、アヘンを密売している場所の事を表す。
目を覚ました私は既に車内にいた。狩屋が運んだんでしょうね。
がっしりした体型でもないのに、どこからそんな力が出て来るんだか。
ふと窓の外見ると…
高速を高級車が一台、カーレースのように他の車を追い抜き爆走している。と、いうことがよくわかる光景が写った。
『ちょっと狩屋、法の定めた速度だけは守りなさいよ。……薬か…最近多いわね』
むくりと体を起こし、屈伸をする。
『しかし今回は少々わけアリでしてね。背後に権力者の影が見え隠れしてるって情報が』
『誰よ』
『それを調べる事も任務です。まあ、目星は付いてるんですけどね』
これ以上は聞くだけ無駄だと判断した私は、さてもう一寝入り。と、後ろを振り返ったところ……
怪しげな物体が暗幕に包まれ、積まれていた。
『狩屋…?」
不審に思った私は、指を差しながら問う。
あ、と声を上げ、狩屋は坦々とした表情でこう告げた。
『それ、触らない方がいいですよ。
……ヌルヌルします』
ヌルヌル?!
『は?…な、何言って…』
『激しくショッキングなので、亜邪子さんは見ない方が身の為かと』
あんた一体車に何乗せてんのよーーーー!!!!
ホラーと怪談が死ぬほど苦手な私は、それ以上の詮索をやめる事を余儀なくされた。