第8話 従兄と一週間
協力を約束してもらってから、一週間が経った。
そして今日から私の訓練が始まるらしい。
今、私に前には一人の青年が立っている。
どうやら私の従兄らしい。金髪碧眼のイケメンさんだ。
「久しぶりだね。よろしくねルシアちゃん」
「お久しぶりです、マルコスさん。よろしくお願いします」
彼が私の先生をやってくれるようだ。なんでも国の騎士として活躍してるらしい。 騎士小隊の隊長をしているのでなかなか時間が取れないらしく、今まで会ったことはなかったけど、ルシアちゃんの記憶に出てきた限り好青年と言う印象だった。
なんでも、お父さんに頼まれて一週間の休暇を取ってくれたらしい。
何がなんでも強くならなきゃマルコスさんに申しわけが立たぬ。
ちなみにマルコスさんはお父さんのお姉さんの子どもで、双子の弟だ。
子爵家の次男で年齢は二十歳くらい。そしてイケメンさんだ(二回目)。
「じゃあ早速始めようか」
「は、はい。よろしくお願いします!」
「あはは、もっとリラックスして。一週間も一緒にいるんだからそんなんじゃ疲れちゃうよ」
そう言って爽やかに笑いかけてくる。
自然とリラックスできるようなフレンドリーさ、これはっ……!
オーラが凄いよ異世界貴族。
「まずは使う武器を決めようか。魔法のアビリティならあまり大きな武器だと邪魔になるだろうし……護身目的なら、候補は短剣、杖、弓あたりだね」
「マルコスさんはどんな武器を使ってるんですか?」
「長剣を使ってるけど、それ以外にも短剣と弓は普段から持ち歩いてるね。でも僕は騎士だからあんまり参考にはならないかな」
なるほど、メインはリーチと攻撃力のある長剣。サブで取り回しがいい短剣と、遠距離からの攻撃手段で弓。どんな状況でも戦えそうな装備だ。
ダンジョンとは『異形の怪物が生息する異界』のことらしいので、私は『異形の怪物』、つまりモンスターと戦うことになる。
様々なモンスターと戦うことになるので、どんな距離でもある程度戦い慣れることが、生き残るためには必要らしい。
「ちなみにどんな武器を選んでも体術の訓練はするから安心してね」
「は、はい。安心します……?」
安心していいのか不明だが、ニッコニコの笑顔でそう言われれば肯くしかない。
もしやマルコスさんってスパルタ……?
いや、少しサイコでパスなオーラを感じただけだし、きっと気のせいだろうそうだろう。
「武器は杖にします。無くしても棒とか枝で代わりになりそうですし」
「驚いた、もうそこまで想定できてるのか。これは将来有望だな」
言葉通り、驚いた表情をするマルコスさんに、心の中でドヤ顔をする。
中身は高校生年齢だからね。こっちにきてからも三年経ってるし。
まあ、理由は今考えたんだけどね。本音は魔法使いといえば杖だよねってイメージが大きい。
割とてきとー。
「じゃあとりあえず持ってみて」
「こうで良いですか?」
「もう少し足を開いて、肩幅くらいまで。杖は片手で持ったほうがいいよ」
言われた通りに構える。杖の長さは私の身長の六割くらいで多分七十センチぐらい。
右手で杖の真ん中あたりを握る。
「あくまで攻撃手段は魔法で、近距離戦ではダメージを与える事よりも回避して距離を取ることが最優先。それを覚えていて」
「わかりました」
「とはいえ、どんな距離でも戦えるなら戦い方の幅は大きく広がるから、常に多くの選択肢を持っていたい。周囲と敵を観察して、その場にある全ての物を使って相手の隙を突く。意外性も知性の高いモンスターには有効だよ」
「なるほど、常に敵を観察することが大事なんですね」
無謀とも言える目的を持つ私にとっては、どんな手段を取ってでも目的を果たすという精神が必要かも知れない。
「そう。観察は大切な戦闘の技術だ。相手の動きから、弱点やクセを見つけたり、どのくらいの間合いがいいか考えたり。思考停止は戦士の敵って騎士団長が言ってたよ」
「クセを見つける……」
簡単には出来なそうだけど、経験を積めばできるのだろうか。
大変そうだな……めんどくさいな。などと邪な考えを抱いていたら、突然杖を向けられた。
「じゃあ、これから僕が攻撃するから、頑張って捌いてみて」
「え?」
「いくよっ!」
「ちょ、ええ!?」
私が両手で持っているのと同じ杖を、片手で使ってマルコスさんが攻撃してくる。
手加減はしてるだろうが、戦闘の素人が捌ける攻撃ではなく、突然の開始に戸惑っている間に何発か突きを喰らってしまう。
「敵は今から攻撃しますなんて言わないよ。いきなり理不尽かもしれないけどモンスターは卑怯とか考えてくれないからねっ!」
「ふっ、くっ!」
それにしたっていきなりすぎでしょ!! 私八歳!!
とか言ったら負けた気がするし、従兄だからって甘えた気持ちがあったのは確かだ。油断大敵、集中してやらなきゃ一週間なんてあっという間に終わってしまう。
切り替えて行かなきゃ、相手は従兄じゃなく師匠!
「おねがいします、師匠!!」
「今日は初日だし、この辺にしておこうか」
「疲れたあぁぁぁ!」
あれから休憩を挟みながらも約四時間。
とにかくいっぱい転がされた。
これからさらに厳しくなっていくだろう未来を見ないフリをして芝生に寝転がる。 雲ひとつない空を見上げ、考える。
多分私は空と同じくらい遠い目標を目指していて、その目標はやりたいことではなく、やらなきゃいけないことで、このまま進んでいったらどこかで燃料が切れてしまう。必要に迫られた、ただそれだけじゃ届かない。
なにか、こう、もっと個人的なモチベーションが欲しい。
使命感だけじゃ続く気がしない。
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二日目。午前に二時間、午後は三時間の練習メニューをこなした。受け身の取り方が少しだけわかった気がする。筋肉痛が酷かったけど、全然気にせず戦わされた。やっぱ師匠はスパルタかも。
三日目。結構避けられるようになった。避けた後に隙を作らずに体勢を整えるのが目標。
成長が早い気がするけど、この世界の人間の種族的特徴なのか、私の才能なのかはわからない。
四日目。私が慣れてきたのに合わせて、師匠が色んな方法で攻撃するようになった。レディの目に砂をかけるのはどうかと思うが、真剣に教えてくれてるのだと思う。そろそろ反撃できるようになりたい。
五日目。午後の訓練が四時間に増えて合計六時間。疲労も溜まって来てきつい。でもダンジョンは長ければ数週間の探索になるらしいから疲れている時の戦い方も知っておかなくてはいけないとのこと。がんばれ私。逃げるな私。
六日目。ついに師匠に一撃を入れた。嬉しい。けどおめでとうと言いながら手加減を緩めるのは大人気ないと思う。手強くなった師匠は武器も木剣に変えてやりづらくなった。リーチの差が理不尽だがモンスターはバカでかいやつもいるはずなので対策を考える必要がある。つかれた。
七日目。やっぱりリーチの差は簡単には埋められない。小さいのを生かして懐に潜り込んだりしたけど、そもそも距離を取りたいのに近くのはリスクが高い。捉えられたら不利な戦いを強いられるから、あまり何度もやる戦法ではないかも。
それと今日で終わりだと思っていたけど、これからも週一で来るらしい。
熱心な家庭教師だ。
あっという間に一週間が過ぎていった。師匠は一週間後にまた来ると言って帰っていった。ここ最近でずいぶん硬くなった自分の手を見ながら振り返ってみると、ずっと戦っていた一週間だった。
正直、今でも自分がダンジョンを探索してモンスターと戦う姿は想像できない。
ただ師匠と戦っていて、自分がどれだけ楽観的だったかわかった気がする。
それでもあの時神様に転生したいと言ったことに後悔はない。
少しでも強くなる。そのために、次は魔法を使えるようにならなくては。
私頑張る。頑張るよ。




