タチアナ5歳は…… 母方の親類を捜しに極東の島国を目指す
「う~ん……(とりあえずは…… 国籍が欲しいかな?)」
狼のヌイグルミ…… ウルに跨がり森を駆けるタチアナは、逃亡先を考えていた。
「(この世界での身分証明が必要…… パパは、元北方の国からの難民だったと言っていたけど…… ママは、極東の島国の出身で、医師の家系だと聞いた事がある…… 難民だけどなんとか医師になる為に留学したパパに、大学で出会って交際…… 駆け落ちする様に国際医療団体に入った……)って、いってた……」
国籍を取得するならば…… 難民だった父よりも、親類の居場所が解る母方の方が確実だろうと思い……
「よち……(目指すは、極東の島国…… 日本!)」
とりあえず、陸路で日本に向かい移動する事にした。
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「う~…… くらくなってきた…… きょうは、ここまでかな?」
日が傾き始めたので、タチアナは移動を止めて野営をする事にした。
「どれがいいかな…… これは?」
完全に日が落ちる前に、父のキャンプ道具からテントとランタンを探す。
「これは…… おおきい…… これは、ふくざちゅ……」
タチアナの父は、難民生活の経験からキャンプや釣りに狩猟などのサバイバルに関連する物を集めていた。
中でも生活空間になるテントは…… 専門店なみに種類が豊富だった。
「ちょういてば……(キャンプ道具の紹介動画で…… 収益を獲ていた様な……)ちゅぽんさーがいたのかな?」
タチアナは…… 8畳間を処狭しと、埋め尽くしていたキャンプ道具を思い出した。
「あっ、これ…… ふくらまちゅだけだ」
数多いテントの中から、空気を入れるだけで出来るテントを発見したので……
「これでいいか。え~っと…… くうきいれは?」
空気を入れる為に空気入れを探していると……
「ママ」
「ハナ? な~に?」
「わたしが入れるよ」
「できるの?」
「うん、見て♪」
ボン!
テントの骨組みの代わりの空気で膨らます部分が、破裂する様な音を発てながら急に膨れ上がる!
「うわぁ!? ちょっ、ちゅとぷ! ハナ、ちゅとぷ!!」
「はい」
「うわぁ…… ミチミチしてりゅ…… ハナ、ちょっとちゅつくうきぬいて。ちょっとちゅつだよ」
「は~い♪」
破裂寸前まで膨れたテントの骨組み部分から、少しづつ空気を抜いて……
「よち! おっけー♪ ハナ、あんがとう」
「はい、ママ♪」
タチアナの頬にすり付くハナを一撫でして、テントに魔晶石のペンダントを縛る。
「(修復と頑強を……)ふよちてと……」
限界ギリギリまで膨れていたので、寝ている間に潰れない様に修復と強度を上げる付与を施した。
「あとは……(動かない様、地面に固定…… 杭を打つよりも魔法で……)ちょくせちゅがらく~」
テントの固定する為の穴に、土魔法で地面にフックを生やして固定した。
「よち♪ あとは、ねどこを……」
大人一人~二人用の小さなテントだが…… 5歳の平均よりも小さ目なタチアナには、充分な広さだった。
「これでよち……」
ウサギ型リュックのウサシャンから、お気に入りのヌイグルミを数体取り出すと…… タチアナは、抱き付いて寝れる様にセットした。
「あとは…… ごはん♪」
ウサシャンから、父のキャンプ道具の蓄電池とキッチンから持って来た電子レンジを取り出して……
「ママ…… あんがとう……」
母の作り置きの冷凍されていた料理を取り出し、レンジでチンする。
「いちゃだきまちゅ♪」
ランタンの灯りに照らされながら、あの日に親子3人で食べるかも知れなかった母の冷凍していたグラタンを……
タチアナは、一人食べる……
「おやさい…… キライって…… こまらちぇて…… ごめんなちゃい……」
グラタンの中は、タチアナに解らない様にと…… 野菜をすり潰して作られていた。
「ママ…… あちでわかりゅよ…… でも、のこちゃないから……」
困った様に笑う両親の顔が浮かび…… タチアナの瞳に涙が溢れ出す……
「ぜ…… ひっく…… ぜっちゃいに…… ひっく…… のこちゃないから……」
少しだけ…… しょっぱくなったグラタンを食べていると……
「!?(この感じ…… 囲まれた!?)」
両親を思い出す食事に油断したタチアナを、狙う複数の影が森の中を動き出す……
「(この感じは…… 人じゃないね…… 4足歩行の動物の群れ……)野犬!?」
残りのグラタンを急いで口に入れて、タチアナが近付く気配の方に目を向けると……
「ガルルルルル……」
牙を剥き出しにして…… 痩せているが大きな犬が姿を現す。
「くっ!(しまった…… おねえちゃんは、テントの中だ……)」
食事後は直ぐに寝るつもりだったタチアナは…… 寝床に武器でもあるベア美を置いてしまったのだ。
「(ほ、他に武器は! 近付いたら土魔法で……)や!?」
姿を現せた一匹に気を盗られ…… 囲んでいた別の野犬がタチアナに飛び掛かる!
ドゴッ!
「ギャイン!?」
反射的に伏せたタチアナが庇う様にして、飛び掛かる野犬を何者かが殴り付けた!
「えっ…… お…… おねえちゃん!?」
ランタンの灯りが照らした何者かの姿は、テントの中に置かれたはずの…… ベア美だった。
「それに…… ウルも?」
何時の間にかタチアナの後ろを守る様みたいに…… ウルが野犬を睨む様にして立っていた。
「にゃ、にゃんで!?」
自動的に自分を守る2体のヌイグルミに……
タチアナは、混乱の声を上げるのだった




