紅の村(1)
本編始まります!
もう主人公がキャラブレえぐいですけど自分が楽しいので良いや。
陽太が草原へ踏み入れると、勝手に扉は閉まりまるで最初から無かったように消えてしまった。完全に一人で取り残される。どこを見てもあるのは草と木と山のみ、荒んだ心のリフレッシュにピッタリな環境だ。陽太はとりあえず歩くことに決めた。
「そういえばさっきのヤツ誰だったんだよ…勝手に色々と押し付けやがって」
しばらくの間、誰もいないからとブツブツ文句を言いながら歩いていると、果てしなく遠いところに村のような家の集合地帯があるのを発見した。今日はそこに向かおうと考えつつ速足になる。その時、脚に何かが絡みついた。ひんやりした何かがくっつくといつまで経っても外れることなくまとわりついてくる。
「なんだよ……うわ!スライムみたいなのがついてる!」
脹脛にちょうど一周巻き付くように透明性のある水色のスライムが引っ付いていた。慌てて足を振るとビチャという音を立てて地面に落ちた。敵のエンカウントに理解が追い付かない。とりあえず走って逃げるが並走するようにスライムも滑ってくる。
「俺の知っているスライムはそんなに加速しないぞオイ!こうなったら戦うしかないのか」
足を止めてスライムと向き合う。察したスライムも滑るのをやめると陽太の正面に来た。
「俺は勇者だぞ、こんな雑魚モンスターに負けるわけないからな」
≪能力発動≫
『スライムとか怖すぎだろここで俺が死んだらどうなるんだよ…って本音が漏れてしまってる!』
短剣のリーチの短さに半ギレしつつスライムと向き合う。お互いに一歩目が出ずジリジリと距離を詰めるがスライムの方がとうとう行動に出た。跳ねるようにして慎重を余裕で超す高さまで飛ぶと陽太の頭めがけて突っ込んでくる。
「おらっ!」
何となく勢いで短剣を振ると水が弾かれた様な音と共にスライムは半分に割れてから地面に解けるようにして消えた。その消えたところに申し訳程度のコインは落ちていたが、レベルが上がったような効果音は特にしなかった。陽太はそのコインをポケットに入れると再び歩き出す。村が近づいてくると同時に人の姿を見つけた。
「あれは何だ?」
目を凝らしてみると、その人物は剣を振りかぶっていた。どうやら素振りをしているらしく一定のリズムで振り続けている。第一村人を発見して安心した陽太は手を振りながらそちらに走っていく。
「おーいそこの君!君はあそこの村に住んでる人かな?」
どんどん近づくと、オレンジ色の髪の毛がゆらゆらと炎のように揺らめいてこちらを見た。
「誰?」
≪能力発動≫
『あー遠くから見たらツルペタだから男だと思った…すみませんでした!』
走ってきてすぐ土下座をする陽太の動きにドン引きするのは女の子だった。一重でスッとした目元に真っ赤な瞳の色、痩せているのではなく健康的な方のスリムであると全身から物語ってる。先ほどの本心を聞いて一気に警戒度が上がってしまったのか目が冷酷すぎる。
「で、アタシに何か用なの?」
「実は一時間ほど草原を彷徨ってたんだけど、ようやく人を見つけて話しかけに来ました。そこの村の人ですか?」
正座の状態で陽太が話しかけると、女の子は目線を合わせるためにしゃがんでくれた。陽太の服装を見て不審そうに見てくるので慌てて説明をした。
「実は俺、なんか良く分からない女の人に勇者だとか言って無理やり召喚されたんだよ!だからこれは俺の世界では普通の恰好で……そうこれ!この埋め込まれた石見てよ!」
高校の運動会で作ったクラスTシャツとジャージのズボンという恐ろしいほど部屋着で召喚されてしまったのだ。この国では不釣り合いすぎて疑われてもおかしくない。陽太は急いで手の甲にくっついている石を見せた。すると驚いた顔をして女の子はこちらを見た。
「もしかして光の女神に召喚されたのはアンタなの?」
その女の子も手の甲を見せてくれた。そこには真っ赤な石が同じ様に埋め込まれている。
「アンタが勇者なら案内するしかないわね。アタシの名前はルーフス。とりあえずアタシの村には宿とかないから家に来てもらうね」
ルーフスが手を差し出してきたので握手をしてから二人は立ち上がった。ルーフスは手を離すと陽太に背中を向けて歩き出してしまう。ふと陽太は疑問に思ったことをルーフスにぶつけた。
「え?そんなことより早く他のメンツも捕まえて魔王倒しに行かないの?」
そう聞くと、ルーフスは嫌そうな顔をしながら振り返った。
「アタシあと一週間で結婚式があるから、今からいきなり長期間も村から離れられないの」
明らかに嬉しそうではないその表情を見て陽太の表情は少しだけ曇った。
「良いのよ別に、仕方のないことだもの」
本心からではなさそうなその言葉に、陽太は一つ試してみたいことを思いついた。
「ルーフスに『本音』を発動する」
≪能力発動≫
『本当はヨータと一緒にこの村を出て旅をしたい!結婚なんかしたくないのに…ってなにこれ』
口を塞ぎながら睨んでくるルーフスから陽太は視線を逸らす。どうやら自分自身ではなく相手にも発動させられるようだ。口を塞いでいた手をおろすと、ため息をつきながら再び歩き出した。
「とりあえず今日は泊めるから。今のは他の人に絶対言わないでね」
陽太は無言で頷くと、ルーフスの後ろを黙って付いていくのだった。




