四十七話 さびついた蟲。
刀を使って致命傷になるほどの自傷で発動できる【刀持ち】が使える切り札。それを使えば刀が体に同化し強力な力が使えるようになる。
発動させる際、刀との融合率の調整ができる。融合率が高ければ高いほど強い力が発揮できるが、その分体に負担がかかって動かすたびに激痛を感じる。さらに精神にも干渉し破壊衝動に呑み込まれてしまい冷静な判断ができなくなり暴走状態になってしまう。
それゆえ切り札を使う【刀持ち】は少ない。使ったとしてもなりふり構っていられないほど危機的状況のみ。
切り札であると同時に自爆しかねないそれを【刀持ち】はそう気軽に使えない。
頻繁に使っているのは朧のみであり他の【刀持ち】はそんな朧に対して異常な奴という認識だ。
刀との完全な融合状態を十だとすると、以前朧が名無しの権兵衛に対して使った時は三だ。
今回、剣が使った切り札の融合率は十だ。
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それの見た目は白い羽毛に覆われている巨大。
最初は大人よりも上の巨体だった。
「これは、何と言う事でしょう! 【日の島】の将である今井 剣がとっておきを使ったようです!」
それを見たしおんは自分の仕事を全うするため実況する。それが自分に与えられた仕事だから。
「見た目は、ふわふわしていそうです。どんな能力なんでしょうか。」
危険な場所であろうと危険な人物の前であろうとしおんは実況を続ける。それが自分に与えられた仕事だから。
「動き出しました! 今井 剣は次は何をするので」
しおんと他の【巫女】達に戦闘能力は無い。必要無いと判断されたから【巫女】には戦う術が無い。
「しょっ」
だから避けられない。反応できない。
剣の攻撃がしおんに当たる。
白くて長い帯状の布が巻き付いた鉄杭がしおんの喉元に突き刺さり血を吸い取っていく。
しおんは抵抗する間も無く血を吸い尽くされ空飛ぶ円盤から落ちていった。
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今井 剣が金字義 流魑縷から殺し獲った刀の名前は【収蟲】。能力は吸血。
他人から血を奪い吸う事によって力を増していく刀だ。だが見た目は白い着物だ。
着物の帯として巻き付いている白い帯状の布の先には鉄杭がついておりそれを血を吸う対象に突き刺して血を吸う。
吸う血の量によって着物の色が変わり血の量が多ければ多いほど赤く染まっていき身に纏っている【刀持ち】の力が増していく。
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時を少し巻き戻そう。
剣がジェロに攻撃をした時に。
きょうだい達が傷つき悲鳴をあげる。
それが耐えられなかった剣はよく分からないまま流魑縷から殺し獲った【収蟲】を使ってジェロを攻撃した。
そのままジェロもタローも倒そうとしたが、二人には逃げられてしまった。
満身創痍の状態では剣は立つ事すらままならない。呼吸をするたびに体のあちこちから激痛を感じる。
それでも剣は泣かなかった。
大切な家族であるきょうだい達を傷つけ否定したもの達が許せない。なんとしてでも自分達の敵を全員倒してやる。
そのためならなんだってやってやる。
そう剣が思った直後、刀から得た知識から切り札の存在を思い出した。
これを使えば私達の敵をやっつけられる。
そう思った剣は【収蟲】の一部である帯を首に巻きつけて自分の首を締め上げた。
ぎちぎちと締め上げる。当然呼吸がままならず血の流れが悪くなり意識が朦朧とするが剣は首に巻きつく帯に込める力を一切緩めない。
【収蟲】の形が変わっていく。膨らんでいく。剣を覆い隠していく。
【収蟲】の形は丸々変わっていき、着物の形から羽毛が生えた白い人の形をした巨体へと変貌を果たした。
これがとっておきを使った剣の姿。【収蟲】と融合した姿だ。
切り札を使った剣が最初にとった行動は剣の頭上を飛んでいる空飛ぶ円盤に乗っているしおんへの吸血だった。
上空にいるしおんに対して剣は腕を上げ手先をしおんに向ける。すると腕の一部がめくれ上がり白くて細い布が巻き付いた鉄杭へと形を変える。
鉄杭は勢いよく発射され白い布はそれに合わせて伸びていく。鉄杭がしおんの喉元に勢いよく刺さりそのまま一気に血を吸い上げていく。
しおんの血と命を奪い取った剣が次にとった行動も吸血だ。
死体や地面に染み込んでいる血を鉄杭で突き刺して吸い上げていく。
血を吸う度に体が大きくなっていく。最初は大人よりも大きかった程度だったのに今では遠くから見ても分かるほど巨大な存在となっていた。
血を吸えなくなればまた新しい血を吸うために剣は巨体を操り移動する。巨大な分動きは鈍いが一歩一歩が大きいため移動速度自体はなかなかの速さだ。
剣は動くたびに死体や地面に染み込んだ血を鉄杭を針代わりにして吸い上げていきまたさらに大きくなっていく。
血を吸い上げる対象は生きている人も含まれている。
果敢に挑むものも逃げ惑うものも呆然と立ち尽くすものも例外なく剣の近くにいるものは全て血を吸い尽くされていった。
誰も剣を止められない。
「剣兄さん! もうやめてくれ。これ以上は無意味だ。」
剣の別の人格でありきょうだいの一人である流は必死に剣を止めようとする。他のきょうだい達は反応を見せない。名無しの権兵衛達の攻撃によって意気消沈してしまったからだ。
現在、剣に話しかけられるのは流だけ。
だけど剣は止まらない。
「こんな事続けても敵を増やすだけだ。今すぐこれを解除してくれ!」
流は剣に話しかけ続ける。
「…りゅう。」
その甲斐あってか剣は僅かな反応を見せてくれた。
流はこれを逃さず話し続ける。
「そうだよ。僕だ流だ。兄さんの大切な弟だよ。」「おと、うと。」「そうだ! 兄さんの大事な弟だ。」「大事、な弟。」「そうだ。弟である僕のお願いを兄さんなら聞いてくれるよな。」
流は必死で剣を止めようとする。
言葉だけでなく表に出てこようとしたが、剣から体の操作権をとれずこうして話しかけ続けることしかできない。だからようやく反応を見せてくれた剣に流は必死で話しかけ続ける。
「お願い?」「もう大人を殺すのを止めるんだ。父も殺した。兄さんも僕も強い。僕達だけで生きていける。僕達きょうだいだけの家に住んで幸せに暮らそう。その方が有意義だ。」「幸せ。きっと、そうなれば幸せ。」「そうだよ。」
剣の言葉と反応を見て流はいけると思った。このままいけば説得に成功し剣の殺しを止められると思っていた。
「だから」「でも、大人を殺したらみんな幸せ。」「…兄さん?」
だけど、今の剣に説得は不可能だ。
「大人は私達の敵。大人は私の大事な家族を傷つけた。箒も縁切も彗も流も、大人がいたから痛い思いをした。大人は殺す。私達の敵だ殺す。」「兄さん。待ってくれ兄さん! 大人が嫌いなのは僕達も一緒だ! だけど、これ以上殺したら【合戦場】にいる人達が全員敵になるんだぞ!」
流は必死で剣を説得しようと足掻く。
「だったら殺そう。みんな殺そう。そしたら私達は幸せになれる。」
だけど今の剣を言葉では止められない。だって頭の中は大人を殺す事でいっぱいだから。正気で話せているように見えて常に血を吸う事を考えている。落ち着いているように見えて自分の大切な家族を傷つけたもの達に対して凄まじい憎悪を心中にたぎらせている。
とっておきを使った時点で手遅れなのだ。もう剣でも止められない。
「待ってくれ兄さん!」
それでも流は剣を止めようとしたが、その声は剣が巨大な手で生き残っているもの達を何度も押し潰していく音でかき消されていった。




