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るろうがぁる   作者: 日暮蛍
ふあゆう
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五十三話 クリムゾン・ビックベルが戦う理由。

「終了ー。【日の島】の将、名無しの権兵衛が指定した全員殺したので【ショケイ】はこれで終わり。帰るね。」


早口でそう言って【巫女】のさんは空飛ぶ円盤に乗ったまま何処かへと飛んで行った。


残った名無しの権兵衛はため息を吐いた。


「あー。疲れた。」


名無しの権兵衛は地面に座り込む。

周囲を見回せば死体、死体、死体。そして嗅覚が麻痺するほど濃い臭いを出す大量の血液が地面や建物に付着して名無しの権兵衛の周囲を赤く染める。


「以外と早く終わって良かった。今日中に帰れるかな。」


大虐殺の前。

【日の島】の将としての特権を使って【ショケイ】を決行した名無しの権兵衛は【火の島】のもの達が逃げ道を塞いでいる間に【日の島】のもの達を殺して周った。

数が多い為長期戦を覚悟していたが【日の島】のもの達は避難場所として夢花の本拠地に固まっていた為、半数以上はその場で殺し、逃げ出したもの達もすぐに追いついて殺した。

一番手間取ったのは流魑縷だ。

流魑縷は隠れるのが上手かった為【巫女】のさんに流魑縷の居場所を携帯端末から教えてもらうまで名無しの権兵衛は探し回った。

流魑縷に手間取ったが最終的には【日の島】に残っていたもの達を全員殺した。


「嫌がらせ、終わるかな。」


流浪ぶっ殺すの会兼夢花に所属するもの達からの嫌がらせを受けてきた名無しの権兵衛は連中のしつこさをよく知っていた。【日の島】から追放したとして、果たして名無しの権兵衛への嫌がらせを止めるのかどうか疑問に感じた。


「終わりますよ。」


その疑問を解消する答えを持って現れたのは名無しの権兵衛を迎えにやって来た文太だ。


「本当ですか?」

「はい。連中は【合戦場】内では【日の島】でしか居場所がありません。それに流魑縷はもう【日の島】の将ではないので【血盟書】での庇護は得られません。」

「【血盟書】? 流魑縷も?」

「はい。天野と契約したから【日の島】のもの達は他の島でも好き勝手に出来たのです。」

「へー。庇護というのが無くなったらどう変わるんですか?」

「天野さんに邪魔される事が無くなるので思う存分今までの鬱憤を晴らせます。」

「なるほど。」


それを聞いて名無しの権兵衛は【日の島】のもの達には対して特に何も思わなかった。強いて上げるならば当然の結果だなという感想しかない。


「本日はお疲れ様でした。この後はどうしますか?」

「お風呂に入って帰りたいです。」

「かしこまりました。後始末はこちらで全て行います。詳しい話は後日行いましょう。日程は後ほど連絡しますので今日はゆっくりと休んでください。」

「ありがとうございます。」


立ち上がった名無しの権兵衛は文太と共に【火の島】へと戻って行った。



◆◇◆◇◆



「ただいま戻りました。」

「おかえり。名無しの権兵衛は?」 

「入浴を済ませた後帰宅されました。」

「そうか。」


執務室で座り心地の良い椅子にもたれかかっていたクリムゾンは文太の報告を聞いて立ち上がる。


「ところで。今井 剣は蘇生されたのか?」

「はい。蘇生後すぐにこちらへ転送させ別室で待機させていました。」

「ん?」


文太の物言いにクリムゾンは首を傾げる。


「ですが見張りの隙をついて脱走しました。」

「え?!」


話はまだ続きがあった。剣の脱走を知りクリムゾンは驚く。


「名無しの権兵衛さんを見送った後に隠れていた剣さんを捕まえて元の部屋に戻しました。」

「そうか。」


話を最後まで聞いたクリムゾンは一安心した。

クリムゾンの反応を見て内心楽しんでいた文太はそれを悟られずにクリムゾンに聞く。


「クリムゾン様。今井 剣に会いますか?」

「もちろん。案内してくれ。」


クリムゾンと文太は剣がいる部屋に向かい、解錠し扉を開けると鉄杭が飛び出してきた。クリムゾンに向かって放たれた鉄杭は文太の札の力で見えなくした【開盲】の刃で防ぐ。

弾かれた鉄杭はそのまま持ち主、剣の元に戻る。


「元気そうだな。」


命を狙われたにも関わらずクリムゾンは【収蟲】を纏い怯えている剣を見て微笑む。


「剣。大事な話をしよう。」


そう言いながらクリムゾンは剣に近づかないまま目線を合わせる為にしゃがむ。


「まずお前は今日から【火の島】の所属になった。何故なら新しい【日の島】の将と交渉してお前の身柄を確保した。」


名無しの権兵衛の名前は出さなかった。名無しの権兵衛の手によって殺された剣にとってその名前を聞いて良い気分はしないだろうと配慮したからだ。

その判断は正しい。もし名無しの権兵衛の名前を聞けば剣は死に際の時を思い出し、恐怖で錯乱して会話が不可能になっていた。


「剣ときょうだい達は俺達の事をどう思っているのかは知らないけど俺はお前達の事を守ろうと思ってる。」

「きょうだいを?」


怯え警戒心を見せていた剣だったがきょうだいの事が話題に上がるとそれらの感情がほんの少し薄れた。


「そうだ。確か箒と縁切と彗と流の四人だったな。そいつらとも話をしたいが、出来そうか?」

「…流となら。少し待って。」


そう言って剣は両目を閉じ、しばらく黙り込む。その間、剣の肉体に変化が生じ剣の肉体が成長する。


「…待たせた。僕に何か用かな?」


そして次に目を開けた時は中身も変わっていた。


「誰だ?」

「流だ。他のきょうだい達は話せる状況ではないので僕が出てきた。」


そう言って流は眼鏡の位置を直す仕草をする。が、眼鏡などかけていない。

その仕草を見て文太は流に質問を投げかけた。


「流さん。質問があるのですがいいでしょうか?」 

「何かな?」

「あなた、ドーン・ブライトさんですか?」


文太の質問に対して流は表情が強張り、どんどん顔色を悪くさせる。


「誰だそれ?」


文太が言った人物名に心当たりの無い様子のクリムゾンは文太から聞き出そうとする。


「前の【火の島】の将の側近だった男の名前です。」

「は?」


文太の言った人物の正体を知ったクリムゾンは表情を消す。


「どういう事だ。先代の関係者も外で殺したはずだろ。」

「それは専門家に聞いた方が早いでしょう。何か知ってますか天野さん。」


文太が天野を呼んだ瞬間


「はいはーい。呼ばれてカミサマ登場!」


突然天野が現れた。

流は一瞬驚きで肩を振るわせたが、クリムゾンと文太は慣れているのかそれに触れる事なく質問を始める。


「天野。文太が言った奴の名前、心当たりはあるのか?」

「あるけど言えないよ。個人情報だからねー。流が良いよって言ったら言うけどさ。」

「そうですか。」


天野の発言を聞いた文太は流に詰め寄り目線を合わせる。


「あなた、ドーン・ブライトさんですか?」


流が何も答えず目線を逸らすと文太は流の両頬を片手で掴み無理やり目線を合わせる。


「おい文太!」


クリムゾンは止めようとするが文太は手を離さない。


「あなた、ドーン・ブライトさんですか?」

「ちが、違う! 記憶はあるが、違う!」


文太の目力に耐えきれなかった流は今度こそ答える。


「記憶はあるが違う。確かに私の知っているドーンさんならこの程度で情報を話しません。ですが、口調もですが先程見せた貴方の仕草はドーンさんがしていたものに酷似していました。その上、【花植】は元々ドーンさんが持っていた刀。偶然だと片付けるには少々気になります。」


文太は流の頬をそこまで強くない力で掴んだまま話を進めていく。


「流さん。貴方の事が気になって気になって、このままでは仕事に手がつきません。なのでどうか天野さんがその事を話す許可をいただけませんか?」

「分かった! 分かったから手を離せ!」


今すぐ文太から離れたかった流が大声でそう言うと文太はすぐに手を離す。再び頬を掴まれたくなかったのか流は即座に文太から距離を取る。


「では許可をもらえましたので天野さん。お話を聞かせてください。」

「いいよー。」


天野は先程のやりとりを見た後でもにこにこと笑いながら話し始める。


「流は箒と縁切と彗と違っていくつもの曖昧な自我が合体させて生まれたんだ。で、その直後に【刀持ち】になったから前の持ち主の記憶がそのまま自我に定着しちゃったんだと思う。」

「なるほど。それで記憶はあるが違う、という事ですか。」


そこまで聞いて文太はクリムゾンの方に向き直る。


「だそうですクリムゾン様。どうされます?」

「全員保護する。」


クリムゾンははっきりと告げた。


「よろしいのですか? 流さんにはドーン・ブライトとしての記憶があり自我もそれに影響しています。」

「だけど流はドーンじゃない。どれだけはっきりとした記憶が自我に刻まれてもドーンが生き返った訳じゃない。」


クリムゾンはちらりと怯えてこちらの様子を伺っている流を見て、再び文太に目線を合わせる。浮かべている表情は怒りだ。


「外で死んだ【刀持ち】は決して蘇らない。知ってるだろ。」

「…おっしゃる通りです。」


文太はクリムゾンに向けて頭を下げる。


「申し訳ありません。少々頭に血が昇っていたようです。」

「気をつけろ。相手は子供だ。」


クリムゾンは怒りを収め表情を柔らかいものにした後、流と距離を取ったまま話しかける。


「流。それに剣、箒、縁切、彗。俺はお前達を【火の島】で保護する。お前達がどれだけ嫌がってもな。」

「…僕が、僕達が憎くないのか? 何故僕達を助けようとする?」


流はクリムゾンに質問を投げかける。それに対してクリムゾンは胸を張ってはっきりと答えた。


「俺は【火の島】の将にして子供達の為の王様、クリムゾン・ビックベルだ。例えどんな過ちを犯したとしても俺は子供を見捨てる事はしない。」


流はクリムゾンの発言に何も言う事が出来ず、黙り込んでしまった。

曇りの無い目。圧倒される程の真っ直ぐな答え。例え願いの力が無くとも答えていたと伝わる程の本気。

勝てない。

武力でも口論でもクリムゾンには歯が立たないと流はこの短いやり取りで思い知らされた。


実際にクリムゾンは行動でそれを示している。

【火の島】では子供の安全を何よりも優先している。子供に害があるとクリムゾンが判断すれば例え実の親であろうと【火の島】にいる事は許されない。例外は無い。

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