第17話 食堂と短剣少女
「それでね、もう、どかぁぁぁんって」
「へー。風の魔法は殺傷力はあるけど、破壊力はあんまないって聞くけど」
「すごいですわ」
「でも本人は、私何かやっちゃいましたか? みたいに平然としてて」
時間は昼。場所は食堂。
アレットちゃんとミリーゼちゃんと合流して、試験のことを話している。
「あ、なに食べよっか」
「わたくしは……ピザにしますわ」
「じゃあ、私はミートスパゲッティにしよ。ルシアは?」
「んむむむむ……お米がない」
この食堂はなぜ米料理がないのか。せめて白米だけは置くべきじゃないのか。いったいなにを考えているのだろうか、これから三年間お米と無縁の生活を送るなど我慢できない。そもそもお米とは――
「おーい、ルシアー。戻ってきてー」
「はっ! 危なかった……ありがとアレットちゃん。私はミートパイを食べよっかな」
「え。半分交換しよ」
「いいよ」
「やたー!」
アレットちゃんは本当に肉が好きだなー。両手を挙げて喜ぶ姿にクスりと笑う。
試験が残ってるけど、全然緊張を感じない。まあ、正直落ちはしないかなって思ってるしね。八歳からずっと鍛えてきたし、ここで落ちるなら私の目的なんて夢をまた夢になっちゃうからね。
「あ、席取った方がいいかな」
「確かに。じゃあ私確保してくるね」
「お願い。注文は任せて」
「頼みましたわ」
アレットちゃんにミートパイを任せて、私は席を探しに行く。
「ん。あそこ空いてるかな」
入り口からだいぶ遠い場所に、四席分のスペースを見つけた。
奥から四つ、他にもまばらに空席はあるみたいだけど、まとまって空いてる場所はなさそう。ここが残っててラッキー。え、まさか《幸運》の力? いや、さすがにこんなショボいことに使われないよね、うん。
「ここ、座っていいか?」
「あ、どうぞ」
私が左から二番目の席に座っていたら、横に小柄な女の子が来た。ソーセージがたくさんの乗ったお皿を持っている。
まだ右の二席は空いてるから、二人の席は残ってる。
「なあ、調子はどうだ? なにで受けてんだ?」
「え? えっと、魔法使いだから後衛で受けてるよ。調子は……まあまあかな」
「へー。どの属性?」
すごいグイグイ来るな……。ただ凄く気になってるってわけではなさそうで、目線はソーセージに向いている。
「火属性。そっちは何の武器使ってるの?」
「短剣」
「じゃあ前衛の試験かー」
ソーセージを頬張ってるから少しくぐもって聞こえた。というかさっきからずっと食べている。そんな急がなくていいのにってくらいに食べるスピードが早い。
すごいスピードでソーセージが減っていくのは壮観だ。
あとそっちから聞いてきたんだから興味を持て。
「おっ待たせー! 席取りありがとー」
「ですわ」
お。二人が料理を持ってきた。
「ほい。ミートパイ」
「ありがと。美味しそう」
「量も多いですわね。わたくし、ピザを食べ切れるか分かりませんわ」
「余ったらもらうよ。ミリーゼの食べ残し」
「アレットちゃん言い方気持ち悪い」
これがミリーゼちゃんに対する通常運転なのが怖いよ。
本人も被害者も気にしてなさそうだけど。アレットちゃんは気にしようぜ。
「友達か?」
「そーだよ」
隣の子がフォークを口に入れながら聞いてきた。お行儀悪い。
「あれ? 話してたの?」
「うん。待ってる間にちょっと」
「へー、よろしくね。私はアレット」
「俺様はノアだ。ノア・クラシュス」
「わたくしはミリーゼですわ。よろしくおねがいしますわ」
急に自己紹介タイム。てか、俺様って言った?
「お前だけ名前言ってないぞ」
「あ、ごめん。私はルシアだよ」
「おっけー覚えた。よろしくルシナ」
「いや、覚えてないじゃん! てか絶対わざとだよね、三文字だよ?」
「いやー人の名前覚えるの苦手なんだわ。ごめんなアキナ」
「一文字もあってなーーーーい!」
「くっくっく。面白いな、お前」
それはどうも。結局お前呼びだし。
「俺様は食い終わったからどっか行くわ。またな」
「はいはい。じゃあね」
嵐のように去っていった……。自分勝手な奴だな。てか、またなって、受かって会おうってこと?
「すごい子だったね……食べよっか」
「ですわね……」
「あ、交換しよ!」
「ちょっと、勝手に取らないで! 今そっちによそうから」
そうして、あっという間に昼休みが終わっていった。
あ、ミートパイは美味しかったよ。
********
「午後の試験が始まりまーす! 後衛組はこちらでーす!!」
「前衛で受けてる方はこっちに来てください!!」
「ヒーラーの方は私についてきてくださーい!!」
お昼を食べ終えて、テラスでお茶を飲んでいたところに案内係の人の声が聞こえた。
「んじゃ、行きますか」
「終わったあとにまたここで会いましょう」
「りょーかい。頑張ろうね!」
「ヘマしないようにねー」
手を振って別れて、それぞれの案内係のいる場所に向かう。
「では、ついてきてください」
案内にされていくと、また訓練場に着いた。ただ、さっきとは違う場所だ。さっきの場所より狭い気がする。
連れてきた流れで、案内の人が説明を始める。
「ここで試験官と模擬戦をしてもらいます。対前衛、対後衛、対複数。三回、戦ってもらいます。順番に呼ぶのでその場で待機していてください」
とのとこだった。
この訓練場には、白線で区切られた四角い囲いが六個ある。おそらく、この白線の囲いの中で戦うのだろう。
その側に二人の試験官が待機している。それとは別に、メモ用紙のような物をも持った人がいる。採点、いや、点数制じゃないなら単純にメモをする人か。
私は三組目になるはずなので、今回もしっかり観察してから、本番に挑みたい。
「では、呼ばれた方は試験官の元へ向かってください――」
********
「ルシアさん、五番へ」
「はーい」
予想通り三組目に呼ばれたので、誰に聞かせるでもなく返事をしてから、五番と書かれた旗がある囲いに向かう。
「よろしくお願いします」
「はい。よろしくお願いします」
「よろしくねー」
待っていたのは、槍を持った男の人と、杖を持ってる女の人。この二人が試験官だろう。
「じゃあ、まずは僕と戦ってもらおうかな」
「はい。お願いします」
「あはは、礼儀正しい子だね」
笑いながら、囲いの中に歩いていく。持っている槍は派手な装飾のない、シンプルなタイプ。おそらく、練習用の武器なのだろう。
囲いの中に線が引いてあって、向かい合わせになってる。奥の線に試験官が立って、手前の線に私が立つ。囲いの外から、女性の試験官が審判役をやるみたい。
「決着条件は、どちらかが白線を越えるか、私が決着だと判断したら終わりです。あと、始まる前に魔法の準備するのは禁止でお願いします」
「わかりました」
「では、始めます。三、二、一、――」
審判のカウントダウンを聞きながら、重心を低くして、杖を構える。
目の前の試験官を見つめる。
左半身を前に出して、槍を両手で握っている。目線は私の顔に向いていて、さっきまでの優しい目から、戦士の瞳に変わっていた。
重心は低く、左足に乗っている。いつでも飛び出せる体勢。
ここまでの思考は約三秒。カウントダウンが終わる。
「――ゼロ」
「はあっ!」
「ふっ!」
開始の瞬間に飛び込んで、突きを放ってきた。
だけど、それは想定の内。地を蹴り、右にステップして躱す。杖は敵に向けたまま。
「はあぁっ!」
「はっ!」
「っ」
が、距離は取れない。突きを放った勢いを殺さず、方向転換して槍が向かってくる。それに私は小さなファイアーボールで返す。体を傾けて避けられたが、突進は止められた。
この隙に、槍の形の炎を放つ。ファイアージャベリンとでも呼ぼうか。
その槍は、敵の胸目掛けて飛んでいく。
が、炎の槍の下を潜って、突きが飛んできた。
――読み通り。
「なっ!」
それは、私の頭上に浮かぶ五つの火の玉に驚いた声。
杖を振ると、火の玉が敵のもとに殺到する。が、
「甘いっ!」
――槍を回して、全部の火の玉を消された。
「嘘っ!?」
両手で持ってた状態から、右手を離して、左手で槍を回転させた。そこからすぐに両手持ちに戻して、突進して来る。どうやったら攻撃が届くの?
いやそれより回避……っ!
「はあっ!」
「あぶっ……」
――チィッ
槍が髪を掠めて、顔の上で火花が散った。体を仰け反らせて、ギリギリで回避したのだ。
だけど、このままじゃ仰向けで倒れて隙だらけになる……!
なら――
「ていっ!」
「なっ!?」
私が取った選択肢は、目潰し。足を振り上げ、上半身が倒れる勢いを使って、テコの原理で土を飛ばしたのだ。
仰向けに倒れ込んだ状態から、手で地面を押して後ろに跳び、距離を取る。
「あっはは! 可愛い顔して、手段を選ばないねえ」
「師匠が幼児相手でも砂飛ばす人だったのでね……!」
「おおう、それは気をつけないと」
呑気に喋ってるようで、その目は私の一挙手一投足に注意を配っている。
私が魔法を使うために集中を想像の中に向けたら、すぐに攻撃をできるようにしている。隙が見つけられない。
――楽しい。
この人は師匠より、弱い。でも、全力を出されたら私は負ける。強い人はいくらでもいる。私は、私より強い人たちを、超えていく。
そう自分を信じられる。それが、なによりも楽しい。
「ボーッとしてると、すぐ負けちゃうよ?」
「負けませんよ」
前世では知らなかった成長の喜びを噛みしめながら、敵に向かっていった。
戦闘描写ムズカシイ……




