第15話 島と苦手意識
「着いたあぁぁぁ!!」
「到着ですわ!」
「疲れた……」
約四時間の船旅を終えて、私たちは目的地に降り立った。
四つのダンジョンと探索者学校がある島、ダロス島。王家の直轄地でもある。
島の外周は岩場になっていて、岩場の隙間に木で足場を設置した場所が船着き場になっている。
「いやー、揺れない地面っていいね!」
「ホントですわ」
「はっはっは! 地面は普通揺れないぞ?」
「私はまだ揺れてる気がするよ……」
確かに、記憶に残るような過酷な揺れだった。とはいえ、アレットちゃんは三半規管弱すぎでは?
と、岩を削って作られた階段を登りながら思う。
階段を登り切るとそこには、様々な色の家が並ぶカラフルな街並みが広がっていた。
「綺麗な街ですわね……」
「壮観だね」
「すっご……」
思わず小学生みたいな感想が出てしまった。
前世では写真でしか見たことがないような、美しい街。
旅の途中にも綺麗な街はあったけど、こんなに感動したことはなかった。
この街でこれから暮らすと思うと、なんとも言えない高揚感があった。
「あんたらが暮らす学校はあそこだ」
ヴィオラさんが指差したのは、標高二〇〇メートルくらいの山。その頂上に大きな建物が見える。
「小さいがあそこら辺にも街がある。そこで宿を取るといいぜ」
「まあ。山の上に街があるのですね。楽しみですわ」
「あれ? ヴィオラさんはなんでこの島に来たの?」
私の質問を受けたヴィオラさんは、目を丸くしたあと、「おお!」と手をポンと叩いて、
「まだ言ってなかったか。アタシはあの学校の生徒なんだよ」
「え! そうだったんですの!?」
「じゃあ先輩かー」
「うへぇ……」
ヴィオラさんとの縁に驚いていたら、隣から小さく唸り声が聞こえた。横を見るとアレットちゃんがすっごく嫌そうな顔をしている。
確かにあんま喋ってなかったから、ヴィオラさん苦手なのかなとか思ってたけど、そこまでか。
「よろしくな。後輩」
「はいですわ! 先輩」
どうやら二人には聞こえてなかったようで、楽しそうに談笑している。
どうしてそんな苦手なのか、あとで直接聞いてみるか……。
「そろそろ向かいましょう。日が落ち始めました」
「あ、そうですわね」
リーシャさんが言うように、もう夕方になっていた。
昼に船に乗って、そこから四時間。あと二時間もすれば完全に暗くなってしまうだろう。
「じゃあ行くか」
「ヴィオラさんもう仕切ってるじゃん」
「道案内が必要だろ?」
そう言ってニヤリと笑う先輩は、返事を待たず、さっさと歩き出した。
自由人か。
********
夜。ミリーゼちゃんや、イリスさんたちが寝静まった頃。
隣のベットに座って、何かを考えていたアレットちゃんに話しかけた。
「ねえ。ちょっと外で涼まない?」
「ん? いいけど、どうしたの?」
「たまにはちゃんと話してみたいなって」
そう言って悪戯っぽく笑いかける。するとアレットちゃんは少し笑って了承した。
場所を部屋のベランダに移すと、アレットちゃんから聞いてきた。
「それで、なんの話?」
その言葉に問い詰めるような雰囲気は感じられず、優しく問いかけてくれた。
「ヴィオラさん。苦手なのかなって」
「あはは、ストレート。……確かに、ちょっと苦手」
バレちゃったか、みたいな雰囲気。本気で隠そうとはしてなかったみたい。
少し考えたあと、思いついていた理由を聞いてみる。
「ミリーゼちゃんが気に入られてるから?」
「おおー。正解」
私に、「よくわかったね」と笑う彼女の顔に後ろめたさは無い。
ベランダのフェンスに腕を置いて、体を外へ向ける。
私も横で同じことをすると、アレットちゃんはでもね、と続ける。
「あの人は悪くないし、私も悪くないと思うんだ」
「そうだね」
「勝手にミリーゼが仲良いのは、私とルシアだけって思ってた。でもあの子はきっと人を惹き付ける。これからは、三人だけの世界じゃないんだ、ってちょっと寂しかっただけ」
「……うん」
その感覚は、少し分かる。私にとっては唯一無二でも、相手にとっては数いる友達の一人でしかないんだなって、思ったことがあったから。前世の友人は人気者だった。だからこそ、私みたいな根暗の友達でいてくれたのかもしれない。
こっちに来て出来た友達の一人は、視線を私に戻して、カッコよく言った。
「でも、あの人もいい人だとは思うから、これから好きになるよ」
「うん。ありがと」
「あはは。なんでルシアがお礼言うの」
「なんとなく?」
「あはははは! ルシアって結構適当だね」
私の不安を吹き飛ばして笑うアレットちゃんは本当に愉快そうで、心配しすぎだったな、と反省。
ま、杞憂ならそれでよし!
「今日は寝よっか。試験に遅れたら大変だ」
「そうだね。おやすみ」
********
「朝ですわ!」
「んむぅ……」
眩しい。頭まで被ってた毛布がない。重い目蓋を開くと、毛布を持ってるミリーゼちゃんが満面の笑みでそこにいた。眩しい。
半分寝ている脳が、二度寝を必要としている気がする。
「もうちょっとだけ……寝たいな……」
「試験に遅れますわよ」
「……ふぇ?」
「十分後に出発しますわ」
「はっ!」
嘘!? あまりにも致命的な情報に慌てて飛び起きる。
ヤバいじゃん! と思って時計を確認すると、時計の針は八時半を指していた。
「……十時出発だったよね?」
「おはよう、ルシア」
声がして、横を向くと、隣のベットでアレットちゃんがニヤニヤ笑っていた。
「ふふっ。見事な慌てようだったね」
「あー」
騙された。確かに寝起きが悪いのは自覚してたけど、心臓に悪いじゃないか。
ニヤニヤ笑いの中に意地の悪さが透けて見える。
「この性格の悪い作戦は……アレットちゃんだな?」
「正解。参謀と呼んでくれたまえ」
「……ばーか」
「はっはっは」
いじけて八つ当たりしてみても、楽しそうに笑ってる。
起こしてくれたのはありがたいけど、絶対他に方法あったでしょ。むかつく。
ちょっと反撃。そう思って、本音っぽいトーンでボソッと呟く。
「……ヴィオラさんみたい」
「はい!?」
「なんでもありませーん」
「ちょっ、どういうこと!?」
いい感じに効いてるな。
私たちのやりとりをミリーゼちゃんは笑いながら見てる。
試験の前でも緊張感なんてものはなく、いつも通りの朝だった。
私たちは朝食を食べてから、試験会場である学校に移動した。
「いやー。すごい人の量だね」
「はぐれてしまいそうですわ」
「あはは。手繋ぐ?」
私は日本でもっとすごい人混みを見てるから、いっぱいいるなーくらいのリアクションだったけど、確かにこっちに来てからここまで人が多いのは初めてだった。
みんな武器を持ってるから、そこは新鮮だね。ちょっと怖いけど。
私たちが受ける学校、探索者支援学校は大陸に何ヶ所かあるらしい。
本校はこのダロス島の学校だけど、離島であること、全寮制であること、寮によって学費が分校より高いこと、などの理由で受験者は分校より少ないらしい。
「それでは、私たちが着いて来れるのはここまでです」
「あ、そうか。ありがとね」
ナナリアたちは受付の列に並ぶ前にお別れだ。
イリスさんとリーシャさんが、頑張ってくだい、と応援してくれた。
ナナリアはなんか……私のこと心配してなさそう。アレットちゃんとミリーゼちゃんに話しかけてる。私は大丈夫だと思ってもらえるのは嬉しいんだけど、もっとエールが欲しい。ナナリアの応援で元気百倍! みたいな。
なんだかんだお世話になったから、喜んでもらえる結果になったらいいな。
「頑張ります」
「安心して待っててくださいですわ」
「うんうん」
「では、終わったら迎えに来ます」
三人は手を振りながら去っていった。
残った三人で顔を見合わせて、頑張ろう! と頷き合った。
さて、行きますか。
今日はバレンティンデーですね。いつかバレンティンSS的なものも書きたいですね『60本塁打打つまで終われまテン』とか。
え、バレンタイン? 知らない子ですね。




