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いつかの記憶
心地よい風が窓際から吹いてきた。
外からは部活の午後連に励む学生たちの声と、中からは吹奏楽部の面々が後片付けをしている音がする。
髪をそっと優しい風に撫でられながら、教室の扉のほうへと顔を向ける。
――行かなくちゃ。
私の心の中には一つの行動原理だけがあった。
幼くて短慮で、直情的なのは昔からだった。
……ただ一つの懸念を除いて。
教室を出て左、階段を二階分登ると……屋上の扉。
夕方の棟内にしては珍しく、誰ともすれ違わなかった。これは本当に偶然だろうが、今はそれが有難かった。
目的地である屋上に何の用事を告げるでもなく向かうのだから、呼び止められたら面倒だ。つまるところ、話したくなかった。
屋上へ続く扉はいつもは鍵がかかっているが、今日はノブを回すと軋む音とともに開いた。
風が、ぶわっと私へのしかかる。
……そっちにいってはいけないよ、とでも言うかのように。
そんな風の妖精の言葉を無視して、私は屋上へ一歩踏み出した。
何故か、って?
それが、分からないんだなぁ。
目的地へ、目的も分からぬまま私は向かって、そして――。