第9話 再会と約束
時は過ぎて十一月。秋のパーティーの日がやってきた。
あれから師匠は週に一回来て、特訓をしてる。回数が減った分、ハードな訓練になっている。師匠コワい。
何はともあれ。
三ヶ月前とは違い、私はこの日をとても楽しみにしていた。
「ふんふふんふーん、ふふっ」
会場である公爵家に到着した。
最初に来た時は尻込みしていた大豪邸に鼻歌を歌いながら入っていく。
一回会っただけなのになんでこんなに会うのが楽しみなのか自分でも謎だけど、あの子たちとはずっと仲良くして行けそうな気がしてる。きっと女の勘。
お父さんに連れられてパーティー会場へ歩いていると、前方に綺麗な赤髪が見えた。あれは絶対ミリーゼちゃんだ。
どうしよ、駆け寄りたいけどそんなことしたらさすがに怒られるし、大声で呼んだりしたら尚更だ。
これは後にした方がいいかなぁ。
「あ。あの子ってルシアがこの前話してた子じゃないか?」
「うん。そうだよ」
お父さんも気がついたみたい、顔を寄せて聞いてきた。それに頷いて前を向くと、ちょうど振り返ったミリーゼちゃんと目が合った。パッと顔を綻ばせ、うれしそうに破顔する。かわいい。
父親らしき人と少し話してからこちらへ歩いてくる。
「久しぶりですわね」
「うん! 会いたかったよ」
「わたくしも会いたかったですわ」
「ふふっ」
再会の挨拶に、我ながら楽しみにしてたんだなと実感して笑ってしまった。
手を取り合って一通り喜んだあと、並んで歩き出す。
「元気にしてましたか?」
「うん。元気だったよ。……ボロボロな時もあったけど」
「ボロボロ?」
「気にしないでいいよ」
師匠は優しいスパルタって感じで、気遣ってくれるけど訓練は厳しいからなぁ。
疲れてる? 大丈夫? って訊くけど、休もうとは言わない人。
「今日は立食形式みたいですわね」
パーティー会場に着くと、既に会場は賑わっていた。
アレットちゃんいるかなー。
「あっ、アレットさんですわ」
「どこ? あっ、いた!」
ミリーゼちゃんの視線の先にいたのは前より髪が伸びたアレットちゃんだった。
声が聞こえたのか、こっちに振り向く。あっ、という顔をしてこっちに向かってきた。
「二人とも久しぶりですね」
「三ヶ月ぶりだねー」
「会えて嬉しいですわ!」
「はい、私も二人に会えて嬉しいです」
相変わらず大人びてるというか、落ち着いた雰囲気がある。
私の方が長く生きてるはずだけど、今の私より落ち着いてる。
悲しみ……。
「では、食べ物を取りましょうか」
美味しいもの探しの旅へれっつごー。
「この三ヶ月で変わったこととかありましたか?」
「わたくしはカルファー探索記を読んで見ましたわ」
「面白かった?」
「ええ! 仲間と一緒に冒険していく中で成長する、等身大のカルファーがとてもかっこよかったですわ!」
「失敗したり、仲間と喧嘩したりとかしながら精神的に成長する過程を丁寧に書いてくれてるのがいいよね」
「仲間っていいなって思いますよね、あれを読むと」
「友達とはいいものですわ」
などと話しながら、食べ物をよそってく。
ミリーゼちゃんはパンを、アレットちゃんは肉を中心に取っている。
美味しそうではあるけど、彩に欠けている。それでいいのか貴族令嬢。
そういう私もベーグルとクロワッサンとスコーン。パンだらけだ。
お米なら白米、玄米、雑穀米。なんでもござれ全部美味しいって感じだけど、どうにも米が無いとあんまり食欲が湧かないのだ。
仕事しろ三大欲求。
「飲み物は何がいいかなー」
「アセロラジュースがおすすめですわ」
「トマトジュースが一番いいですよ?」
「トマトは苦手ですわ」
「レモネードにしよっと」
人に訊いておきながら全く関係ないものを選ぶという所業。
やる相手を間違えると嫌われるから気を付けよう。
テキトーに飲み物を選んだ後は、席を探して三人で座る。
立食パーティーで固まってるのもどうかと思うけど、子どもだしいいよね。
実際、仲良しで固まってるのは私たちだけじゃ無さそうだし。
「さきほどの話の続きですが、アレットさんは何か変わったこととかありましたか?」
「私ですか? そうですね、あまりないかもです。……ああ、ミリーゼちゃんに倣って星空を眺めて見たんですけど、流れ星を見ることができました」
「まあ! うらやましいですわ。なにか願ったんですの?」
「はい。……でも内容は秘密です」
「むぅ、ケチですわ」
「まあまあ、乙女の秘密は訊かない方が乙ってもんだよ」
二人の会話を聴きながらベーグルを頬張ってた私はごくんと飲み込んで言う。
我ながカッコ良いこと言った思う。拗ねてるミリーゼちゃん可愛いなとかしか考えてなかったのに。
てかミリーゼちゃんに対して何様だお前? しばくぞ。自分だけど。
「良いですわね! 乙女の秘密。素敵な響きですわ」
「ごめんね。いつか話します」
「話したくなったらでいいからね」
「はい。ところでルシアちゃんは何かありましたか?」
「あー……」
どうしよ、めっちゃ色々あったけど話すなら探索者になりたいってことも言わなきゃいけなくなりそう。
まあ、いっか。
「従兄の特訓受けてた」
「特訓ですか?」
「そう。おかげで筋肉痛で動けない日もあったなぁ」
「なんで特訓なんて受けてるんですの?」
「えっとね、ダンジョン探索者になりたいんだ」
そう言うとミリーゼちゃんは大きく目を見張った。
「探索者……ですか」
「うん」
「それは……いいですわね」
「え?」
「だって、仲間と共に冒険できるんですもの。一緒に危機を切り抜けて、仲を深めて、共に悲しみ、共に喜び、時間を共有して。それってきっと素敵なことですわ」
「そ、そうだね」
なるほど、これはカルファー探索記の影響かな?
薄々思ってたけどミリーゼちゃんって仲間とか友達にすごい憧れてるよね。
影響を受けやすいタイプ……騙されないかお姉さん心配。
それにしても、もっとこう、安全な職業を勧められるかと思ってたけど、お父さんも含めてこうもすんなりと応援してくれるのは予想してなかった。
やっぱり私はまだ日本人ってことなのかな。え、まさか死んでもいいと思われてる? いや悪いことしてないし、嫌われてもないはず。
きっと価値観の差だよね。うん。
まあ、受け入れられるのは良いことだし。深く考えてなくてもいいことにする。
と、思考放棄をしたところで、今まで黙って何かを考えていたアレットちゃんがこちらを窺いながら話しかけてくる。
「……あの、ルシアちゃん」
「何? アレットちゃん」
「ルシアちゃんはどうやって探索者になるつもりなんですか?」
「んーと、とりあえずこのまま師匠に鍛えてもらって、いずれは探索者学校に入ろうかなって思ってる」
「実は私も同じで、十五歳になったら探索者学校に入って、探索者になろうと思ってたんです」
「え! そうだったの!?」
「はい。なので情報共有できたりすると思うのでこれからよろしくお願いします」
「そ、そっか。こちらこそ、よろしく」
なんか、アレットちゃんは落ち着いてるから、頭脳的な仕事を目指してるのだと勝手に思ってたんだけど、まさかこんな偶然があるとは。
だとしたらカルファー探索記を読んでたのも探索者になるためだったのかも。
「……ずるいですわ」
「え?」
「二人だけそんな約束をして、わたくしだけ蚊帳の外なんて」
頬を膨らませてミリーゼちゃんが抗議してくる。
嫉妬してるのかわいい。頬を膨らませてるのもかわいい。
真剣に不満を訴えてるミリーゼちゃんには悪いけどかわいいだけで怖くない。
でもかわいいは正義だからミリーゼちゃんの要望には応えてあげたい。
とはいえ、私にはどうすることも……。
「わかりましたわ。わたくしも探索者になります」
「ええ!?」
「ミ、ミリーゼちゃん。こう言うのは慎重に考えた方が……」
アレットちゃんの言う通り、将来なんて勢いで決めるものじゃないだろう。
まだ私たち八歳だしね。……この子たち八歳なのか。
「今じっくり考えた結果ですわ」
「いや、そういうことじゃなくて」
「だって二人だけずるいですわ」
「うっ……」
そう言われると私たちは強く言えない。だってかわいいし。
「と、とにかく、親御さんの許可がないとダメでしょ? だからここで話すより家で家族と話し合ってみたら?」
「それもそうですわね。その代わり、お父様から許可が降りたら二人に混ぜてもらいますわ」
「もちろん。別にミリーゼちゃんを仲間外れにしたいわけじゃないからね」
「じゃあ、約束ですわ」
「うん」
「はい」
約束してしまった。ミリーゼちゃんを仲間外れにしたくないのは本音だけど、正直巻き込んじゃうのはミリーゼちゃんの家族に申し訳ない。
自分で選ぶならともかく、流されて決めちゃうとあとで後悔するかもしれない。それならミリーゼちゃんには悪いけど、親御さんに却下してもらったほうがいいだろう。
なんとなくそうはならないような気がするけども。




