五十一話 後始末。
「終了でーす。【カッセン】はこれでおしまいです。皆さん武器をしまってください。」
宙を飛ぶ円盤に乗った【巫女】のさんが拡声器を使って【カッセン】を行っていたもの達に【カッセン】の終了を知らせる。
「えっと。色んな人達が功績を上げたようですけど、全部読み上げるのはめん、大変なので一番目立ったのを読みます。」
気だるさを全面に出しているさんは電子端末から目を離さないまま今回の【カッセン】で一番の功績を上げたものの名前を読み上げる。
「えー。今回の【カッセン】で一番大きな功績を上げたのは、名無しの権兵衛です。皆さん名無しの権兵衛さんに拍手をお願いします。」
さんはそう言うが、現場にいるものや観客達はほとんど拍手をせず困惑していた。名無しの権兵衛が具体的に何を成し遂げたのかまるで分からないものが多いからだ。
「…えっと。カミサマからもっと詳しく話せという命令がきたので今から言います。」
電子端末に表示されているのは《もっと詳しく話しなさい!》という天野の言葉。
さんは面倒くさがりながらも棒読みで電子端末に表示されている名無しの権兵衛の実績を読み上げ始めた。
「名無しの権兵衛さんがしたのは【日の島】の将である今井 剣を討ち取った事です。【カッセン】の勝利条件が将を討ち取ることなので【カッセン】での勝者が名無しの権兵衛さんになります。名無しの権兵衛さんは【火の島】に所属しているのでクリムゾンさんにも褒賞が貰えるそうです。」
そこまで言うとさんは電子端末の電源を切った。
「じゃあ私帰りますね。【日の島】の将が死んだから【ショケイ】中断したし。」
そう言ってさんは始終やる気の無いまま帰って行った。
◆◇◆◇◆
【カッセン】が終わった後に待っているのは膨大な事後処理だ。
さらに今回は想定以上に死人が出てしまった為、人手不足。さらに混乱を避ける為にあらかじめ決めていた指示役のものが蘇生されるのを待たなければならない為、作業が捗らない。
事後処理で忙しなく動いているもの達の騒がしさを感じながら名無しの権兵衛は呼び出された個室に向かい、扉を軽く叩いて入室の許可を取る。
「名無しの権兵衛です。」
「入れ。」
入室の許可を得た名無しの権兵衛が部屋の中に入る。部屋にいるのはクリムゾンと文太の二人だけ。
クリムゾンは触り心地の良さそうな椅子に座っており、文太はその後ろで立っていた。
「取り敢えず、座れ。」
言われるがままに名無しの権兵衛はクリムゾンの向かい側にある椅子に座る。
「用件は?」
【カッセン】には出ないと言ってあったにも関わらず出場した挙句に勝手に動き回っていた事を咎められると思っていた名無しの権兵衛は少し緊張していた。それでも名無しの権兵衛は話を長引かせても良い事は無いと思い自ら切り出した。
「まずは、そうだな。お疲れさんだ。そしてありがとうな。」
そんな名無しの権兵衛の心中を知らないクリムゾンは朗らかに笑って名無しの権兵衛を労う。
「色々と助かったよ。本当にありがとうな。名無しの権兵衛が【日の島】の大将を倒してくれたおかげで結構な得点が入ってきたんだ。」
島の将の下についている【写し持ち】や【刀持ち】が殺し合いで得点を得ると島の将にも僅かではあるが得点が入る。
今回は名無しの権兵衛が【日の島】の将である剣だけでなく四人の【刀持ち】もまとめて斬った為、クリムゾンの元に多くの得点が入った。
「賞品も貰えたし。今回は【火の島】の勝利だな。」
ご機嫌な様子のクリムゾンを見て名無しの権兵衛は少しホッとしたが、まだ緊張を無くしたわけではない。本題はそれではないと薄々勘付いていた。
「それはそれで良いとして、だ。今日ここに呼んだのは聞きたい事があったんだ。」
「何でしょう?」
来た。
そう思った名無しの権兵衛はどんな質問が投げかけられても対応できるよう身構える。
「名無しの権兵衛。お前、【日の島】の将になったよな。」
将を討ち取ったものが新たな将になる。
【日の島】の将であった剣を殺した名無しの権兵衛が自動的に新たな【日の島】の将になった事を当人も知っている。
「その事について詳しく話し合いたいと思ってる。お前のやり方によっては同盟とか色々と考えなくちゃいけないし。」
先ほどとは打って変わって真剣な表情になるクリムゾン。
名無しの権兵衛が【日の島】の将であればこの先名無しの権兵衛と戦う機会が出てくるかもしれない。そう思っているクリムゾンは少しでも名無しの権兵衛と戦う可能性を潰す為に脳内で様々な考えを巡らせている。後ろに控えている文太も隠してはいるがいつでもクリムゾンの助けになろうと神経を研ぎ澄ませている。
「え。用事が済んだら辞めますよ。」
「え?!」
そんな二人の考えを知らない名無しの権兵衛はあっけらかんと言った。
「なんで?!」
「げ。」
名無しの権兵衛の発言の直後、いきなり現れた天野の姿を見て名無しの権兵衛は顔を顰める。
「将になれば色々と出来るんだよ! 手下を従えたり、自分の考えた体制を敷く事だって出来るんだし、本当に色々と出来るんだよ!」
「それが面倒だからやりたくない。」
名無しの権兵衛は熱弁してくる天野の姿を見て心底鬱陶しいと態度と声音で表す。
「でもでも! それでも名無しの権兵衛は今【日の島】の将だよ! 名無しの権兵衛がやらなかったら誰が【日の島】の将をやるの!?」
「用事が済んだら【日の島】、クリムゾンさんにあげるつもり。」
「え?!」
名無しの権兵衛からの申し出にクリムゾンは驚きで声を上げ、文太は目を丸くする。
「待て待て待て! よく考えろ名無しの権兵衛。天野も言ったが将になれば手に入るものが多くなるし、【合戦場】で優位に立つ事が出来るんだぞ。そんな簡単に手放して良いものじゃない。」
戸惑いながらもクリムゾンは名無しの権兵衛を諭そうとした。
「いりません。」
が、名無しの権兵衛の答えは変わらない。
「権力とか地位とか私には邪魔です。」
「そう、か。…分かった。そこまで言うなら献上品として貰う。」
「そんなー。」
名無しの権兵衛の意志が固いと分かったクリムゾンは名無しの権兵衛からの申し出を受け入れる事を決めた。
残念そうな声を出す天野に誰も声をかけず話は進む。
「でもただ貰うわけにはいかないな。【カッセン】で活躍したし、何かしら褒美を与えたい。何か欲しいものはないか?」
「では手伝って欲しい事があります。」
「さっき言ってた用事に関係する事か?」
「はい。」
名無しの権兵衛は伝えた。これから行おうとしている【日の島】の将として最初で最後の活動ついて。
「【ショケイ】で残っている【日の島】の奴らを私が皆殺しにします。」
まず、自分がこれからする事を堂々と言い放った。
「あいつら、今は立て籠っているみたいなのでクリムゾンさん達には【日の島】から出られないようにしてほしいのです。」
次にクリムゾン達に何をしてほしいのか話した。
「【日の島】の奴らを皆殺しにしたら夢花の奴らはもう、私達にあんな嫌がらせはできませんよね。」
そしてこれから行う事への利点を話した。
「お願い、できます?」
名無しの権兵衛の望みを聞いたクリムゾンは深く頷いた。
「うちで全力で支援する。」
クリムゾンの言葉に後ろに控えている文太も反対しない。
「やるなら今日中がいいな。少しここで待っててくれ。人を集める。」
「お願いします。」
「文太。暇を潰せるものをここに運べ。もちろん軽食と飲み物もだ。その後は人員をかき集めろ。事後処理は後回しだ。」
「かしこまりました。」
「名無しの権兵衛。また後でな。」
「はい。」
早足で部屋から出ていくクリムゾンと文太の背中を見送った名無しの権兵衛は椅子に深く座り直す。
「思い切った事するねー。」
まだ部屋にいた天野は先ほどクリムゾンが座っていた椅子に座っていた。
「いても邪魔なだけだし。それにこれであんたへの返済をこれで終わらせられるだろ。」
「そうだね。」
名無しの権兵衛の言う返済。
それは名無しの権兵衛がもう一つ願いを叶える為に交わした天野との契約、【血盟書】の対価だ。願いを叶える為に名無しの権兵衛が課せられた対価は一万人の殺害。
これまで行ってきた【ツジキリ】と【ムソウ】に加えて今回の【カッセン】で名無しの権兵衛は数多く殺してきた。これから行われる【ショケイ】で名無しの権兵衛は累計一万人殺害の悪行に手が届く。
「それじゃあオイラも行こっかな。言いたい事があるし。またねー。名無しの権兵衛。」
そう言って天野はいつの間にか姿を消す。
一人残された名無しの権兵衛はクリムゾンが言っていた暇つぶしの物が来るまでの間、ぼんやりと天井を眺めて待つ事にした。




