プロローグ(2)
「起きて~?ちょっと起きてよ~」
左右に揺らされる感覚で陽太は目覚めた。見回してみると真っ白な空間、そして己の体を揺らしている存在に気づいた。体の右斜めにしゃがみこんでいたのは一人の女性。真っ白の肌にフワフワとウェーブした白の髪、金色の瞳がキラキラと輝いている。白いワンピースのような服を着ている美人は胸元を気にすることなくこちらを見ていた。
「良かった!召喚に失敗して殺したかと思った…はい、手を貸してあげるから起きて」
差し出された手を持ってみると、思っていたよりも数倍は柔らかくて思わずビビってしまう。彼女がいたことは過去にあったが自然消滅したのでノーカン。その時もドキドキしたけどこれに比べたら可愛らしいものだった。いや、だから胸が。
「我はルクスと言う。君は何という名前だい?」
「えっと、陽太です」
ヨータ?と首をかしげながら何度か呟くと覚えたのかうんうんと頷いた。背はかなり低いにも関わらず一人称が「我」を使っている所が好感度プラス十点。
「ところでどうして俺はこんなところに連れて来られたんだ!?」
ようやく状況を把握した陽太はルクスにたずねる。ルクスは待ってましたと言わんばかりのドヤ顔で話し出した。
「実はね、ここ最近闇の魔王が暴れだしちゃってこの国が消滅しかかっているんだ。だからこの状況を何とかするために我がヨータを召喚したの。君には勇者になって色々な地方にいる選ばれし騎士を仲間にして倒してもらいたいって…ちょっと待ってよ!」
これ以上聞くと最近話題のジャンルみたいな展開になると察した陽太は慌てて立ち上がると回れ右をして爆走する。負けじとルクスが立ち上がると爆速で追いかけてきた。そして陽太の腰の辺りに飛びつくと二人揃って派手に転がった。
「い、嫌だ!絶対に嫌だからな!」
「そんなこと言わないで!じゃあ我から特別に最強の能力授けるからそれでどうかな?」
上にのしかかられて身動きが取れなくなる。あ、胸が見えそう。
「うーん…じゃあこの能力がピッタリかな」
≪能力発動≫
『胸が大きいな……あ』
心の中で思っていたことが口からモロ出た。その瞬間、ルクスは顔を真っ赤にすると最低!と大きい声で言って立ち上がった。何かとんでもない能力を無理やり授けられたような気がする。
「本心を言うのが苦手ってわかったから言えるようにしてあげたのにそんなこと考えてたのね!でも我が最強の能力を授けたんだから冒険には行ってもらうからな!絶対だぞ!」
「それは卑怯だ!そもそも俺は授けろとか言ってないからな!」
言い合いをしていると怒りが頂点に達したのかルクスは更に顔を赤くして叫ぶように言った。
「もーーー!なんかムカついた!その能力『本音』に暴走機能つけて最悪なタイミングで本音が漏れるようにしてやるからな!」
「それは本当に最悪だ!」
二人して肩で息をすると、お互いに諦めたようにため息をついた。ルクスはまだ怒り足りてないような表情をしつつ手から剣と盾を生み出して陽太の手に押し付けるようにしてきた。短剣と木の盾のオーソドックスな武器を渡されて陽太はとりあえず振り回してみた。軽くて戦いやすそうだ。
「じゃあこれ持って紅の村に行って騎士を見つけ出すこと!あ、そうそう」
やっと機嫌を直したのか普通に話しかけてくれるようになると、祈るようなポーズをとる。すると手元から光が溢れてきた。手の中には真っ白で真珠のような石が転がっていて、それを陽太の手の甲に押し付けるとみるみるうちに入り込んできた。そして手にめり込むようにして半分ほど飲み込まれるとそこで止まった。気持ち悪くて触っているとルクスは再び自慢げに話し出した。
「これは我からの選別だ。これがあれば宿で泊まる時に顔パスができるし食べ物買う時もタダで貰えるようになるぞ。なんたって我の加護を受けているのだからな!あと他の騎士たちも同じように手の甲に石が付いていると思うからそれを目印に見つけるように!じゃあバイバーイ」
「あ、ちょっと待て!マジで本当に俺一人で冒険しろってか?」
陽太がそう言ったのをガン無視してルクスは目の前から消えていった。それと同時に目の前に扉が出てきた。勝手に扉が開くと草原が見える。後ろと左右は真っ白で何もなくて正面には草原が見える扉。進む道が一つしかなかった。
「あーもー!行けばいいんでしょ!」
半ば諦めるようにして短剣と盾を持った勇者は旅立ったのである。
主人公をツッコミにしたくなるのは性分です。許してください。




