明るくて素直で天然で一途な清楚美少女の幼馴染が欲しかった話
「あああああああああああっっっっ!!俺にも明るくて素直で天然で一途な清楚美少女の幼馴染が欲しいよぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!」
部屋の主はそんな欲望に塗れた咆哮を上げた。
私の彼氏であり幼馴染であるその男は、私の送った冷ややかな目線にもめげず、なおも奇声を発し続けている。人間性を疑うような彼の痴態。仮に学校の友人に見られでもしたら、学内でも一二を争う程のルックスを持つ彼の評判ですら地に落ちるだろう。
一度こうなってしまうと話を聞いてやらないと収まらないということを私は知っている。
私は読んでいた漫画を閉じ、彼の遊んでいた携帯ゲームの画面を覗き込んだ。
そこには黄色いリボンのよく似合う快活そうな少女が、満開の向日葵の前で少年と抱き合っているイラストが映っている。いわゆるアドベンチャーゲームのCGと呼ばれるものだ。
「あー、やっぱあんたこの子選んだんだ。あんたいっつもメインヒロインっぽい子選ぶもんね、ほんと分かりやすい男だわ」
「べっ、別にいいだろっ!?メインヒロインはメインだからメインヒロインなんだから。好きになるのは当然の事というか」
「はいはい、そうね~」
軽くあしらうと彼は、ぐぬぬ…と唸るとプイとそっぽを向いた。
別に否定したわけではないのに。現に私だってこの作品を遊んだ時に最初にルート完走したのは同じ子だった訳で。この子を選んだこいつのセンスはいいし、同じ子に恋をしたというのはちょっと嬉しい。
しかし、
「にしても明るくて素直で天然で一途な清楚美少女の幼馴染が欲しいて。私がいるじゃないの。なんの不満がある、って……のよ………」
私が言い切る前に彼は、勢い余ってねじ切れるんじゃないかと思うくらいの速度で振り返った。
その顔には修羅の如き相貌が浮かんでいる。
「お前よくそんな事言えたな、あぁ?」
「な、なによ。何か間違ったこと言ったかしら?」
「間違いだらけじゃねぇか!!いいか?さっきの要素で当てはまってるのはせいぜい美少女であることと幼馴染であることだけだろうが!!!」
彼はなおも捲し立てる。
「一、学校じゃいつも暗い顔で誰とも喋らず一人で本読んでる。
二、一度自分で決めたことは誰が何言っても変えない。
三、一緒に出掛けたら俺のことおだてられるだけおだててご飯を奢らせる。
四、お前、このゲームやった機種は?」
「ぴ、PC、です…」
「四、エロゲやってる女が清楚な訳ない。
五、四か月毎に推しが変わる女が一途とは聞いてあきれる。以上、証明終了」
言い切ると彼は勝ち誇ったかのように胸を張った。
「ふっ、どうだ言い返せまい?」
確かに、彼の言ったことはほぼ全て事実だ。反論の余地もない。
そんな私に悲しみすら覚える。
しかし、それ以上に。
「あんたねぇ、言ってくれるじゃないの」
一つだけ、許せないことがある。
「確かに私は根暗だし、頑固だし、ケチだし、スケベだし」
「いや、そこまでは言ってない」
「でもね……」
私は彼の頭を両手で包み込んで、彼の唇と自分のを重ねた。
驚いたような彼に構わず、舌をねじ込み彼をむさぼる。
まだこういったことに慣れていない彼のその反応を楽しみつつ、ある程度のタイミングで顔を離し微笑んだ。
「私、あんた一筋だから。それだけは忘れないで」
彼はしばらく唖然としていたが、顔を真っ赤に染めると、
「…は、はい」
恥ずかしそうにそう言った。
その表情でプツン、と私の中の何かが切れた。
「は?可愛いんだが、この男。許せねぇ、メチャクチャにしてやる」
「えっ!?あっ!?ちょっとっ!!?ダメだって!?!?」
「大丈夫、安心しな。優しくしてやるから」
「それ本来俺のセリフ!?」
◇
二時間後。
ベッドの上にはいろんな液体に塗れた私達の姿があった。
「これが、幼馴染であり恋人である私達の、少し爛れた青春なのだった」
「何その地の文みたいなの」
「エロゲみたいでしょ?」
「そうかなぁ?」