第10話 料理とお出かけ
ある日の朝食後、私は叫んでいた。
「私、料理したい!」
「どうしたの急に」
「あのね姉さん、私思ったんだよ」
「うん」
いまここには私と姉さんの二人だけだ。
その姉さんに怪訝そうな視線を受けながら答える。
「私の舌に合うものを作れるのは私だけなんじゃないかって」
「そう……かもね?」
「だから料理するの」
「それは、いいことね?」
まだ納得はしてない表情の姉さん。
まあ、普通の貴族のお嬢様は料理なんてやらないか。
でもね、私は作りたいんだよ。うっまい塩むすびを!!
ということで時刻は十二時。私はいま厨房にいる。
「お嬢。いったい何を作るんです?」
「ふっふっふ、よくぞ訊いてくれた。今から作るのは――」
「お嬢。口調どうしたんです?」
「へ? いや、雰囲気作り」
「は、はあ」
「ま、いーや。これから塩むすび作るよ」
私と話してる三下っぽい口調の男は家の料理人のジャン。
割とよく話す。
「分かりました……なんで塩むすびなんです?」
「それはね、ジャン。私が食べたいからだ」
「塩むすびが食べたいんです?」
「そうそう、大好物」
「あれ? あっし塩むすびなんて作った記憶ないですが」
「あ」
あ、そっか私、家ではジャンの料理しか食べたことないんだった。
貴族の家では塩むすびどころかおにぎりが出てこない。
「お、お米が好きだから、塩むすびも好きかなーって。あはは」
「確かにお嬢は米のことしか考えてないですよね」
「そんなことは……多分ないよ?」
自信はない。
「じゃあ、やりますか」
「お嬢、作り方分かるんです?」
「あ……」
そこも言い訳が必要だった。料理したことないお嬢様がテキパキ塩むすび握り始めたらびっくりするもんね。
前途多難。自分がどれだけ考えなしか分かってなかったぜ。
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「これで、完成!」
「お疲れ様です、お嬢」
「ジャンこそ手伝ってくれてありがとね」
私たちの前には出来立ての塩むすびが十五個並んでいる。
お父さん、お母さん、姉さん、兄さん、ミナ、ジャンが二個ずつ。
私は三個食べる。太るとか言わない。
結局あれから料理本で見たと言って押し通して、ジャンに手伝ってもらいながら作ってたのだ。
前世では毎日おにぎり握ってたから一人でもできると思ってたんだけど、手がちっちゃくてうまく握れなかった。
いろいろな想定外がありながらもなんとか全員分の塩むすびが完成したのだ。
作り慣れてた塩むすびを作るだけでこんなにボロが出るとは……。
ちゃんと考えて行動しないとバレるのは時間の問題かも。
お米への愛で暴走してしまった。反省しよう。
でも後悔はしてない。塩むすびは神の食べ物。
「できたよー」
「お、できたの? ……なにこれ?」
できた塩むすびを食卓へ運ぶ。
置いたら姉さんが本気でなんだこれって顔して聞いてきた。
貴族の家ではおにぎりなんて出ないからなあ。
「かわいい末っ子ルシアちゃんの手作り塩むすびだよ」
「塩むすび……?」
「ルシア、どうゆう料理なの?」
「塩で味付けしたおにぎり」
ドヤ顔で言い放った私に、兄さんが何か言いたげな様子で確認してくる。
「それだけか?」
「そうとも! シンプル・イズ・ベスト!!」
「そ、そうか……」
なんとも微妙なリアクションの皆さん。
前世でも、好きな食べ物は? って聞かれて、塩むすび! って答えたら、珍しいね、って言われたし。みんな塩むすびをすころうぜ。私の推しは塩むすびです。
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「ごちそうさまでしたー!」
うまかったー!
やっぱり塩むすびは王様ですわ。最強ですわ。マイフェイバリットフードですわ。
まあ、みんなの感想は「塩と米の味しかしない」って微妙な感じだったけど。そりゃ塩と米しか使ってないからねえ。
今度は別のものを作ってみようかなと、次回の計画を立て始める。
前世は包丁を持つとすぐ落としてしまい危ないので、材料を切る必要のない料理ばかり作ってたけど、今世はそんな心配は無用。
リゾット、雑炊、お茶漬け、これから作りたい料理を考えるだけでワクワクした。
ま、米料理しか作るつもりないけどね。お米は正義!!
「ミナ、なんか食べたい料理ない?」
「え? うーん、お肉が入ってるのがいいな」
「なるほど、お肉ね」
ふむふむ。こりゃ丼物かなー。なに丼がいいかしら。
そんな算段を立てていると、ミナがちょいちょいと裾を引っ張って聞いてきた。
「ねえルシア、あした出かけない?」
「ん? どこに?」
「街に行きたいの」
ミナから散歩のお誘いだ。
師匠が来るのは明後日だから、明日は予定なし。それはいいんだけど……今までこんなことなかったよね。急にどうしたんだろう?
「なんで?」
「えっと、なんとなく?」
「ふむ」
困ってる感じの表情で答えるミナ。
これは本当になんとなくなのか、何か理由があるのか。
ミナは嘘つけなそうだし、多分ホントになんとなくなんだろうな。
「いいよー」
「ホント!? よかったー」
「誰かついてくるの?」
「うん。侍女のキアナとナナリアが一緒だよ」
「ん、わかった」
キアナとは私も偶に話す。あっちは遠慮というか、距離がある感じだけど。
ナナリアは最近働き始めた娘だったはず。姉さんの世話をしてることが多い。
「じゃあ、明日の昼ご飯のあとに行こっか!」
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あれから何もなく翌日。
約束通りに四人で今から出かけるところだ。今の時間は十二時過ぎ。
お昼はもう食べてる。
「ミナお嬢様、ルシアお嬢様。忘れ物はありませんか?」
「うん!」
「私も大丈夫。持ってくものないし」
「でしたら行きましょう」
キアナが玄関の扉を開け先に出る。ナナリアは少し緊張した表情でキアナの隣に立ってる。
キアナは二十代後半のお姉さんって感じで、ナナリアはケイ姉さんより少し年上だろうか、十代後半くらいの女の子だ。
「ル、ルシアお嬢様。今日はよろしくお願いします……」
「うん、よろしくー。その髪飾り可愛いね!
仕える家のお嬢様に挨拶。緊張するだろうな、って思ったのでちょっと緩く返事を返してみた。
「は、はい! ええっと、これを買ったのこの街の店なので見に行きますか?」
「おお! いいね、行こっか!」
うん。なんかいきなり口説いたみたいな感じになっちゃったけど、仲良くなれた気がするから結果オーライ。
ナナリアは綺麗で明るい緑色の髪で、紫色のヘアピンがアクセントになっている。
ホント可愛いから。口説いちゃったのもしょうがないからね。
うん。
「ルシア! 行こ!」
「はーい」
止まって話してたら、ミナが振り返って呼んできた。
急かされてしまったので、ナナリアの手を取って歩き出す。
「ルシアお嬢様、その、手を……」
「いいでしょ? ほら、行こ!」
そう言って強引に走り出す。今日はナナリアに甘えまくってやるぜ!




