タチアナは、母の作品を魔導具に変える!?
元はホテルだった病院の大きな螺旋階段を……
(やっと3階についた…… 家まで、後半分!?)
コンテナボックスを被った幼女タチアナが隠れては、武装した集団をやり過ごす……
(付与した存在隠蔽が効いてる…… 見えていない様ね? 後は、ぶつかったりして…… 見付からない様…… 慎重に……)
タチアナは、自分の魔力を超音波の様に放出し反射で周囲を知る魔法のサーチを使いながら、慎重に階段を上がる。
(ヤバイかも…… 周囲の空間魔力が少なすぎるのに…… サーチの範囲が広がった…… 私の魔力が上がってる…… はやく、精霊の様に魔力を調節してくれる存在や物を見付けないと…… 完全に肉体の成長が止まるかも……)
肉体の成長以外にも、タチアナがエルフ病を恐れる理由がある。
タチアナの前世の世界では…… エルフ病になった人間族のほとんどが、大罪を起こして悪名を轟かしていた。
不老となって人間族の寿命を遥かに超えると……
種族の限界なのか…… 精神に異変を起こす事が多いのだ。
そのほとんどは、長い年月に知人の生き死にを見すぎる中で気が狂い……
突然に発狂し、壊れた感情では制御できずに…… 膨れ上がる強大な魔力を街中で爆発させたりするのだ。
その事から、エルフ病になった人間族は自分の近しい人々が亡くなると…… 自害するのがほとんどである。
(私の知る限り…… パパとママ以外の親類縁者は知らないけど…… 転生してから感情の変化が激しい時がある…… たぶん、肉体年齢に精神が引っ張られているのかな? じゃないと…… オムツ交換とか恥ずかしくて、精神的にちょっとね…… 後、前世の性別や人間関係の記憶が思い出せない…… 生活常識と魔法系の知識は簡単に思い出せるのに…… 精神衛生的に…… 思い出せないのかな?)
タチアナは、魔法の使い方や基本的な事と生活様式は解るのに…… 前世の自分やその関係者などの事が思い出せなかった。
(知識量から…… 魔法使い系の職だと思うけど…… まあ、私は私。パパとママの子供で魔法が使えるだけのタチアナ・風雅5歳! 今はこの力で生き残る事が大事!)
決意をあらたにしたタチアナは、慎重に階段を5階に向かって上がった。
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(この先が家なんだけど…… 廊下には、5人…… 部屋に数人の反応がある…… 家は…… ホテルだった時にスイートルームだったみたいで、有名人用に入口がちょっと隠れていたからかな? まだ見付かってないみたい……)
この建物は…… 元は超高級リゾートなホテルだった建物を国際的医療支援団体が病院に改築した物。
大小様々な施設が繋がっていて、その中のスイートルームだけの5階建てのホテルを3階までは病院施設にし、4階に病院関係者の食堂などの施設、5階を医療関係者の居住施設に改築したのだが……
タチアナ達の部屋は…… ホテル時代の限られた宿泊客の為の隠し部屋だった。
構造的な事からも改築できずに、改築後も部屋の入口が見付かり辛い位置のままだったのが幸いした。
(確か…… ここに…… あった♪)
タチアナは、5階から1階にゴミを捨てる為のダストシューター…… に偽装された荷物受け取り口から家に入る。
(丁度コンテナボックスが入るサイズで助かったけど…… 細かく調べたら直ぐに入口が解るだろうから、急がないと!)
タチアナは、急いで自分の部屋に向かった。
「あらためてみると…… ママ…… すごい……」
タチアナの部屋は、大小様々なヌイグルミで埋め尽くされていたが……
その全ては、タチアナの母の作品だった。
「このめのボタン…… やっぱり、ましょうせきだ」
タチアナの思った通りに…… 母の作ったヌイグルミ達には、魔晶石の装飾がされていた。
「でも…… ぜんぶは、もっていけない…… ウサシャン?」
タチアナの目に、愛用のうさぎのヌイグルミ型のリュックが見えた。
「ウサシャン…… ウサシャンのボタン…… おおきい?」
ウサシャンの胸に一際大きな魔晶石が煌めいた。
(この大きさなら…… 空間魔法が付与できるかも?)
タチアナは、うさぎのヌイグルミの胸のボタンにある大きめな魔晶石に魔力を込める……
「ウサシャン…… おねがい……」
タチアナは、祈る様な思いで…… 空間魔法を魔晶石に付与する。
本来、空間魔法の付与は…… 魔力を持つ魔石で行う。
魔力が込められるだけの魔晶石とは違い…… 付与を行うだけで済むからだ。
それは何故か……
空間魔法の付与は…… 極端に難しいのだ。
しかも、魔力の燃費が悪く…… 魔石でも大きめの魔石でないと成功しても、薬瓶が1つ入るくらいの〝収納魔法〟が付与されるだけだった。
(だけど…… 私は〝知っている〟…… 魔晶石でも、この部屋の荷物が余裕で入る……〝マジックバッグ〟を…… だって、作ったのは…… 私だったから)
タチアナの思いに応える様に、タチアナの魔力を込められたウサシャンの胸のボタンが輝き出した……