第1話 死と神様
皆さんは、自分を不運だと思った事はありますか?
私は常に思っています。
いや、思っていました。
たとえば、財布をスられたり。
たとえば、スマホをドブに落としたり。
たとえば、傘が無い時に限って突然雨に降られたり。
たとえば、欲しい物が目の前で売り切れたり。
たとえば、たとえば、たとえば、たとえば――。
全部挙げてたら、たとえばがゲシュタルト崩壊するほどに私は不運だった。
私の日常はいつも不運と隣り合わせだった。
でも、そんな私でも、死にかけた事は無かった。死を覚悟するような事も無かった。両親は優しいし、体は健康だし、高校にも入学できた。
だから、安心していた。いや、考えたことも無かった。
だってそうだろう。いくら不運だからと言って、雷に打たれて死ぬなんて想像できるはずが無い。
不運だと思っても、不幸だと思ってはいなかった。
私はまだ、自分の不運を舐めていたんだ。
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以上、私の死についての回想でした〜。
そして! 私は今、天国に居ます。神様も居ます。
神様に死因を教えてもらって回想に耽っていた訳ですよ。
もう一度簡単に状況を説明すると。
いつもどうりスコールに降られて、鞄で頭を守りながら走っていたら突然空がピカッと光り、天国で目を覚ましたという訳です。
あれ? 二行で説明できたぞ。回想いらなかった?
神様に「雷に打たれて死んだぞ〜」と言われて短かった人生を振り返って見たものの、わかったのはお父さん、お母さんごめんなさい。と言うことと、私が自分の不運を命懸けで証明した事実だけだった。
そんなこと証明したくなかったよ……。
「落ち込みタイムは終わったか〜?」
「あ、はい。待っていただきありがとうございます」
神様が私を見つめながら聞いてきた。
神様は女性っぽい容姿をしていて、ワイルドでかっこいいお姉さんと言った風貌だ。
なぜかずっと孫の手で肩を叩いてるけど。
でもやっぱり神様なだけあってオーラが凄い。自然と敬語になってしまう。
「ま、死なんて簡単に受け入れられるモンじゃ無ぇ、後で好きに落ち込んで存分に泣け」
「あはは……、後なんてあるんでしょうか?」
神様らしいあっさりとした物言いに苦笑いをしながら私は質問する。
「普通は無い。が、お前にはある」
「どういうことですか?」
「正確には選択肢があるってことだ。簡単に言えば――」
神様はそこで言葉を切り、私を見つめる。
「簡単に言えば……?」
「お前には異世界に行ってもらいたい」
異世界、か……なんで?
「いわゆる異世界転生ってやつですよね?」
「そうなるな。だが、タダでも強制でも無え。条件があってな」
神様は指を二本立てる。
「条件?」
「一個はそう難しいもんじゃ無え。転生者ってバレないようにしてくれ」
「バレないように?」
神であっても気を付けないといけない相手がいるのだろうか?
「そう、誰にバレたらまずいのかってーと……あー、まああっちの世界の神ってやつだ」
「神?」
確かにおなじ神同士なら神様でも注意が必要なんだろう。
「ああ、私はお前がいた世界の神だ。だから勝手に担当外の世界に人を送り込むのはマズいんだよ」
「えぇ……、じゃあなんでわざわざ?」
特別な理由も無くリスクを冒すとは考えづらい。
「それが二つ目の条件だ。とある笛を破壊して欲しい」
「笛を破壊?」
「その笛がものすごく危険でな、あっちの神は放任主義と言うか、不干渉を貫くつもりらしいが、私はあの世界に思い入れがあってな。黙って破滅を見ているつもりは無いんだ」
なるほど、そっちがその気ならこっちにも考えがありますって感じね。
「で、その笛の名前は? あと、場所も」
「場所はどこかのダンジョンの最奥。名前は……私はギャラルホルンと呼んでいる」
「ギャラルホルン……」
北欧神話における終末――ラグナロクを告げる笛。
そしてダンジョン。ファンタジーな単語が出てきた。
「私にラグナロクを止めて欲しいと?」
「ああ、そしてそのためには向こうの神に気づかれないようにしなくては」
「そう、それです。神様を騙すなんて出来るんですか?」
「気づかれないようにすることは可能だ。さっきも言ったが向こうの神は不干渉を貫いている。お前に目を向けなければ気づけない。だが、周りの人間に違和感を持たれると異物として存在が浮いてしまう」
「つまり私はなるべく周囲に違和感を覚えさせずにいれば大丈夫なんですね」
難しそうではあるが無理難題という訳でも無さそう。
笛の破壊の方が大変そうだ。
「やってくれるか?」
「う〜ん、そうですねぇ……」
正直ダンジョンは怖い。モンスターとかいそう。
だけど十代で死んで終わりは悲しすぎる。
あまりにもあっさり死んだもんだから死んだ実感はほとんど無い。
それをもう一度やり直せるなら、不運な私に降って湧いた幸運を掴んでみよう。
「わかりました。転生、させてください」
「ありがとう。契約成立だな」
鋭かった眼を和らげ、手を差し出してくる神様。
私も微笑み返しその手をしっかりと握る。
「なら、前金を払わないとな」
「前金?」
なんだろうと私が聞き返すと神様はニヤリと笑い。
「お約束だろう? 転生特典だ」
「ああ〜」
確かにお約束だけど、最初に話さなかったから無い物だと思っていた。
「なにがいい?」
「幸運が欲しいです!!」
神様の問いかけに私は即答で返すと、神様は少し面食らったような表情をする。
だってそうだろう。最強パワーを手に入れても病気には勝てないだろうし、そもそも今の私の運じゃあ笛なんて一生見つからなそうだ。
運だけで死ぬこともあるんだから、運だけで成功することもあるはず。
「ホントにいいのか?」
「はい! 幸運が欲しいです!!」
「もっと強い能力だって」
「幸! 運! が! 欲しいんです!!!」
「そ、そうか。わかった《幸運》をやろう」
「ありがとうございます!!」
私は神様に深々とお辞儀をする。
私は浮かれていた。
だけどそれも仕方ないと思う。なにせ私は中学生になってからは毎年クリスマスに『幸運がほしいです』と手紙を書きお母さん達を困らせていた。
それほどに幸運に恋い焦がれていたのだ。
つまり今の私は数年来の片思いを叶えた乙女と言うことだ。
はしゃいでもバチは当たるまい。目の前に神様いるし。
「しかしお前は変わっているな、今までは誰にも負けない攻撃力とか、最強の魔法とか、美少女に性転換とか、そんな感じだったぞ」
「あれ? 私以外にも転生者がいるんですか?」
「今はいない。最後の転生者も四十年前に死んだ」
なるほどー。神様結構ヤンチャしてるんですね。
あと、さらっとTS希望者より変人扱いされてません?
不本意極まってるんですが。
「まとめるとお前は異世界に転生し、周りに変なやつと思われないようにしながら、ダンジョンで笛を探す。ってわけだ」
「りょーかいです!」
高校生にして死んでしまった無念を思えば、命がけで次の人生を生きようってもんだ。
「んじゃ早速出発……、の前に少しだけ向こうの常識を教えてやろう」
「あ、そうですね、おねがいします」
「じゃあまず、お前の向こうでの名前は――――」




