タチアナ5歳は…… ファンタジーからの転生者!?
(にげないと!)
飛び交う怒号と銃声の中で…… 父と母だった肉塊に涙ぐむ時間は無い。
(この世界では、空間の〝魔力〟が少ない。あまり〝魔法〟が持続しないから…… 何か媒介になる物は…… アレは?)
タチアナは、この世界では感じる事が少ない〝魔力〟を感じた……
それは…… 両親の首に煌めく指輪だった。
医師だった両親は、治療の邪魔にならない様に結婚指輪をネックレスにしていた。
(指輪の石から魔力…… もしかして〝魔石〟!?)
タチアナの両親は、国際的な医療支援団体に所属する医師だった。
北方の血筋の父と日本人の母は、駆け落ちの様な状態でタチアナが生まれた。
長期的な滞在となると、この地での現地の石で結婚指輪を作ったのだった。
(ただの水晶石だって言っていたけど…… 間違えなく魔力が流れる魔石…… いや、〝魔晶石〟だ。これを使えば……)
魔石は…… 〝魔物〟などの魔力が体内で血晶になった物だ。
それに対して魔晶石は……
鉱石が長い年月をかけて、魔力を内包する物質に変化した物だった。
(この世界でも…… 魔力があったのかな? でも…… これで…… にげられる!)
タチアナは、近くに転がる医療品が入っていたコンテナボックスをひっくり返して、コンテナボックスを被る。
(確か…… ママが手芸品を集めていたけど…… その中には、同じ様な石が填められたボタンとかがあったはず…… 先ずは、5階の私達の家!)
タチアナは、母の指輪のネックレスを首にかけて…… 父の指輪をコンテナボックスに括り付けた。
(先ずは…… 〝存在隠蔽を付与〟。次に…… サーチ……)
コンテナボックスを被るタチアナの姿は、透明になって周囲の風景に同化した。
(やはり…… 周囲の空間魔力が少なすぎる…… 自分を中心に…… 二部屋分くらいしかわからない…… とりあえずは、廊下に出ないと!?)
「…… ●□◇◎……」
爆発で吹き飛んだ扉から、銃を持った男が入って来ては……
室内を見回して、父と母の身体に銃口を向けてつつく……
「チィ…… $§£¢☆△!」
舌打ちをして声を荒げて怒鳴る。
(くっ…… パパ…… ママ…… 言われたとおりに、私は生きるよ!)
足音が近付いて来るので、タチアナは廊下に出ると……壁に貼り付く様にして階段に向かう。
(エレベーターは…… ダメ。動かしたら追って来るだろうし…… 最悪、待ち伏せされるかも知れない。階段を使うしかないか……)
5歳の身体で、コンテナボックスを被りながらの階段移動は不安だが……
襲撃犯の数と目的が不明だから、5歳の身体のタチアナには……〝魔法〟が必要だ。
(空間魔力が少なすぎるから…… 放出系の攻撃魔法は無理だし、接近戦なんて持っての他だし……〝魔法が付与できる魔晶石〟が必要不可欠。それに…… 家には、ママの力作がある……〝あの子達〟なら、私を守ってくれるはず!)
タチアナは、コンテナボックスを持上げながら…… ゆっくりゆっくりと階段を上に上がる。
(疲れてるのに…… 呼吸が上がらない? 魔力を使い過ぎた…… はやくにげないと……〝エルフ病〟になっちゃう!)
タチアナの前世の世界では…… 人間族の魔法使用は、10歳まで禁止されていた。
それには明確な理由がある……
ある程度まで肉体が成長していないと…… 魔力の成長が肉体に変異を起こすからだった。
魔力の成長率が肉体の限界を超えると、肉体の中に魔力血晶が出来てしまうのだ。
魔力血晶は、魔物の魔石と同じ様な物だが…… その魔力血晶が肉体に出来てと、肉体の成長が遅くなる……
新陳代謝が少なく白い肌になる事から、〝エルフ病〟と言われる様になった。
これは、魔力が高い種族が無意識に行っている身体強化の1種で…… 長寿の理由の1つなのだが……
人間族で…… この行為は自殺に等しい。
人間族以外の種族ならば、幼少期の対処が可能なのだが…… 人間族の場合は、その高い魔力故に…… 幼い姿の時に襲われやすいのだ。
エルフの場合は…… 生まれたばかりの精霊に魔力を吸わせて、肉体の成長を促しながら生涯の友となる精霊を獲るのだが……
(この世界で唯一の魔法使いたる私には…… 魔力を吸わせる相手がいない…… こうなると、なんとかして魔力を使い切らないと…… 肉体が成長せずに見た目が5歳のままになってしまう……)
このままだと、数十年5歳児のままになりそうなタチアナは……
5階の家によちよちと急ぐのだった。